宮崎駿映画の「崖の上のポニョ」と、
人気ゲームシリーズ最新作「ドラクエ9」だ。
両者に共通する失敗原因は、
「子供向けに簡単にしよう」
ということではないか。
これまでのファンが期待するトーンにやや目をつぶり、
新しい顧客(特に子供)を取り入れるために、
わざと「簡単」にした。
それにより作品の「質」が変わり、
過去の作品をよく知るファンの一部からは、
期待はずれ、低レベルと捉えられ、
酷評される結果になったのではないか。
酷評が多いのは人気作品の宿命とも言える部分もある。
なぜならライバルは超高レベルの自分自身の過去作品。
これまで積み重ねてきた素晴らしい過去作品を、
常に上回らなければならないというプレッシャーは、
相当なものだろうし、その期待値もかなりのものだ。
だから評価も厳しくなる傾向にあるだろう。
(人気シリーズゆえ、逆に評価が甘くなることもあるが)
またビジネスである以上、
十数年前からの過去作品のファンだけを喜ばせる作品を、
作り続ければいいというものでもない。
新たなファン層を獲得することで、
莫大な制作コストをペイしなければならない。
ただ、両作品とも、一定のブランドができあがっている以上、
過去作品よりつまらなければ、
当然、批判にさらされる結果になる。
両作品ともそんなに大きくテイストが変わっているわけじゃない。
ポニョも十分、宮崎駿ワールドの世界観はあるし、
ドラクエ9も十分これまでのドラクエワールドを踏襲している。
でも「簡単」にしてしまった。
大人が「子供向けだから簡単にしよう」と、
妙な手の抜き方をすると、だいたい失敗する。
「子供向けだから簡単でいい」というのは間違いだろう。
むしろ子供向けほど、きちんと世界観を作り込まないと、
その欠点は容易にわかってしまう。
たとえば、ナウシカやラピュタは「簡単」な作品だろうか?
ドラクエ1が「簡単」な作品だろうか?
私がドラクエ1をやったのは小6の時だが、
相当難しかったけど、でもおもしろかった。
対象となる子供が作品のすべてを理解できなかったとしても、
その全体的な雰囲気を感じ取る力はある。
むしろ子供の方が敏感ではないか。
子供向けだから簡単にして失敗した代表例といえば、
クレヨンしんちゃん映画だろう。
過去のクレヨンしんちゃん映画、
特に「オトナ帝国」と「戦国大合戦」は、
凄まじいほどの出来栄えで、大人も楽しめる作品だ。
ところが最近のしんちゃん映画は、
単に下品さとだじゃれを強調するだけの、
中身のない映画になってしまった。
幼児にはそれでもおもしろいと騙せるかもしれないが、
小学生ともなれば幼稚に思えてしまうのではないか。
(クレヨンしんちゃんの場合、単に作る人が変わった、
ということが大きな要因ではあるのだが)
大人が思っているほど子供は子供じゃない。
それをわからず、
「子供がやりやすいように」「子供が見やすいように」と、
子供を“バカ”にした作品を作ると、
中途半端などうしようもない作品ができる可能性が高く、
大人からも子供からも受け入れられない、
どっちつかずの中途半端作品ができあがる。
ともに実績(セールス)はすごい。
ポニョの観客動員数は1000万人を突破し、
DVDは発売1週目にして50万枚を突破。
ドラクエ9は発売4日間で300万本のセールスをあげた。
しかしシリーズ作品のセールスは、
本作品そのものの評価より、
これまでのシリーズの実績や、
人気作品の最新作としての期待度が大きい。
だから必ずしも、セールス実績=最高作品とはならない。
(これは書籍や音楽CDなどでも同様の傾向がある)
どちらも人気作品の久々の最新作にもかかわらず、
評判があまりよろしくない。
過去の作品と比べてみるとよくわかる。
※アマゾンレビューの評価を絶対視するつもりはないし、
かなりいい加減なレビューも混在はしているが、
レビュー数も多いし、賛否どちらもうなづける意見も多く、
メディアによるバイアスのかかった評価ではなく、
本音の口コミに近いと判断し、アマゾンレビューを参考にした。
ただしこうしたレビューは、おもしろいという意見より、
批判したい意見が多くなる傾向は間違いなくあるので、
その分は考慮しなくてはならない。
■ポニョのアマゾンレビュー
4~5つ星=78票
1~3つ星=85票
☆:28 ☆☆:28 ☆☆☆:29
☆☆☆☆:30 ☆☆☆☆☆:48
■天空の城ラピュタのアマゾンレビュー
4~5つ星=227票
1~3つ星=7票
☆:0 ☆☆:0 ☆☆☆:7
☆☆☆☆:12 ☆☆☆☆☆:215
ラピュタの有無を言わせぬおもしろさは、
レビューの評価にダイレクトに表れている。
それに比べるとポニョはおちたなという感はぬぐえない。
ただラピュタまでさかのぼって比べるのは、
ややアンフェアな感じはするので、
“つまらなかった”前作ハウルと比べてみよう。
■ハウルの動く城のアマゾンレビュー
4~5つ星=246
1~3つ星=198
☆:40 ☆☆:70 ☆☆☆:88
☆☆☆☆:104 ☆☆☆☆☆:142
ハウルと比べても、ポニョの評価は高くない。
ハウルはキムタクが声優をやったので、
正直、批判的な意見が上回ってもおかしくはないが、
それでも高評価が多い。
まあポニョの場合、初回予約限定がなかったことへの、
不満レビューが多いことが低い評価の一因にはなっているが、
作品の質を問う酷評レビューも少なくない。
ドラクエほどひどいわけではないが、
宮崎駿映画の最新作ということを考えると、
大ヒットに比べて評価されているとは言い難い。
・・・
ドラクエ9はもっとひどい。
■ドラクエ9のアマゾンレビュー
4~5つ星=252
1~3つ星=565
☆:252 ☆☆:167 ☆☆☆:146
☆☆☆☆:139 ☆☆☆☆☆:113
ドラクエ9の批判レビューの多さに、
「荒らしだ」と騒いでいる輩もいるが、
レビューの中身を見ればわかるけど、
真っ当な批判レビューが圧倒的に多い。
ドラクエは人気作だから、
アンチが多く荒らされたというと、
もっともらしく聞こえるけど、
2008年に発売されたDSドラクエ5は、
圧倒的に高評価が多く、荒れてはいない。
■DSドラクエ5のアマゾンレビュー
4~5つ星=243
1~3つ星=65
☆:10 ☆☆:15 ☆☆☆:40
☆☆☆☆:66 ☆☆☆☆☆:177
ドラクエ最新作の酷評レビューのなかには、
DSではドラクエは楽しめないといった不満もある。
しかし同じDSでもドラクエ5は高い評価となっている。
まあDSでは前作にあたるとはいえ、
昔のドラクエ5と比べるのはアンフェアかもしれないので、
前作ドラクエ8と比べてみよう。
■ドラクエ8のアマゾンレビュー
4~5つ星=513
1~3つ星=235
☆:55 ☆☆:65 ☆☆☆:115
☆☆☆☆:198 ☆☆☆☆☆:315
ドラクエ8がそれほどよい作品だったかどうかは、
私的にはかなり微妙だが、
それでも圧倒的に高評価の方が多い。
・・・
その点、村上春樹の最新作「1Q84」は、
人気作品の久々待望の新作でバカ売れしたという意味で、
ポニョやドラクエに共通するが、
宮崎駿映画やドラクエ最新作のような批判レビューは、
そう多くはない。
■1Q84(上)
4~5つ星=108
1~3つ星=54
☆:7 ☆☆:16 ☆☆☆:31
☆☆☆☆:38 ☆☆☆☆☆:65
村上春樹の最新作は200万部も売れている。
過去のファンだけが買っているわけではない。
大金払って話題の新作を買ったのに、
つまらなかったら酷評する人がいてもおかしくはないし、
アンチ春樹がいてもおかしくはないが、
レビューを見る限り、それほど酷評は多くなく、
おおむね評価されていることがわかる。
なぜ村上春樹の最新作は、
ポニョやドラクエに比べて酷評が少なく、
トータルでもおおむね高評価なのか。
それは、いい意味でも悪い意味でも、
過去の村上テイストを変えていないからではないか。
一部ファンのなかには、過去作品の方がいいとか、
やはりポニョやドラクエと同様、
「簡単にしてしまった」という批評もあるが、
私が読んだ限りは、相も変わらずハルキ節炸裂といった感じはする。
だから村上春樹最新作は批判が少なく、
これまでのファンの期待を裏切ることもなく、
過去作品との対比においても違和感がなく、
そこそこ評価されているのではないか。
まあ逆にいうと、村上春樹は過去の焼き直ししか書けない、
進歩がない、いつも同じことしか書けないとの批評もできるのだが。
・・・
映画、ゲーム、書籍のメガヒット作品について考察したけど、
音楽なんかもまさに当てはまる。
人気アーティストになればなるほど、
次回作の期待度が高まり、
そのためにかえって失望・酷評を招くこともある。
だからといって毎回毎回、
過去の焼き直しみたいな作品を出し続ければ飽きられる。
逆に新鮮味を出そうと、奇をてらったことをすれば、
過去のテイストと違うと猛烈批判される。
過去のいい部分を残しながらも、
少し斬新な部分も取り入れつつ、
でも前作よりいい作品をつくる・・・。
これは相当難しいことだ。
だからそのプレッシャーに押しつぶされ、
過去の自分の名作以上のものをつくれないために、
作品づくりができなくなってしまうクリエイターも多い。
一方、消費者側にもジレンマがある。
これだけ物があふれる時代である。
名も知らぬ映画やゲームや書籍や音楽に、
お金を出す勇気はなかなかなく、
どうしても過去の実績やブランド、宣伝力に頼って、
商品を選んでしまいがちになる。
だからブランド力に頼った人気作品の最新作が、
バカみたいな大ヒットになる。
みんな金を払って失敗したくないからだ。
ただ、ブランド力に関係なく、
無名だろうが有名だろうが、
おもしろいものはおもしろい、
つまらないものはつまらない、
といった情報は、ネット時代になったことで、
はるかに入手はしやすくなったと思う。
ネットリテラシーのなさのために、
酷評を誹謗中傷だと捉える輩もいれば、
読みもしない見もしないのに、
酷評して喜んでいるクズもいるので、
もちろんどうしようもない情報も多いが、
アマゾンレビューなんか見ると、
「へえ、なるほど、そういう見方もあるのか」
と結構、参考になる意見も多い。
ネット口コミがうまく機能して、
無名でもいい作品なら評価されて売れたりして、
超有名作品でもあまりおもしろくなかったら、
セールスに結びつかないみたいな、
作品の“質”とセールス実績のギャップが少なくなっていくと、
消費者にとっても創作者側にとってもいいのになと思ったりもする。
まああくまで作品に対する評価に絶対はないので、
賛否両論の多様な意見が見れると、
非常に参考になるのだが。
だからネットレビューで自分とは意見の違う、
気に食わない意見があったら文句を言うとかではなく、
(事実関係が違えば話はまったく別だが)
多様な意見が書き込みやすく、
オープンな状態になっていると、
これから買おうか迷っている消費者には、
有益な情報源になるのになと思っている。
※これはあくまで私の主観的感想です。
・ドラクエ9クリア後の私の感想【ネタバレあり】
http://kasakoblog.exblog.jp/10661692/
・ドラクエ9はじめの私の感想
http://kasakoblog.exblog.jp/10594389/
・ポニョの私の感想
http://kasakoblog.exblog.jp/10576500/
・1Q84の私の感想
http://kasakoblog.exblog.jp/10528763/
「ドラクエ9」の評価についてネット中が大荒れ状態に、一体何が原因でこんなことになってしまったのか?
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090713_dq9_matome/