2001年 12月 10日
「海峡の光」辻仁成著
最近はまっているのが辻仁成である。
今話題の映画「冷静と情熱のあいだ」で江國香織と共著した作家だ。
その本を読んだのがきっかけで、他の作品も読んでみようと思った。

実はあまり辻仁成にはいいイメージを持っていなかった。
ロックバンドをする傍らで作家になったという経歴と、ちゃらちゃらしたその外見から、
実力はないがただ人気と話題のある作家なのだろうと思っていたからだ。

しかししかし、この「海峡の光」を読んでびっくり!
文章もうまいしテーマもおもしろいし、展開もおもしろい。
この本が芥川賞受賞作品だと読んだ後に知ったが、納得できる完成度。
それ以後、辻君の作品を次々と読んでいる。
「冷静と情熱のあいだ」のような、若い女性受けを狙った軽いノリの恋愛小説とは全く別人と思える、
完成度の高いこの作品を紹介したい。

函館の刑務所を舞台。
刑務官と犯罪者が、小学生時代のいじめられた子といじめた子の関係だったという18年ぶりの偶然の再会から、
その人間の本性ともいうべき歪められた心理を追っていく物語。
何か起きそうで何事も起こらない、そんな日々の緊張感が、
作り話的な小説っぽくなく、リアリティがあり、人間の内に潜む日常を見事に描き出した作品だ。
ただ最後に出所する時に刑務間を殴ってしまうという部分だけは安直すぎた感は残ったが、
全体としてのストーリー展開は実に緊張に満ち溢れて良かった。

監視する刑務官は、一生刑務所からは出られず、社会の模範として常に社会から監視されるという皮肉。
「受刑者たちが自分よりも広い世界で生きてきたような気がする」
刑務所という実に狭い社会で、一元的な社会規範を押しつける刑務官という仕事。
「彼らの狂気じみた人生の道程を聞くたびに、常識の中でしか世界を把握できない自分が、
彼らの何十分の一も世間に媚びた存在にしか思えないのはなぜなのか」
そんな社会への閉塞を感じる刑務官は、この街から抜け出したいという焦燥にかられる。

「私は一生刑務所の囲いの中で生きなければならないのか。
どこかに逃げるのではなく、この限られた街の中でパラレルに存在する、もう一つ別の世界を築きあげるのだ」
-そんな思いが水商売との女性との出会いとなる。

函館の青函連絡船の廃航。
連絡船から刑務官への転職。
かつて恋人だった女性の船での自殺。
様々な問題の種子はばらまかれていく、その緊張をはらんだストーリーが、先へ先へと読者を誘う。
160ページもの短編だが、実に人間模様をよく描き出した作品であるといえる。


by kasakoblog | 2001-12-10 21:05 | 書評・映画評


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