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海はつながっている~原発を止めた漁師たち

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「徳島で原発計画を阻止したのに、
和歌山に原発作られたらこっちまで汚染される!」

徳島県の蒲生田岬に原発を建てる計画があったが、
漁師を中心に住民の反対運動で阻止した。
しかし対岸の和歌山の日高町で原発計画が持ち上がった。

徳島県の蒲生田岬の和歌山県の日高町は、
直線距離にして約30~40キロ。
他県で海に挟まれているとはいえ、
こんなところで原発作られたのではたまったものではない。
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なぜか。
徳島と和歌山は海で分断されているのではなく、つながっている。
原発事故による放射能汚染の危険だけでなく、
「安全」に運転していようが、
原発から出る温排水によって、水温が上昇し、
生態系が破壊され、魚がとれなくなってしまう心配があるからだ。
さらに紀伊水道に原発ができたとなれば、
原発近海でとれた魚という「風評」被害も起こりうる。

そこで徳島から船に乗って約1時間かけて、
和歌山日高町で原発反対運動をしている、
漁師の応援にかけつけたという。

「徳島や高知の応援もあって、
原発計画を断念させることができた」
と日高町に住む漁師で、
民宿「波満の家」を営む濱一己さんは語った。
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冬場は海が荒れることが多く、
とれる魚が少ないことで困っていた濱一己さんに、
タチウオ漁の仕方を教えてくれたのも徳島の漁師さんだという。
原発反対運動だけでなく、仕事上の交流もあった。

徳島県の蒲生田原発予定地のすぐそばに、
私が何度も取材している人口120人の漁村・伊座利があった。
もしかして伊座利にも原発反対運動があったかもしれないと思い、
久しぶりに伊座利を訪れ、
伊座利漁業協同組合の組合長、吉野清さんこと、
清のおっちゃんに話を聞いた。
するとやはり伊座利でも蒲生田原発反対運動に加わったという。
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「伊座利は農地もなく漁で生活している町。
すぐそばで原発なんか作られたら、
生活もできなくなり、ここに住めなくなってしまう」
と清のおっちゃんはいう。

「推進派の気持ちももちろんわかる。
ともに地元を発展させたいという想いは同じなのだから。
でも漁師にとって原発を作られ、海を汚されることは死活問題。
漁師は一国一城の主で、みな自分の技や経験で暮らしているから、
漁ができなくなり、陸に上がって仕事しろといわれても、
そうそうできるもんじゃない」
と漁師気質についても話してくれた。

徳島も和歌山も漁師たちの力で原発を阻止した。
しかし自分たちに周囲に原発がないからといって、
福島原発事故は他人事ではないと心配する。
「いつ、こっちに福島から海水や魚がくるかもわからん。
海はつながっている。魚はどこへでも泳ぐ。
ワシらは豊かな自然を守ったけれど、
他で汚されたら被害が出るかもわからん。
実際に汚れてなくても『風評被害』もこわい」と警戒する。

・・・・
私は関東の人間のせいか、
和歌山と徳島がわずか船で1時間で行ける、
そんなに近い距離にあるとは思いもしなかった。
(和歌山港から徳島港へ行く大型フェリーでは2時間だが)
なるほど、それなら徳島の漁師の人たちが、
和歌山の漁師を応援し、反原発運動に加わるわけだ。

そして何より漁師の人たちは、
海に「境」がないことをよく知っている。
陸地で生活しているとつい、
福島県だからどうだとか、
あそこは原発がある町だから危険だけど、
こっちは原発がない町だから安心といったような、
安直な考えに陥りがちだが、
大地も海も空気もみなつながっている。
県境や国境なんて人為的なものに遮られず、
事故が起きれば汚染は瞬く間に近隣県にも波及する。

それは福島原発事故を見れば明らかだが、
未だにそれをわかっていない人が多い。
原発を新たに作るか作らないか、
原発を動かすか動かさないか、
金が欲しい地元の人たちだけで決めていい問題ではない。
なぜなら海も空気もつながっているから。
汚染は越境するから。
逆にいえば自分の町に原発がないからといって、
それは他人事の問題ではないのだ。

※日本全国・死の町マップ
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今後、大地震が起きて死の町となる可能性がある、
日本全国の原子力発電所から、
30km、50km、100kmの距離にある場所を、
地図上で円を描いてみると上記のようになる。
※「なんちゃって☆原発ハザードマップ」で作成
http://www.nanchatte.com/map/NuclearPowerPlant.html

和歌山、徳島の漁師たちは、
福島原発が起きる30~40年も前の、
原発計画が持ち上がった時点で、
地元でいろいろな学習会を開いて、
原発についての学習をした。
それを聞いて、反対運動を展開した。

原発を止めた和歌山日高町の濱一己さんの民宿には、
福島原発事故後、福島の人も何人か来るという。
その一人は、原発推進でも反対でもなく今まで中立派だったが、
原発事故により我が家で住むことができず、
自分たちは郡山で避難生活。
息子夫婦は埼玉で避難生活をしているという。
息子は原発事故で仕事を失い、
埼玉でアルバイトを4つこなしながら、
生活費を必死に稼いでいるという。

そんな息子の姿を見て、
郡山に避難している方が濱さんにこう言ったという。
「もっと原発のことについて勉強しておけばよかった。
原発について知らなかったことに責任を感じる。
何の責任もない子供や孫に苦労をかけて、
本当に申し訳ないと思っている」

起きてしまったことはもう仕方がない。
私だってまさか日本の原発が大事故を起こすなんて、
夢にも思わなかった。
でも大変な原発事故が起きてしまった。

過去は変えられないが未来は変えられる。
福島原発事故を反省し、
私たちが自分の子供や孫に何を残していけるのか。

「ねえ、なんでお父さんお母さんは、
原発なんてあんな危ないものを再稼働させちゃったの?
福島原発事故が起きて何も学ばなかったの?」

原発に限った話ではない。
税金を無駄遣いし、借金を増やすだけの景気対策もそう。
自分たちが努力も工夫も我慢もせず、
目の前の欲望を優先させることで、
そのすべてのツケを我が子や孫に回ることを、
いい加減もうやめるべきではないか。

私は原発事故で人が住めなくなった死の町も見てきた。
「原子力 郷土の発展 豊かな未来」とでかでかと掲げられた看板のある町は、
人が住めない死の町と化したのを実際にこの目で見てきている。
自分のガイガーカウンターでいかに線量が高いかも、
身を持って知っている。

だから私は別にファッションとしての、
脱原発・反原発をしているわけではないし、
現場を知らずにただただ世間の雰囲気に流されるままに、
脱原発・反原発を主張しているわけではない。
実際に日本で原発のせいで死の町が存在していることをこの目で見てきた。
それは明日はわが身になるかもしれないのだ。
たとえ原発が自分の県になくても、
海や空気はつながっているのだから。

私は福島原発事故を同時代に、
大人として経験した者として、
「ねえ、なんでお父さんお母さんは、
原発なんてあんな危ないものを再稼働させちゃったの?
福島原発事故が起きて何も学ばなかったの?」
なんて子供や孫から蔑まれるような、
情けない大人にはなりたくはない。

私にはたまたま文章と写真という武器があるから、
それを使って多くの人に訴え、
誰もが安心して暮らせる社会になるよう、
政治がどうの、官僚がどうのという前に、
自分でやれることはやっていくつもりだ。
みなさんにもそれぞれの仕事や立場から、
できることはあるはず。

「政治や行政に頼ってはダメや。
自分がまず行動しなきゃ町の活性化なんてできん。
それをこの数年、身を持って知った。
自分らが動けば、メディアや行政や国民が注目してくれるようになる。
依存するんやなく、まず自分で動くことが大事」
と、20年前まで町で高齢化率ワーストワン、
廃校の危機にさらされていた漁村を、
様々なアイデアや活動で復活させた、
徳島伊座利の清のおっちゃんは言った。
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「100の言い訳より1の行動」と、
「かさこマガジン3」に書いた。
多くの人に自分のできることから動いてほしい。
景気が悪い、政治が悪いと嘆くんじゃなく、
自分で状況打開するための知恵を絞り、行動すること。

原発を止めた和歌山、徳島の漁師さんたちは、
それを実践してきた人たちだ。
昨日、和歌山日高の濱さんは、
「自分で稼げる自立した人間は原発に依存しない。
何かに依存しようという人ほど、
自立できていない人間ほど原発賛成に回る」と指摘した。

奇しくもその翌日、徳島伊座利の清のおっちゃんは、
「過疎化しているからといって、
その対策を政治や行政に頼らず、
そこに住んでいる住民自らが自立せなあかん」
と話してくれた。

もういい加減、政治や行政に依存するのはやめよう。
政治や行政に依存するというのは、
若い世代にツケを押し付けることに他ならない。

「なんでこんな住みにくい社会にしたんだ」
と自分より若い世代から言われないよう、
一人一人が政治や時代のせいにすることなく、
自分や自分の家族が暮らしやすくなるためにも、
100の言い訳より1の行動をすべきだと思う。

※今回の「原発を断念させた町」取材は、
2012年10月に柏崎刈羽原発視察ツアーで知り合った、
「奔流」編集長・矢間秀次郎さん(72歳)に同行させていただきました。
矢間さんはこのテーマで映画製作をしようと、
2012年2月より調査取材を実施しており、
私も何らかの形で映画製作に協力する予定でいます。

・映画公式ページ
http://www.kasako.com/eiga1.html

・参考文献
千曲川・信濃川復権の会発行「奔流」2012年6月7日発行・第7号内の特集
「原発立地計画を『断念』させた町はいま
~寄せては返す“開発の波”に引き裂かれた人々を訪ねて~」収録、
矢間秀次郎著「中部電力芦浜原発の巻“生涯一記者”を宣言した北村博司さんの勲章」
「四国電力蒲生田原発・椋本貞憲さんの『夢』に喜ぶ白魚の群れ」

・「奔流」
http://shinanochikuma.jimdo.com/奔流/

・小さな漁村の奇跡の復活劇~徳島県・伊座利地区
http://kasakoblog.exblog.jp/9913849/

・原発20キロ圏内レポート~あなたの家や町が立入禁止になる恐怖
http://kasakoblog.exblog.jp/17660549/

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by kasakoblog | 2013-01-19 21:20 | 東日本大震災・原発

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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