ベテランの引き際が組織の強さ~水曜どうでしょう~
2006年 07月 11日
DVDを見尽くしてしまった私なのだが、
非常にいろいろと考えさせられる特典映像があった。
「水曜どうでしょう」といえば大泉洋がおもしろいから、
と思う方が大半だと思うが、初期の映像を見ると、
まだ大学生の大泉氏は初々しく、テレビ慣れしていない素人に近く、
「おもしろい」とは到底言いがたい。
それは今の本人も承知しているようで、
初期の作品がDVDに収録される度に、
「いやー、まだだいぶ厳しいねー」と、
過去の自分に痛々しさを感じている。
それでもこの番組がおもしろいのは、
番組制作の4人の絶妙な掛け合いがあるから。
4人といっても出演しているのは、
大泉洋と大泉洋が所属するプロダクションの社長であり、
企画制作にも携わっているミスター(鈴井)だけなのだが、
ディレクター藤村氏とカメラの嬉野氏も、
過酷な旅に付き合い、時に出演者のごとくつっこみを入れたりする。
この4人の総合力がずっとおもしろさを維持し続けてきた。
すなわち、大泉洋がまだあまりおもしくない時は、
ミスターがしゃべりまくって番組を盛り上げていて、
大泉洋がおもしろくなってくると、
ミスターの発言が少なくなるといった感じで、
4人のバランス感覚が、各人の成長と共によく取れているのだ。
そのことについて、特典映像で、
韓国に映画監督修行に行くミスターがこんなことをいっていた。
「はじめは自分がFWとして、みんなを引っ張らなければならなかった。
しかしいつのまにか、大泉洋というタレントが、
自分よりおもしろいということに気づきショックだったが、
一歩自分は下がり、大泉洋を先頭に立てるべきだと思った。
ところがもっとショックだったのは、
この大泉洋のおもしろさを引き出せるのは、
相方である自分ではなくディレクターの方だということ。
それは認めたくはないことだったけど事実。
だから、僕はカメラの嬉野さんと一緒に、
DFに回ってバックヤードから番組をサポートすることにした」
これを聞いて、この番組のおもしろさの構造が見事に語られていると思っただけでなく、
どんな仕事でもどんなスポーツでも、
ベテランの引き際というか若手の台頭に伴う役割の変化を素直に認めるってことが、
どんなに難しく、そしてそれができた組織は、
どんなに強いかということを物語っているなと、
深く考えさせられたのである。
もしミスターが自分が前に前にと番組当初のようにでしゃばっていたら、
大泉洋のおもしろさは打ち消されてしまっただろう。
さらにミスターが、悔しいけどディレクターの方がつっこみがうまいと認めなかったら、
番組はつまらないものになっていただろう。
彼は大泉洋の上司であり、番組の企画制作を指揮するプロデューサーでもあり、
出演者でもあるから、この中では一番えらいわけで、
自分が自分がとでしゃばるのは必然でもあったが、
冷静に4人の役割の変化と若手の成長を客観視でき、
そして自分の立場をわきまえ、徐々に自分の露出を抑えていった。
だからこそそれに比例して、大泉洋のおもしろさが際立ち、
番組はさらにおもしろくなっていったのだ。
会社やチームやサークルやさまざまな組織で、
このようなことが度々あるのではないだろうか。
いつまでたっても上司(先輩)という立場を守るため、
なかなか権限委譲せず、いばっているだけで、
若手(後輩)に仕事を任せず、組織が停滞してしまってはいないか。
先輩がいつまでもでしゃばって、後輩の出る幕を邪魔してはいないか。
たとえばフランスのジダンのように、
求められて代表復帰し、チームの中心となって活躍するベテランもいる。
若手に正GKの座を奪われ、チームが勝利しても、
怨念のごとく恨み節をするドイツ・カーンのような選手もいる。
(3位決定戦では活躍したらしいが)
こうした若手のベテランのバランスを見て、
カズを斬った岡田監督。
一人だけ威張り散らして、若手から浮き立ち、
チームが負けたことの悔しさではなく、
自分が引退することの悔しさしか表現しなかった、中田ヒデ。
組織力は個々人の総合力なんだな。
みんなすごい能力が集まれば、それがいいってもんじゃない。
バランスが大事なんだなと、水曜どうでしょうを見て、しみじみ思った。
さて、あなたは自分が働く(所属する)組織の中で、
組織力を高めるための自分のポジションを理解し、行動しているだろうか。
水曜どうでしょうのミスターのような見事な役割チェンジを、
組織を取り巻く環境に合わせてしているだろうか。
ふとそんなことを思った、どうでしょうでした。