脱出~ベトナム(7)
2001年 06月 24日
夜21時、サイゴン駅発ハノイ行き長距離夜行列車に乗って、
ホ-チミンから北へ約700km先にあるクイニョンという港町をめざす。
「都会より田舎」
ホ-チミンにわずか4時間足らずの滞在ですぐに移動してしまう。
南北に長いベトナムにとって列車は重要な移動手段だ。そのため列車は満席。
12時間の列車の旅だが、寝台席は取れず座席で行く。
列車に乗って一安心したのは、座席だったがエアコン付き車両であったこと。
さすがに30度を越す熱帯夜の中、エアコンなしで列車で夜を明かすのはちとつらい。
列車の移動で危険なのは盗難だ。
ガイドブックにも盗難が多いから注意するようにと書いてある。
しかしこの車両に乗った雰囲気は、そんな危険な臭いが全くしなかった。
座席で夜を明かすという共通の苦難を共にする仲間たち、といった連帯意識が乗客の中に感じられた。
現地の人の中に外国人である僕が乗り込むと、
下心があって親切にしてくれるといった態度で近づくのではなく、
列車の旅を共にする物珍しい珍客に優しく接しようという態度が人々から感じられた。
だから席を外すときも、眠るときにもリュックに鍵をかける必要ないと判断した。
言葉は通じないが、周囲の人はみな親切にしてくれた。
疲れていながら狭い座席で熟睡することもできず、かといって車窓を眺めても広がる景色は闇ばかり。
しかしそれでも知らぬ間に眠りにつき、列車での朝を迎える。
きっときれいだろうなと思っていた。目覚めたときに見る朝日に照らされた車窓の風景が。
起きた時にみた車窓の景色は、想像以上に美しかった。
朝焼け空にどこまでも広がる緑の大地。時折そこを駆け抜ける天笠をかぶった人が農作業をしている光景。
ここは田舎なんだなとなんだか急にほっとした。心和む風景がどこまでも続いていた。
ハ-ドで無茶苦茶なスケジュ-ルだけど、旅には苦難の果てに素晴らしい光景や出会いが待ち受けている。
そのことを僕は知ってしまったから、旅はやめられないし、無理してでも旅をする。
もうここに都会の風景はひとかけらもない。
僕は日本から脱出し、そして都会から脱出し、人間としての「心のふるさと」に帰ってきたのだろう。