2001年 11月 27日
神の子どもたちはみな踊る
・総評
「地震のあとで」というタイトルで連載された、阪神大震災をテーマにした短編6作。
地震をテーマといっても、深刻さや重さが漂うテーマ設定ではなく、
日常生活における人間の感情レベルでの地震に対するスタンスを捉えている。
むしろ地震をテーマにしているというより、短編の話に地震を絡めただけという感じ。
こういったアプローチはある意味では非常に斬新かもしれない。

・UFOが釧路に降りる
突如、離婚を宣告された夫。妻はずっと地震報道に釘づけになっていた。
それがあたかも離婚の原因かのように。
地震は、それがたとえメディアを通していたとしても、現代人の価値観を大きく揺さぶった事件だった。
「空気のかたまり」「中身がない」と言われて置いて行かれた夫は、突如の離婚に精神的ダメージを受ける。
その傷を癒すために出掛けた北海道で、一人の女性と出会う。

「思うんだけど、今の小村さんに必要なのは、気分をさっぱり切り替えて、もっと素直に人生を楽しむことよ」
この女性のセリフは、地震で崩壊した都市の風景と、結婚生活の崩壊が重なる小村に、
そして今の日本人に対する一つのメッセージではないだろうか。

・アイロンのある風景
海辺で焚き火をする謎の男。神戸に別れた家族を置いてきた。
地震が起きて動揺はしているが、連絡はとらない。
ふと人生の空しさみたいなものが一挙に押し寄せてくる。
「火ゆうのはな、かたちが自由なんや。自由やから、見ているほうの心次第で何にでも見える」
焚き火をするためにここにいるという男。
そして漠然とだが人生に虚しさを感じている女性と焚き火フレンドになる。

「私ってからっぽなんだよ」
「どうしたらいいの?」
「そやなあ…、どや。今から俺と一緒に死ぬか?」
「いいよ。死んでも」
-現代人の心に常にまとわりついている虚しさが、大地震を契機に決定的になったことを物語っている。

・神の子どもたちはみな踊る
地震とはほとんど関係ない話だが、現代的な宗教をテーマにした短編。
不遇に生まれた子供を女手一つで育ててこられたのは「宗教」との出会いがあったから。
「母は教団でいちばん布教の成績がよかった」という一文などは現代宗教を端的に表している。
そんな宗教でも母を救っていることには間違いなかった。

母の生き方は宗教を選び、息子は信仰を捨てた。それは当然といえば当然だった。
人それぞれに宗教という方便が意味をなす場合となさない場合とがあるからだ。
そんな息子が出生の秘密を探って、しかしその手掛かりが消えてしまった時、自分のその行為の意味を知る。
暗闇を追いまわしてさらに深い闇に落ち込んだのだと。
これ以上ない闇までおちたとき、はじめて彼の目の前に晴れ渡った心が広がった。
人間の心は石ではないと。

「神が人を試せるのなら、どうして人が神を試してはいけないのだろうか?」
誰もいない野球場で「神様」とつぶやくラストシーンが、物語の奥行きを感じる。

・タイランド
村上春樹の小説で海外が舞台になっているのをはじめて読んだ気がした。しかもヨーロッパではなくアジア。
タイに行っている間に神戸の地震を聞いたさつきは、
別れた夫が神戸に住んでいるので地震に対してこう感想を吐露している。

「あの男が重くて固い何かの下敷きになって、ぺしゃんこにつぶれていればいいのに。
それこそが私が長いあいだ望んできたことなのだ」

地震によって最愛の人を無くした悲しさばかりが取り上げられる中で、
中にはこう思っている人もいるのだという話を書いたのはおもしろい。
しかし、さつきの憎しみからは何も生まれないことを知った、
タイでの車のドライバーが小さな村の占い師のところに連れて行く。

「あなたの身体の中には石が入っている」
長い間、胸に抱えて生きてきた重く堅い石。
それを捨てて新たなに生きなければ、死んで焼かれた時に石だけが残る。

「生きることと死ぬこととは等価なことなのです」
生き方と死に方。過去の囚われ人。
人の生き方を示唆する、タイという仕掛けをうまく利用した小説。

・かえるくん、東京を救う
東京に地震が起きるという情報をもとに、かえるくんと銀行員がともにみみずくんと戦うという話。
ともに戦う当日に銀行員が銃で撃たれて重体になるという話の意外な展開はおもしろかった。
かえるくんの命を犠牲にした戦いによって東京は地震を防ぐのだが、
カタストロフィー願望のある僕もしくは多くの今の日本人にとっては、
東京が救われたという話より、地震が起こってしまったという話の方がよかったのではないかと思える。

・蜂蜜パイ
村上春樹の典型的小説。物書きの主人公は、仕事は着実にこなすが、派手さはなく、
特定の女性を見つけることができず、毎日の生活を過ごしている。
そこに学生時代の三角関係の話が登場し、今やっと自分の意志を表明することができ結ばれる。
よくこの手の小説を書いている。まるで自分の姿のありのままかのように。

子供へのお話という仕掛けを作って、そこに現実の人生と重ね合わせていく物語はおもしろい。
地震については全く関係の無い話。
(地震おじさんなんてものが出てくるが、この話には無用と思われる)


by kasakoblog | 2001-11-27 20:54 | 書評・映画評


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