好きを仕事にする大人塾「かさこ塾」塾長・カメライター・セルフマガジン編集者かさこのブログ

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2001年 11月 10日

「世界は幻なんかじゃない」辻仁成著

<1>
写真は実にいいですよ。雰囲気がすごく出ていて。
文章を書いた人が撮っているから、写真がうまく文章と溶け込んでいるのでしょう。
別にカメラマンをつければ、写真の質はあがるのでしょうが、文章との調和が薄れてしまう。

「自由とは何か」をテーマにしたこの本。
妻と子供をおいてニューヨークで一人暮らしをはじめた著者が、
20年前、ソ連軍機を携え家族を置き去りにしてアメリカに亡命した男ペレンコに会い、そしてインタビューする。
アメリカ大陸を横断する鉄道に乗って旅するテレビの企画のついでに、
その最終地点で彼にインタビューすることになったのだ。

大陸横断鉄道で各所をまわりながら、「アメリカとは一体どんな国なのか」ということを、
否応なく考えさせられる。アメリカを考えることが、自由を考えることにもなる。
家族を捨ててまで自由を求めて亡命したペレンコの思いを、必死になって聞き出そうとするが、
著者の試みはことごとく裏切られる。
亡命から20年の歳月が過ぎた今では、彼はもうすっかりアメリカ人として普通の生活を送っていた。

著者が聞き出そうとする過去の思い。
しかし彼が答えるのは、今の自分のビジネスの宣伝ばかりだった。
家族を捨ててまで自由を求めた結果をどう思っているのか、聞きだすことはできなかった。
敵国から来たソ連人は、アメリカという世界の超実験的多民族幻想国家の中で、機会を与えられ自由を得たのだ。
ソ連から来た彼の「アメリカ評」はアメリカという国を実に端的に言い表していた。

<2>
この本はある意味では失敗だった。
自由・民主主義を標榜するアメリカとはいかなる国家なのかをテーマにし、
著者が家族を日本においてまでニューヨークで生活しているその答えを、
ソ連からアメリカに魅せられて亡命したペレンコのインタビューで代弁させるという、
そのはっきりした構成が曖昧になっていたからだ。
特に予想に反してインタビューでペレンコが家族の思いをあまり語らなかったことで、
この本のテーマは完全に失敗してしまった。

しかし「アメリカとはいかなる国家か?」を主題にすれば、
著者がアメリカに一人暮らししていることも、ペレンコがアメリカに亡命したことも、
うまく言い表せたのではないか。
ペレンコの予想に反したインタビューで主題をうまく代えれば、
本としての構成はしっかりしたのではないだろうか。
ただ何にせよ、著者がなぜ家族を捨ててアメリカで暮らしているかという思いを、
アメリカを旅する中でもっと盛り込むべきだったように思う。

そうすれば、かつて藤原新也が全東洋をまわったあとに辿りついた結論として、
今の世界に圧倒的な影響力を施しているアメリカを見、
そしてその実態をまざまざと写真と文章によって見せつけたように、
この書も「自由」や「民主主義」といった価値を世界に広めようとしている
アメリカとはいかなる国かを知る書になりえたのではないだろうか。

僕もうすうすは感じている。
この世をあらぬ方向に持っていっている、
極端な価値観で世界を席巻しようとしている源がアメリカにあることを。
そのアメリカを、僕もいつか見に行かなければならないだろう。


by kasakoblog | 2001-11-10 20:12 | 書評・映画評


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