2012年 05月 09日
ネットとの付き合い方を考える良書「ウェブ炎上~ネット群集の暴走と可能性」
ここ数年で個人におけるネットツールの重要性が一段と増した。
ツイッター、フェイスブックの登場による、
実名、顔出し文化の浸透である。
今やネットはバーチャルなんかじゃなく、
リアル社会そのもの。
ネットはリアル社会のポータル(玄関口)であり、
ネットで知り合い、仕事を頼んだり、つながったりすることは、
当たり前の時代になった。

ただその一方でネットならではの怖さというか、
あやうさみたいなものも感じている。
それは一方向に意見がなだれ込む現象だ。

何かのきっかけで特定方向の意見が集中し、
実は多くの人はそんな風に思っていないのに、
反対意見を述べるような雰囲気ではなくなり、
特定方向の意見が既成事実化していく。
ネットファシズムといっていいかもしれない。

そんな状況をどう考えたらいいか、非常に参考になったのが、
「ウェブ炎上~ネット群集の暴走と可能性」(荻上チキ著)だ。
発売されたのは2007年だが、今読んでも、
ウェブ時代を生き抜くために参考になる要素がかなりある。

「炎上」とは、非難・批判・誹謗・中傷などのコメントが殺到すること。
「炎上」というタイトルがついているがために、
ブログやサイト運営者にしか関係のない、
炎上論とその対処法みたいな内容と思っていたが、
本書はもっと広い意味で、
極端なネット世論の作られ方=ウェブ炎上が書かれているので、
ブログやサイト運営者でなくても非常に興味深く読むことができる。

こうした状況を「サイバーカスケード」=「ネット上での小さな滝」と呼ぶ。
はじめは有意義な議論だったはずが、
いつしか極端でネガティブな言説パターンが繰り返され、
実態とは大きくかけ離れたなだれをうったような、
収拾のつかない状況に陥ってしまう。

このようなウェブ炎上現象の恐ろしいところは、
誰か特定の悪玉=仕掛け人がいるわけではないこと。
(いる場合もまれにあるかもしれないが)
1人1人はいたって良識ある善人のはずの個人が、
ネット言説に流されて、冷静な判断を失い、
ある特定方向への意見を集中させていく。
結果1人1人が「加害者」となり、
その事象を適切に把握するための議論からかけ離れ、
事実確認もろくにしないまま、
バッシングすることが目的になる、
いわゆる「祭り」状況を作り出してしまう。

このような状況になれば反対意見や冷静な意見は、
とてもいえるような状況になく、
特定の極論だけが一人歩きし、
それがあたかも事実のようになっていってしまう。
大衆ファシズムというべき熱狂は、
まるで戦前の日本、一億総玉砕よろしく、
無謀なことに突っ込んでいってしまう素地を作りかねない。

ウェブ炎上=サイバーカスケードのもう1つの恐ろしさは、
争点を決めてしまうことだ。
本書では2004年のイラク人質事件をあげて説明している。
3人の日本人が人質に捕まった際、
人質となった3人の自己責任論がこの問題の中心となり、
3人へのバッシングがネットで増幅された。

サイバーカスケードが起きると、
イラク人質事件問題の争点が、
「人質となった3人の行動は是か非か」になってしまい、
そもそも事件の根幹となっている「イラク戦争は是か非か」
「イラク戦争に対する日本政府の対応は是か非か」
といった本来考えるべき重要な論点が消えてしまう。
ただひたすら延々と「人質となった人が悪い」か
「自己責任というのは間違っている」という論点だけに、
この事件が集約していってしまう。

こうした議論のすりかえによる問題の本質の隠蔽は、
ネットに限った話ではなく、
日本のマスコミや日本の政治ではよく使われている手法だ。
しかしそれは誰かが意図的にやっていることで、
そのこざかしい手法は少し情報咀嚼力のある人が見れば、
その欺瞞は簡単に見抜くことができる。

ただネットで恐ろしいのは、それが誰かが意図したわけではなく、
誰かの主導者がいるわけでもなく、
実態のない「みんな」がそういっている、
という現象を作り出してしまうことだ。
つまり日本特有の「空気」。
空気ができてしまうとそれに逆らうことは不可能の近い。
おかしな争点のまま、おかしな極論のまま、
それが問題の中心であるかのように、
現実社会を変えてしまう力を持ってしまう。

このようにネットで起きる現象を、
非常に的確に具体的事例をあげながら、
この本は分析している。

ただこの本の著者も書いているように、
「だからネットは怖いからダメ」なのではなく、
ネットのデメリットとなる部分を理解し、
そのデメリットをできるだけ回避するよう、
ネットを使いこなしていくことが重要なのではないかと思う。

今やネットは重要な社会インフラだ。
ネットの「サイバーカスケード」は、
必ずしもネガティブなことばかりでなく、
おかしな政治や社会、企業を変えていく力にもなりうる。

残念ながらというべきか、
恵まれているというべきか、
今の社会に生きる以上、ネットは避けて通れない。
ネット有害論で萎縮してしまうのではなく、
ネットのデメリット部分をよく理解し、
そのような状況が起きても、
冷静に事態を見守れるような視点が重要なのではないかと思う。

おすすめの本です。
ぜひ読んでみてください。

・アマゾン


by kasakoblog | 2012-05-09 10:28 | ネット


<< ミスチル20周年      写真教室のご案内 >>