2011年 03月 08日
音楽業界の構造改革~メリディアンローグ・インタビュー1
この10年でCDの生産数量は半減。
音楽のネット配信も頭打ち。
音楽業界は“死んだ”のだろうか?
音楽で食っていける手段はないのか?

いや、そんなことはない。
時代の変化に対応した新しい音楽ビジネスモデルが、
まだ確立されていないだけではないのか。
CD販売に頼らない、音楽ビジネスモデルの構築――。

それについて1つの答えを出したのが、
バンド、メリディアンローグだ。
彼らがたどり着いた答えが、
メルマガ登録による音源無料配信システム、
オープンド・アーティスト・システム=OASだ。

メジャーデビューしていたメリディアンローグは、
2010年12月、所属事務所との契約をやめ、
インディーズに戻っただけでなく、
メルマガ登録による音源無料化を掲げた、
オープンド・アーティスト・システム(OAS)構想を発表。
OAS普及のために2011年2月に株式会社ワールドスケープを設立した。

OASとは何なのか?
音源無料化でアーティストは食べていけるのか?
バンドの活動とOAS普及活動は両立できるのか?

メリディアンローグのメンバーであり、
株式会社ワールドスケープの代表取締役社長の海保堅太朗氏、
取締役の齊藤涼氏、取締役の長田秀人氏に話を聞いた。
(取材日:2011年2月23日)

※音楽業界の現状の問題点については
http://kasakoblog.exblog.jp/14372522/

※メリディアンローグがOAS立ち上げに至るまでの経緯
http://kasakoblog.exblog.jp/14322536/

■論点1:音源無料化でアーティストは食べていけるのか?
●1:既存モデルではどうやっても食っていけない
頭の固い人たち。常識に縛られた人たち。
既得権益を持つ人たちなら、OASについて、
「音源を無料にしたら、アーティストは食えなくなるに決まってる!」
と否定的に思うかもしれない。

しかし本当にそうだろうか?
CDを売ってもアーティストに入る収入は定価の1~5%程度。
毎年10万枚の大ヒットアルバムを出し続けても、
バンド3人なら1人年収500万円に過ぎない。
つまり、このままでもアーティストは食えないのだ。

メリディアンローグのメンバーが、
「もうこのままではダメだ」と思うのは当然だ。

なぜアーティストの収入が少ないかといえば、
従来の音楽ビジネルモデルに問題があるからだ。
一言で言えば中間業者が多い。
事務所、レコード会社、音楽出版社、
CDプレス会社、運送業者、CD販売店舗。
リスナーが支払っているCD代のほとんどは、
アーティストではなく中間業者に入るのだ。

ではアーティストが音楽で食べていくにはどうしたらいいか?
その答えをメリディアンローグのメンバーはこう考える。

「中間マージンを限界までカットする。
もっと具体的に言えば、
アーティストがなるべくダイレクトにリスナーに音楽を届け、
リスナーはなるべくダイレクトにアーティストにお金を払う、
という形を作る、ということです」
そのシステムこそOASだ。

●2:音源無料化によるプロモーション戦略
ならばアーティストがリスナーに直接、
ホームページ上で音楽有料配信をすればいい、
と思うかもしれない。

しかし聴いたこともない、
名前も知らないアーティストの音楽を、
一体、誰がお金を出して買うのだろうか?
というよりそもそも知らないアーティストのホームページに、
たどり着ける人は少ないだろう。
しかも音楽という商品はやっかいで、目に見えることができない。
聴いてみないとわからない。

だから従来の音楽業界も、
有名アーティストであっても、
音源を“一部無料化”することで、
多くの人に音楽を聴かせることで、CDを買わせていた。

CMタイアップもそうだし、
テレビや映画の主題歌に使うといった手法もそう。
最近ではYoutubeでのプロモーションも目立つ。

そのためヒットソングは、
CMを聴いただけで強烈な印象に残る、
15秒のサビが勝負といった音楽の作られ方をしてきた。
初期のミスチルだってそう。
桜井さんが自分たちバンドが売れるためには、
15秒で強烈な印象に残る曲を作らねばならないと、
曲を書いていき、それでヒットした。

ミスチルの過去のインタビュー記事には、
2ndアルバム「KIND OF LOVE」(1992.12.1発売)について、
こんなことが書かれている。

大ヒットを狙う桜井さんは、
いい曲を作っているという自信はあったが、
ブレイクするきっかけはタイアップにあると考え、
レコード会社に「タイアップ取ってくれ」と言ったという。

タイアップの世の中だった時代、
「だったら15秒の中で俺も勝負してやる」
と、秒数測って曲を書き、
15秒の中で活きる曲をプールしておいたという。

かつてはそれが成功した。
でもこうした部分だけ聴かせる手法で、
リスナーがCDを買うことは少なくなったのではないか。
ネットにいけば、違法・合法を問わず、
フルの楽曲が聴けてしまうからだ。
音源もコピーし放題。
一度、音源が出回ったら、あわてて削除したところで、
音源の無料放出を止めることはもはや不可能な時代になっている。

そこでメリディアンローグのメンバーはこう考えた。
「もう、音源を「売る」という意識は捨てましょう。
「音源は無料」と割り切るのが、
オープンド・アーティスト・システム(OAS)のひとつのキーポイントです。
無料化してしまうことによって、
違法コピーももはや意味を持たなくなります」

OASとは、メルマガに登録したリスナーに、
毎月~3ヵ月に1度ぐらいの頻度で、
新曲を無料で配信するというものだ。

「音源は収入を得る手段ではなく、
プロモーションの手段として、
できるだけ多くの人に聴いてもらうことが大事です。
それによってライブの動員数やグッズの販売、
さらにはさまざまな特典がつく、
有料会員=ファンクラブ会員数の増加で、
アーティストが収入を得ればいい」

フルで完全な音源を無料で配信し、
ファンを増やすことで収入を得るシステムは、
今の時代にあった極めて合理的ではないか。

●3:有料会員により収入を得る
ネット業界などのビジネスモデルは、
一部の有料会員の収入と広告収入により、
多くの人に無料でサービスを提供する、
“フリービジネスモデル”だ。

mixiやブログなんかがそう。
多くの人は無料で使える。
でも一部の有料会員の収入と、
広告収入によってネット企業は収入を得ている。
もしmixiやブログが利用料金有料だったら、
多くの人はやらなかったのではないか。

無料なら多くの人が登録する。
多くの人が登録したなかから、
さらなるサービスの充実を求めて、
そのお金を払ったり、有料会員になる。
多くの人が登録していれば、
それだけ広告的価値が上がり、
広告収入が入ってくる。

しかしこのようなシステムが音楽業界にはまだない。
そこで彼らは「ならば自分たちでそのシステムを作ればいいじゃないか」
と考え、OAS構想を発表した。

メリディアンローグがOASを立ち上げたのは、
自分たちがこの先も音楽活動を継続的に行っていくために、
今の時代にあった収入が得られるシステムが必要だったからだ。

「今の音楽業界のビジネスモデルのままでやっていても、
音楽で食べていける未来の展望はないと感じました。
もうこのままではダメだ。
何か新しい仕組みを考えなければならない。
メジャーデビュー経験もし、
さまざまなアーティストの現状も見たなかで、
アーティストにとってもリスナーにとってもよい、
音楽システムは何かを考え、たどり着いた答えがOASでした」

OASでどうやって食べていけるのか?
その肝は有料会員=ファンクラブ制度だ。

新曲の音源を無料にすることで、
無料会員を増やし、その中からファンになってくれる人を増やす。

コアなファンにはさまざまな特典がついた、
有料会員制度=プレミアム・サポーター制度を用意。
言ってみればファンクラブみたいなもので、
音源無料をパッケージにしたCDを無料でもらえるとか、
ライブDVDを無料でもらえるとか、
ライブチケットを無料でもらえるとか、
さまざまな特典をつける。

例えば有料会員費が月額500円、年間6000円の会費とするなら、
有料会員=ファンが5000人いれば、年間3000万円の収入になり、
バンド3人で割っても1人年収1000万円になる。

既存のビジネスモデルでCDを5000枚売っても、
アーティストに入る収入は75万円程度にしかならない。
逆にアーティストが1人年収1000万円、
年間3000万円の収入を得るには、
毎年20万枚の大ヒットアルバムを出し続けなければならない。

しかしOASによりアーティストとファンがダイレクトにつながり、
会費収入が中間搾取なくアーティストの収入になれば、
特典のための実費の支出があるにせよ、
その大部分はアーティストの収入になるのだ。

●4:残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
ただここで勘違いしないでほしいのは、
アーティストが儲かるためだけに、
中間業者をのぞいて、OASがあるわけではないということだ。

「良いアーティストが、経済的にも評価される世界にしたい。
僕たち3人は、相談や調査を重ねながら、
新しい音楽販売ビジネスモデルについて徹底的に考えました。
それは、お金が儲けたかったからではありません。

どんなに素敵な音楽を作っても、
どんなに多くの人の心に響いても、
アーティストは全然収入が得られない、
生活のために別の仕事をしながら、
合間に音楽活動をするしかない。
そんな未来は嫌だったからです。

ずっと語り継がれるような名曲を生み出せるアーティストが、
経済的にも正当に評価され、
また次の楽曲制作に向かう原動力になる。
そんな世界を作りたかったからです」

メリディアンローグのドラマー、海保さんは、
「お金を儲けることが第一の目的なら、
斜陽産業の音楽でビジネスなんかしなければいい。
もっと儲かる他の事業をすればいいだけの話。
音楽が楽しい、音楽への情熱があるからこそ、
音楽で食べていける方法としてOASを考えました」

音楽活動を続けていく方法は2つある。
1つは趣味。1つはビジネスだ。

趣味は活動の持続性がない。
お金がなければ続けていくには限界があるし、
あくまで趣味だから、
仕事が忙しければお金があっても時間はとれず、
ろくに活動はできなくなる。

ビジネスになれば、お金が入ってくることで、
音楽活動の持続性のメドが立つ。
お金が入ってくれば他に仕事をする必要なく、
音楽活動に専念できる。
やりがいにもなるだろう。

音楽によってお金が入ってくる仕組みにこだわるのは、
いい音楽を作る環境を確保したいという、
音楽への質へのこだわりに他ならない。

既存の音楽ビジネスモデルの弊害は、
何万枚も売らないとアーティストが食っていけないために、
自分たちが音楽をやっていて楽しいとか、
こんな音楽を作りたいとか、
活動の根幹となる創作意欲を犠牲にしかねないことだ。

メリディアンローグで作詞作曲を手掛ける涼さんはこのように話す。
「これまでの音楽のビジネスモデルでは、
何万枚もCDが売れなくてはならないため、
誰もが聴き触りのいい、マスに受けようとする、
特徴のない薄めた曲が作られがちになってしまいます。

音楽のビジネスに関わるさまざまな関係者の、
有言無言のプレッシャーの中で曲作りをしていると、
アーティスト自身が次第に音楽を楽しめなくなり、
売れる音楽ばかりを追い求め、
結果、つまらない音楽になり売れなくなってしまうという、
悪循環を繰り返す傾向があったのではないでしょうか」

ネットがない時代は、音楽は聴き触りのいい、
マスに受けるものを狙うのは致し方がなかった。
しかしいまやもうそのような時代ではなくなった。

マスに受ける広く薄めた“既製品”ではなく、
少数のコアなファンに受けるニッチな“注文品”の方が、
確実に売れる時代になったのだ。

それは音楽に限った話ではない。
例えば書籍でいえば、今まで書店販売しかなかったものが、
アマゾンのようなネット書店が登場したことで、
大ベストセラーだけでなく、
ニッチだけの少数の人が欲しがっている書籍なども、
売れるようになってきた。
ロングテール論だ。

ロングテール論とは、
ネット販売により低コストで在庫を扱うことができるため、
ヒット商品の大量販売に依存することなく、
ニッチ商品の多品種少量販売によって大きな売り上げ、
利益を得ることができるという経済理論だ。

橘玲著の「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」でも、
そのたったひとつの方法は、
自分が好きなニッチな分野をコツコツやっていき、
それをネットで知らせていけば、
大金持ちにはなれなくても、
自分が生きていく分は稼げるようになるというもの。

オープンド・アーティスト・システム(OAS)は、
まさにこの発想を体現したもの。
10万枚CDが売れなくても、
ファンが5000人いれば食べていける。
だからアーティストはマスに売れるために、
妥協した、薄めた曲作りをしなくても、
自分たちが好きな音楽を極めていけば、
それが好きという人が、
100人に1人とか1000人に1人とかいれば、
十分食べていけるというネット上の仕組みと言える。

OASは音楽で金儲けをしようというものではなく、
ありきたりの音楽しか売れない状況を変え、
音楽の多様性が担保され、
リスナーにとってもいろんな音楽を聴けるチャンスが広がり、
アーティストにとっても、
食べるために誰かに迎合した音楽を作らなくて済む、
新しい時代の音楽ビジネスモデルといえるだろう。

インタビュー後半
http://kasakoblog.exblog.jp/14402107/

・・・・・・
メリディアンローグ公式サイト
http://meridianrogue.com/

また音楽活動で食べていきたいけど、
現状は無理と考えているアーティストは、
ぜひOASに登録して活動してみればいいと思う。

・アーティスト向けOASとは?
http://meridianrogue.com/pc/oas-a.html



by kasakoblog | 2011-03-08 23:38 | 音楽


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