ばばろあ物語
2001年 06月 11日
ぼくはばばろあ。
今日あるご主人がスーパーからぼくを買ってきたんだ。
ご主人は今日、食べようと思って買ってきたんだけど、
あまりにも疲れていたんで、ぼくを冷蔵庫にしまったまま、食べるのを忘れたんだ。
だからぼくは今日食べられなくって助かったんだ。
でもね、でもね。ぼくは明日になったらきっと食べられちゃう。
せっかく1日、寿命が延びたんだから、
ぼくは今日、死ぬ前にどうしてもやりたかったことをすることにしたんだ。
それは・・・おふろにはいること。
ぷーぷーぷー
ばばろあがおふろにはいるっておかしいかい?
にんげんにもきほんてきじんけんがあるように、
ばばろあにもきほんてきじんけんがあるとするならば、
ばばろあが死ぬ前ににふろぐらいはいったっていいだろ、ぼけなす!
おっといけない。つい興奮してはしたないお言葉が、おほほほほ・・・。
というわけで、ぼくはこっそり冷蔵庫からぬけだして、おふろにはいることにしたんだ。
<2>
どうやってこの非力のぼくが冷蔵庫からだっしゅつしたかって?
それはひ・み・つ。
ご主人一家のみんながねしずまったうつみつどき、ぼくはおふろばに向ったんだ。
家はし~んとしていたけど、おふろばにちかづくにつれて、なんだかさわぎごえが聞こえてきたんだ。
そっとしのびあしでちかづいておふろばの戸をあけると、
なんとそこには、おふろばのどうぐさんたちのえんかいがもようされていたんだ。
おふろばのどうぐさんたちは、めろめろによっぱらっていた。
小さいおけさんがぼくに話しかけてきた。
「なんでババロアがこんなところに来るんだい?」
「おふろにはいりにきたんだ。おかしいかい?」
「そんなことはないよ。おふろばのどうくたちがえんかいをするけんりがあるように、
ババロアがおふろにはいるけんりは当然ある。ぼくらに気にしないでえんりょなくはいってくれ。
にんげんだけが楽しい世の中なんておかしいよ。ぼくらにもじんせいをたのしむけんりはあるんだ」
小さなおけさんとは意見が合いそうだ。
ぼくはなんだか急に自信がわいてきた。
そう、ぼくにもおふろにはいるぐらいのけんりはあるんだ。
そしてぼくはねんがんのおふろにはいった。
ゆぶねにつかったしゅんかん、
「うーんさいこう。さらりーまんの日頃の疲れをおとすにはやっぱりふろが一番だよな」
なんてご主人の口癖をまねしたりなんかして、ぼくははなうたうたって楽しんだ。
<3>
すぐぼくのからだはあったまってきてぽかぽかしてきた。
「死ぬきもちいい」ってきっとこんなかんじなんだ。
っっってそんなことを思っていたら、ぼくはそのままきおくをなくしてしまった。
なんだかとろけていくようなかんかくがぼくにおそいかかって、そのまま気をうしなってしまった。
そう、ぼくはばばろあ。
ねつによわいんだ。
ぼくのからだはどろどろにとけていき、
あとかたもなくゆぶねのなかに消えていってしまったんだ。
ぼくはおふろでこの世の生の終止符をうったんだ。
じさつじゃないよ。
おふろでまさか死ぬなんて思いもしなかったけど、
でも明日ご主人に食われて死ぬのも、おふろで今日死ぬのも、
ぼくにとってはそれほど大きな違いじゃないし、
社会全体の出来事の中ではそうたいしたことじゃない。
強いていうならば、せっかく買ってくれたご主人ががっかりするだろうなってこと。
明日ふろあがりにさあババロアを食べようと思ったら、
どこにもぼくがいないなんて、このよのおわりみたいなショックをうけるんじゃないかな。
でもきっとご主人はまたべつのばばろあをスーパーで買ってくるだけなんだ。
ぼくはばばろあ。ぼくはぼくしかいないけど、ばばろあはいっぱいある。
ご主人は食べてしまおうが、ばばろあがおふろのねつで溶けてなくなってしまおうが、
また別のばばろあを買ってくればいいだけの話なんだ。
ぼくはばばろあ。
とりあつかいには注意してね。
きっとばばろあなかまたちもおふろにはいりたがってるよ。
でもばばろあがおふろにはいって死んだなんて、誰もわかりはしない。
(注)ババロア:ゼリー状の冷菓の一種。卵・牛乳・砂糖を煮て、ゼラチンで冷やし固めたもの。
完