好きを仕事にする大人塾「かさこ塾」塾長・カメライター・セルフマガジン編集者かさこのブログ

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2001年 08月 19日

ぶちぎれ

<1>
最近の世の中はちょっと自分の気に入らないことがあると、すぐにぶちきれて簡単に人を殺してしまう。
そんな世の中では、誰一人自分の身に火の粉がかかってくるかはわからない。
僕にもぞっとさせる思いが起こった。

日曜日、夜23時半。モスバーガーで原稿を書いて戻ってきた矢先のことだった。
「ドスーン、ドスーン」とものすごい轟音が鳴り響いた。
一瞬何の音か全くわからなかったが、それが僕の家の戸を叩いていることがわかった。
ギョッとする。叩き方が尋常ではない。
家賃4万5千円の風呂なしボロアパートの木の戸など、ぶち破られそうな勢いだ。

「笠原さん!笠原さん!いるんだろ、あけろ!!」
何の騒ぎだ。男の騒ぎ声がする。身に覚えはない。
しかし帰った頃を見計らった行動は、近所の人であるとしか思えなかった。
もちろん近所づきあいなどない。そもそも表札にも名前は出していない。
ただ郵便受けに書いてあるだけなのだ。

「だれ」僕はありったけドスの効いた声で張り上げた。
男は「いいから開けろ!」とエスカレートして戸を叩き続けた。
僕はこんな時、ついインドを旅した時のことを思い出してしまう。
「目には目を、歯に歯を」である。絶対にこちらが弱気をみせてはいけない。
そう思って「なんであけなきゃいけねえんだよ、ボケが!」と罵声を浴びせたが、相手はエスカレートするばかりだった。

<2>
その異様さに尋常ならぬ気配を感じた。
これはただ事ではない。
僕に心当たりがあるとすれば、楽器禁止と言われているこのアパートでギターを弾いていることだが、
市川の時に注意された教訓を生かして、ピックでガチャガチャ弾くのはやめていた。
それにしたってギターの音がうるさいという注意で、こんなにすごい怒声はあげないだろう。

これはやばい。
僕は場合によっては戸を開けてひとケンカしてやろうかと思ったが、その異様な行動に恐さを覚えた。
もしかしたらどこぞのヤクザが、人違いをしているのかもしれない。
そこへのこのこ戸を開けて出ていったら、とんどもない災難に遭う。
僕は震える手で、「開けろ!」との怒声を聞きながら、110番した。

一刻も早くという思いで住所と名前を告げ、今、戸を恐ろしい勢いで叩く男がいるから
すぐに来てくれと助けを求めたが、警察は至って落ちついている。
「債務のこととがじゃないですよね」
何ぬかしてんだ、この緊急時に。俺はもともと借金取りで、債務者なんかじゃない。
「今お掛けになっている電話番号は?」
おいおい、設置の電話番号なんて覚えちゃいないよ。携帯の電話番号を伝えようとしたところ、
「いや、今掛けている電話番号を知りたいのですが」と悠長なことを言っている。

「あの、もう目の前に人がいて、戸を蹴破られそうなんです。とにかく早くきてください」
僕は恐怖に震えながら、警察が来るのを待ったが、それまでの時は異様に長く感じられたので、
そうだ、すぐ近くにいる大家にも電話を掛けようと大家にもSOSを出した。
またすぐに逃げられるようにと、窓の戸を開けた。
ここから飛び降りれば、いざというとき逃げれるだろうと。

<3>
僕が何も言い返せずに、じっと息をひそめていたら、怒声と戸を叩くのはやんだ。
しかし気を抜いてはいけない。
もしかしたら向こうも息をひそめて入口で待ち伏せしているかもしれない。
僕はいつでも窓から逃げれるように身を構えながら警察を来るのを待った。

5分ぐらいか10分ぐらい後だろうか、再び戸を叩く音が聞こえる。
「どちら」と聞くと返事がなく再び叩く。
「どちら?」と大きな声でもう一度聞くと、「警察です」と静かな声が返ってきた。
僕は「本当に警察ですね」と確認し、はじめはチェーンをつけたまま扉を開けた。
すると間違いなく警察の制服が見えたので、戸を開けた。

「110番通報しましたね。状況を聞かせてください」
僕の唯一の不安は、警察が来た時に男がいなくなってしまうことだった。
そうしたら警察は僕の言葉をまともには聞かないだろう。
警察が帰った後にまた同じように戸を叩かれたらどうしようかとそれが不安でならなかったが、
警察に事情を聞かれているうちに、下で例の男の怒鳴り声が聞こえて、ある意味ほっとした。

「ここに自筆で名前書いてもらえますか」「生年月日、教えてもらえます」
110番通報した人はわかると思うが、警察を呼んだ被害者に対して
まるで容疑者のように慇懃無礼に振舞うのにちょっと驚く。
以前に110番通報した時に「免許証のコピー取らせてくれませんか」と言われて、
ふざけんなと思って断ったことがあった。まるで疑われているのは被害者の自分であるかのようだからだ。

とにかく、ちょっと下に来てください。
例の男が騒いでいる中で、僕をそいつと引き合わせよういうのだ。
僕は一瞬躊躇した。顔を一度見合わせれば、お互い気まずくなるし居づらくなるのではないかと思ったからである。
しかし警察に言われるまま、下に降りることにした。
家を出ようとした時に新聞が投げ散らかされていた。ゴミのことだなっと思った。

戸を叩いた張本人との対面。
僕はたちの悪いいかつい男か、もしくは狂人かのどちらかと思ったが、
見えてみると普通の中年おっさんなのだ。
大家さんもいて警察官も3人いて僕はほっとした。
僕が来るなり男は眼前に迫ってきたので、殴られるかと思い、
殴られる前に殴り返さねばと先手必勝の構えをしたが、警察が押し留めた。

「あんたいつも新聞、ごみに捨ててんだろ。新聞は資源なんだよ。
資源ゴミの日に出せよ。俺はあんたを半年前から知ってるんだ。
だけどいつも遅いからな、ずっと注意したくてもできなかったんだよ」

おいおいなんだよ、そんなことかよ。だったらそんなに興奮せずに普通に言ってくれればわかるだろうに。
「新聞は資源なのに普通のゴミの日に出すなんて非常識じぇねえか、いい加減にしろよ」
「あのね、こんな夜遅く、戸を蹴破らんかの勢いで叩いて怒鳴り声をあげる方が非常識ってもんだろうが」
互いに険悪のムードが漂うが、警察もなんだこんなことかと思ったらしく、仲裁に入る。

「わかりました。じゃあ笠原さんは、ゴミのルールを守って、新聞は資源ゴミに出してください。
それからおたくさんは、注意するにしても夜遅くに騒ぎ立てるのはやめてください。わかりましたね」

中年おっちゃんもちょっと落ちついて反省の色をみせたので、まあ僕としてもいわれていることは僕が悪いので謝った。
「いやあ、わたしもね、警察が来るとは思わなかったのでちょっとびっくりしましたよ」
「それにしてもずっと注意したかったんです。きっとこんなだらしない奴、
茶髪でへんてこな髪型していて、目つきの悪い奴かと思って、注意するのにあんな声を出してしまったんです。
なんだ、見たら笠原さんっていい人じゃないですか」
「そうですよ。笠原さんっていい人なんですから、言えばわかる人なんですよ」
大家さんがすかさず言葉を入れてくれたのはうれしかった。
僕も謝り、向こうも謝って、これで一件落着となり、日曜日の夜の騒ぎは終わった。

<4>
ほんと恐いですね。世の中って。
たとえばこれがもっと変な人だったら、新聞のゴミの出し方のせいで僕が戸を開けた瞬間ブスっと刺されているかもしれないし、
もし僕が変な人だったら、注意されたことに腹を立ててブスっと刺しているかもしれない。
ほんとその辺は紙一重の世の中に生きてるんです。

でも逆にこうして面と向って話し合えば、お互いにわかりあえるということもあると思いました。
向こうは向こうで、とにかくひどいだらしのないたちの悪い奴だと思い込んでいて、
こっちはこっちで、えらい恐い奴だと思い込んでいたが、
こうして互いに話し合うことで理解がしあえたんです。
その当事者にわって入った大家さんと警察という存在も、場を静めた効果はあったと思うのですが。

でもほんと一瞬、戸を叩かれわめかれた時は、生きた心地がしなかったですね。
恐怖にあんなにもかられるなんて。
「ゴミの出し方が原因で殺人事件」なんて翌朝の新聞に載らなくってよかったですよ。全く。


by kasakoblog | 2001-08-19 15:24 | 一般


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