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被災地温泉旅館の悲哀~被災地旅行はダイレクトな義援金

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「えっ、かさこさん、松柏館に泊まってるんですか?
1泊2万円ぐらいする高級温泉旅館じゃなかったでしたっけ・・・・・・」

5月、6月に福島県いわき市を訪れた際は避難所に宿泊した。
避難所が閉鎖された7月、8月は、
いわき市内の温泉街にある、
老舗温泉旅館「松柏館」に宿泊している。

江戸時代から続く歴史ある温泉旅館だけに地元の人が驚いたのである。
「そんな高いところに泊まっているなんて」と。

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実は素泊まり4000円。
これで源泉かけ流しの温泉大浴場もあり、
部屋には風呂もトイレもついている、
広い和室に泊まることができる。

なぜか。
一般の宿泊客が激減しているからだ。

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「すみませんが、4階の大浴場までは、
階段で行ってください。エレベーターが故障しているもんで」

地震でエレベーターが故障したとはいえ、もう8月。
まだ直していないのには深いワケがあった。

「銀行に相談したら、
『修理しなくてもいいんじゃないですか』って。
この先、厳しいのに余計なことにお金を使うなって意味ですかね・・・」
と宿の主人はいう。

ただ今は幸いにして毎日のように満室で、
7月も8月もあと1室が運良く残っていて予約が取れた。
観光客は皆無だが、
原発近接エリアの広野町から避難されている方や、
原発作業員の方が宿泊しているため、連日満室となっている。

「でも避難されている方はどんどん出ていっていますし、
原発作業員の宿泊施設は、
もっと原発に近い場所に作るという話も聞きます。
そうなったらもう誰も泊まりにきません。
だって“福島”ですからね・・・。
福島にわざわざ観光で来る人なんていないですよね」

今は良くてもその先は目に見えている。
それをひたすら心配しているのだった。

「近くの旅館の人とも話をしているんですが、
最低でも10年たたないと客は戻らないんじゃないか。
もしくは1世代、代が変わらないと、
福島なんて行きたくないって人がほとんどじゃないですかね・・・」

唯一の希望は近くにある「スパリゾートハワイアンズ」が復活すること。
映画「フラガール」でも有名になった1大リゾートスポットだけに、
ここが営業を再開してくれれば、客足は多少なりとも戻るかもしれないという。
ただスパリゾートハワイアンズにも宿泊施設はあるので、
わざわざこっちに泊まるかどうかは微妙だが。

先行きが厳しいことを見越して、
従業員を45名から15名に減らした。
最低人数でなんとか厳しい時期を生き残ろうと必死だ。

「こんな状況ですのでいつものおもてなしはできないですが、
先月といい今月といい、泊っていただきありがとうございます」
と深々と頭を下げた。
そんな、私はたいしたことしてないのに。
むしろ4000円で高級旅館に泊れるなんてラッキーだと思っている。

被災地ではお金を出さなくても、
ボランティアや災害関連関係者用に、
無料で泊れる場所がいくつかある。
震災直後で避難所がぎっしりで、
かつ旅館もホテルも営業できない状況なら、
お言葉に甘えてこうした無料施設に泊まるのはいいと思う。

でももう避難所はほとんどなくなり、
津波被害エリア以外の町は通常の状態になっており、
震災から5ヵ月が過ぎようとしている今、
「被災地支援」ということを考えたら、
無料で泊まれるところを利用するより、
温泉旅館でもビジネスホテルでも、
お金を払って泊まることは、
現生を落とすいわばダイレクトな“義援金”になる。

私からすればゆっくり休めた方が、
次の日の活動も精力的にできるので、
体が休まりにくい無料施設に泊まるよりいい。
しかも私がお金を払って泊ることで、
経営に苦しむ温泉旅館にほんの少しでも現金収入をもたらし、
それで喜ばれるのだから一石二鳥になる。

だから被災地に行く度に思うのは、
ボランティアの人は現地の滞在費を安くあげよう、
ということばかりでなく、
もし空いているなら、
地元のホテルに泊まってお金を落とすことで、
自分たちの体も休まるし、
泊ることも被災地支援という発想を持ってほしいなと。

1ヵ月も2ヵ月も現地にいるなら、
さすがにホテルに泊るのは金銭面でしんどいだろうが、
1ヵ月に1度ぐらい来るぐらいのボランティアなら、
1泊4000~5000円ぐらい支払えば、
それも支援になるって考えればいいのに。

だって、今、被災地・被災者に最も必要なのは、金と仕事。
きれいごとで現実は乗り越えられない。
金さえあれば、仕事さえあれば、
絶望的な被害状況でも少しは未来に希望が持てる。

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「今はこんな状態で普段のいい料理はお出しできないですけど、
いつか震災前の旅館の状況に戻ったら、
おいしい料理を食べてゆっくり泊まっていってください」

こうしてまた被災地との1つの“絆”ができあがる。
そしてまた来ようと思う。
こうして被災地の人と被災地以外の人とつながる循環ができることが、
大きな支援効果をもたらさなくても、
継続的な支援につながるのではないか。

被災地は津波被害エリアだけではない。
被災者は津波被害者だけではない。
被害は少なくても客が激減して苦しんでいる温泉旅館も、
“被災者”でありまた原発被害者だ。

そんなことを知れたのは、
温泉旅館に泊まったから。

被災地の問題は多用な広がりを見せていることを、
忘れてはならないと思う。

・松柏館
http://www.syouhakukan.com/

・被災地レポ&写真
http://www.kasako.com/110311top.html

by kasakoblog | 2011-08-10 00:36 | 東日本大震災・原発

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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