好きを仕事にする大人塾「かさこ塾」塾長・カメライター・セルフマガジン編集者かさこのブログ

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2001年 10月 12日

喪失の国、日本

実に興味深い本に出会った。
「喪失の国、日本」(M.K.シャルマ著・山田和訳)である。
インド人エリートビジネスマンが日本での赴任経験を語った体験記。
よく外国人から見た日本体験記で、ただおもしろおかしいものならいっぱいあるが、
この本が類書と違うのは、日本の社会のあり方に対しての指摘が、実に示唆的なのだ。
それはこの著者が、高度な教養と問題意識を持っていたからだろう。
この本を21世紀に日本の社会構造改革の参考書の一冊に加えたいぐらいだ。

インドに詳しい訳者が序文で、この本の狙いをこう語っている。
「日本人旅行者や滞在者が、インドで味わうあの強烈な文化的違和感(カルチャーショック)を、
日本を訪れたインド人もまた逆のベクトルで感じることは疑いないと思ったからである」
まさしくその狙い通りの本となった。

その中で今回は、日本特有の文化的差異を感じたことからの日本に対する有益な示唆ではなく、
西洋的価値観に対する実に的を得た示唆を紹介します。

●市場調査会社に勤める彼が日本に派遣された理由について
「雑誌に載っているような日本経済の最新情報ではなく、
これからつき合う国との文化的ギャップがどのようなものかを知ることだ。
理解を超える部分や感覚の実態を知ることが、相互理解の可能性につながる」

インドネシアの味の素が、豚の成分を使っていたということで、
イスラム法に触れるという問題が今年起こった。
またマクドナルドのポテトの成分についても同種の問題が起こっている。
異文化に対する無理解が、暴動にまで発展したりする原因となるのだ。
相手の感覚的な部分を理解せずに経済進出するから、トラブルが絶えないのだろう。

●経済の繁栄について
「外資の導入による繁栄は、じつはみせかけの繁栄にすぎないのではないだろうか。
「近代」という概念は、欧米がアジアに押し付けたエゴイズムに過ぎないのではないか。
幸福の意味について近代的な価値観で解釈しすぎる。」

アメリカがあれだけイスラム教国から恨まれるのは、
アメリカ的価値観を一方的に押し付けようとしているからではないだろうか。

●はじめて国際線の飛行機に乗った時に、アメリカ映画を見て
「インドが市場開放の路線を選択したということは、近い将来、
このような映像(アメリカ映画)にさらされるということだ。
おそらく保守的な人々による放送局などへのテロが起きるのではないか」

先進国では当たり前のように垂れ流されている過剰な映像。
暴力シーンやセックスシーンなど。
所変われば、これだけでテロの対象となるぐらい、反動的に映るのだ。

●これからインドが近代化をめざすにあたって
「愚かで貪欲な人は、平和を求めるがゆえに経済発展を望み、
経済発展を望むがゆえに政治力を求め、政治力を求めるがゆえに軍事力を高める。
その結果、幸福を得るために集められた金は、再生産しない兵器の購入に消えてしまう。
今の世界がこの無意味な「大口消費」を最終段階とする構造を持っている限り、
幸福のための資金はいつまでも無限の闇に吸い取られていく」

アフガニスタンへの空爆をしているアメリカに対して、テレビである評論家がこんなことを言った。
「一番バカを見ているのはアメリカ国民だ。湾岸戦争にしても今回の空爆にしても、
莫大な税金が意味のない人殺しのために使われている」
戦争をでっちあげ軍需産業に税金を投入して賄賂を受け取る。
再生産しない兵器というのは、民衆の幸福を圧迫していることに早く気づくべきだ。

●自由について
「21世紀に入って、人々は「絶対的な自由」が「決定的な悪」を社会に誘い込むのを見、
自由を語るものが最も危険な(ファッショ)な人物であることを知る。
壮大な自由の実現とともに壮大な悪が不可避的に跳梁し、
忌まわしい悪の華が地上最後の華を咲かせ、人類は破滅に向かう」

まるで今のアメリカを予言しているかのような言葉だ。
「自由のために戦い」と称するアメリカの軍事行動によって、
戦争は単に対テロリストにとどまらず、罪のない一般市民を巻き込み、隣国に紛争の種を撒き、
様々な産業にダメージを与え、そしてさらなるテロの恐怖に全世界を巻き込んだ。


この本が書かれたのは10年ぐらい前だが、こうして本文を抜粋してみると、
今の世界構造を理解するのに示唆的なことが、よく散りばめられている。
西洋的価値観を持たないインド人からの指摘は、
イスラム教国の根強い反米感情を理解するヒントとなるのではないだろうか。


by kasakoblog | 2001-10-12 18:25 | 書評・映画評


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