2011年 08月 03日
トイレの神様~避難所を支える被災者
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「えっ、市の職員でも業者さんでもなく、被災者の方なんですか??」

福島県いわき市平工業高校の避難所の仮設トイレを、
毎朝5時に黙々と掃除をする男性がいた。
Gさん、38歳。
彼自身、避難所に逃げてきた被災者にもかかわらず、
自ら率先して汚物あふれる不衛生なトイレの清掃をしていた。
他の避難者から、トイレ掃除の業者か、
市の職員と間違われることも度々あったらしいが、
彼も紛れもなく避難者であった。

避難所生活で大きな問題となるのはトイレ。
話を聞くだけでも想像を絶する。
避難直後は数百人が避難所に押し寄せ、水道や電気もない中、用を足す。
するとどうなるか。
悲惨だ。
汚物があふれ、次第にどんどん外にあふれ出てきて、
臭いもひどく、不衛生な状態で最終的には使えなくなってしまう。

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誰かが掃除をしなければならない。
自治体の職員やボランティアの人や業者がしてくれればいいが、
被災直後の厳しい状況の中でそんな人手は足りない。
避難者自らやらねばならない。

普通ならば当番制にしてするだろうが、
この避難所では彼がほぼ毎日毎朝トイレ掃除を欠かさず行った。
なぜ彼は誰もが嫌がるトイレ掃除を率先してしたのだろうか。

「誰もやらないから見るに見かねて始めたんです。
どうせ避難所にいてもそんなにすることはないし、
体育館でゆっくり眠ることもできず、
朝早く目覚めてしまうから、トイレ掃除をしようと」

でもそんなキレイ事でトイレ掃除をできるのだろうか。
彼が誰もが嫌がるトイレ掃除をする理由の1つは、
「自分の家は津波で流されてはおらず無事だったから」
という逆コンプレックスのようなものがあったからだ。

この避難所にいる人たちの大半は、
津波被害で壊滅的な打撃を受けた地区の人たちだ。
家が流されてしまった人、家族を失ってしまった人、
家はあるが床上浸水で半壊状態になってしまった人など、
甚大な被害を受けた人たちばかりだ。

彼の自宅も津波被害のひどかった地区にある。
でも彼の自宅は海沿いの集落から少し離れた山沿いにあったため、
家屋の被害も家族の被害もまったくなかった。

ただ、水道、ガス、電気すべてが止まってしまったこと。
古い建物なのでもしかしたら余震で倒壊するかもしれないこと。
もしまた津波が起きれば、地盤沈下が起きていて、
海沿いの家もないことから、
彼の自宅まで到達する可能性もあること。
こうした理由から家は無事なのだが、家族ごと避難所に避難してきていたのだ。

自分たちには家はある。車も無事。家財道具も無事。家族も無事。
にもかかわらず、避難所にお世話になっている。
みんなここにいる人たちはもっとひどい被害を受けたにもかかわらず・・・・・・。
そうした心理から、彼は黙々とトイレ掃除を行っていたのだ。

「板金塗装の仕事をしていたので、防塵マスクもあったし、
家は汲み取り式トイレだし、うちのばあちゃん、かあちゃん含め、
みんなトイレを使わせてもらっていることもあるし、
すっかり日課になっちゃいました」

トイレ掃除していることを立派なんてまったく思ってもいない。
むしろ家があるのに避難所にいさせてもらっているという、
ある種の“罪悪感”から掃除するのは当たり前、
といった感じですらある。

彼の存在のおかげで、
ここの避難所ではトイレ掃除を誰がするかといった問題は起きず、
彼は避難所で「トイレの神様」と呼ばれていた。

しかし震災から約1カ月後の4月17日。
「トイレの神様」はいち早く避難所を出ることになった。
ライフラインが復旧し、自宅で生活できるようになったからだ。
「トイレ掃除、誰がするんだろうってそれだけが心配で・・・・・・」と、
Gさんはそれだけが気がかりだったという。

トイレの神様が自宅に戻った後、
避難所で行われる各班長が集まるミーティングでは、
「Gさんがいなくなって誰がトイレ掃除をするのか」が大きな議題になったという。
結局みんなでやろうという話になった。
さすがにGさんのように毎日やってくれる人など誰もいないから。

被災者の中で被害が少なかった人ほど罪悪感を覚え、
被害がひどかった人に尽くすといった話はたびたび聞く。
こうした感覚は極めて日本人的。
被害をあまり受けていない人が、
被害が深刻な人を見て「自分が働かねば」という気持ちが働き、
避難所運営を支えてくれるのだ。

いずれにせよ避難所では被災者自ら、
さまざまな“仕事”をしなくてはならない。
“お客様”のごとき、誰かが何かをしてくれるのを待っているような状況にはない。
自治体に文句を言おうが、人員が足りず、手が回らないのは必然。
自ら被災し、心配事もあり、精神的にも環境的にも厳しい中で、
時には汚物処理のようなことまでしないと、
避難所は回っていかないのだ。

被災者の方々を取材していると口々にこう言う。
「まさか自分がテレビで見たような、
体育館で寝る被災者になるとは夢にも思わなかった」と。
日本に住んでいる限りどこで地震が起きるとも限らず、
すべての人が避難所生活を経験する可能性がある。

もしかしたら大量の汚物にまみれたトイレ掃除を、
避難所ですることになるかもしれない。
Gさんのようなトイレの神様がいない限りは。

・被災地レポ&写真
http://www.kasako.com/110311top.html


by kasakoblog | 2011-08-03 21:55 | 東日本大震災・原発


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