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救命病棟24時と長崎原爆

テレビドラマ「救命病棟24時」の最終回をたまたま見た。
見る気はなかったのだが、ドラマの中盤あたりで、
医局長役のユースケサンタマリアの言葉に、
ドラマにありがちな、熱血医者の奮闘ぶりだけを描いた、
リアリティのないテレビドラマとは違うものを感じ、
引き込まれるようにして見入ってしまった。

国が医療費にお金を回さないので、
救命医療にしわよせがきて、
患者は救急車を呼んでも病院のたらい回しにあい、
医療スタッフは過労勤務を強いられ、
少しでもミスをすれば犯罪者として訴えられるという、
とんでもない環境になっている。

こうした状況で医師たちが働くなかで、
ドラマでは研修医が適切な措置を施すことができず、
患者を死なせてしまい、遺族から人殺しと罵られ、
あまりのショックにその研修医は、
酒を飲みすぎて階段から転落し、重態になってしまう。

そこでユースケはこんなようなことを言う。

妻に先立たれ家族もいない、江口洋介演じる熱血医師が、
2ヵ月も休みを取らず、救急医療を行っているのがおかしい。

熱血医師の崇高な理念のもと、
なんでもかんでも患者を受け入れていたら、
かえってミスを誘発することにもなるし、
そもそも他のスタッフは、
江口洋介のような医師ばかりではなく、
自分の家族を抱え、適度な休みが必要なものも多い。

熱血医師の存在のせいで、今回の研修医のように、
熱血医師のペースについていけず、
ミスをして、酒に溺れてしまうような者も出てしまう。
救命医療を崩壊させないためには、
救命医療に携わるスタッフに適度な休息が必要。
だから、熱血医師は病院を辞めろと。
そしてユースケ自身も医局長を辞め、
こうした状況を改善するために、
政治に働きかけて救命医療に予算を回してもらう活動に注力すると。

このシーンを見て、素晴らしいと思った。
だから食い入るようにしてドラマを最後まで見ようと思った。
ところが残念なことに、結局このドラマは、
こうした現実を見つめた病院現場物語ではなく、
安物の視聴者受けする、現実にはあまりあり得ない、
熱血医師によるヒューマン物語にすりかえられてしまった。

花火工場で爆発事故が起きると、
ユースケの後をつぎ、無理に患者を受け入れないと決めた、
新医局長の松嶋奈々子は、結局、
久々に休みをとった熱血医師が病院にかけつけたのを頼りしてしまい、
事故現場に医師が必要との要請を受け、
熱血医師だけでなく、現場を離れたはずのユースケが現場に直行。
花火が爆発するから退避しろという消防員の判断を無視し、
がれきの下の患者を見事に助け、
熱血医師もユースケもケガをしたものの、
間一髪で爆発を逃れて奇跡の生還。

病院では、大事故でてんやわんやの最中、
研修医の容態が悪化し、命が危ないというのに、
松嶋奈々子が見事手術をして治してしまう。

こんな安直なストーリーにするから、
医療問題はいつまでたっても解決できないのだろう。
こうやってその場しのぎが横行しているから、
日本は問題の先送りばかりで、いつまでたっても変わらない。
ドラマの後味の悪さに、そう思った。

人間は愚かな動物。
結局、大惨事が起きなきゃ、問題なんて解決しないんです。
もしこのドラマがこんな展開だったらどうだろう?

爆発現場にかけつけた熱血医師とユースケは、
患者を助けるため、
消防員の命令を無視して逃げたなかったため、
爆発に巻き込まれて死亡。
病院では、患者を多く受け入れすぎたため、
研修医の容態悪化に気づかず、研修医も死亡。

もしこうなれば、救命医療は間違いなく変わるだろう。
マスコミは過酷な労働環境のせいで、
事故に巻き込まれて死んだ医師を大きく取り上げ、
医師が3人も死んでしまうという大惨事の背景には、
国が医療費に予算を回さず、
政治家や官僚が救命医療に理解を示さなかったことが、
原因だと追求するだろう。
国民も医師の死を悼み、医師の待遇改善に理解を示したことだろう。

こうして現実の社会は、往々にして、
大惨事・大失態・大失敗が起きて、
はじめてその必要性に気づかされるわけです。

でもこのドラマは大惨事を起こさず、
現実の医師が無理したことで事態を乗り切った美談にしてしまった。
何事も起きなければ、政治家も官僚も国民も、
医師が過酷な労働環境にあることは気づかず、
別に医療費に予算を回さなくても大丈夫だろうと思う。
だって、医師が無理することで、
現実がうまく成り立ってしまっているのだから。

ドラマに登場する政治家も官僚もそう。
救命医療の予算増額なんか、
大惨事が起きてないから必要性を感じない。
それこそ自分の家族が病院のたらい回しにあい、
そのせいで死ぬことでもなければ、わからないわけです。

翌日、長崎旅行最終日で原爆資料館に行った。
そこで思った。
結局、原爆もこの救命医療問題と同じだと。

もう日本は戦争に勝てるどころではない。
早く降伏した方がいい。
だけど“大惨事”が起きてないから、
まだ大丈夫だろうと戦争を続行するわけです。
結局、原爆というとてつもない大惨事が起きて、
やっと日本は気づかされるわけです。
降伏しないとダメだと。

原爆が落ちる前に降伏していれば、
もしかしたら、原爆を落とされずに済み、
多数の原爆被害者を出さなくても済んだかもしれない。
でも、人間なんて愚かなもので、
原爆を落とされるぐらいの衝撃がないと、
終戦を決断できないわけです。

現場の無理でなんとかしのいでいる状況を放置し、
このままでもなんとかなるかもしれないと問題を先送りにすれば、
結果、問題はどんどん大きくなり、
いつか大きな形で大惨事を誘引してしまう。
救命医療や戦争のように。

人間には知恵があり、想像力がある。
頭を使って、想像力を働かせれば、
自分の家族が病院にたらい回しされなくても、
そういう人が大勢いるというニュースを聞けば、
それはなんとかせねばならないと思うのではないか。

自分が直接被害を被らなくても、
大惨事が起きる前でも、
想像力が働けば、未然に甚大な被害は防げる努力はできるはず。

しかし想像力がない人が多い。
それはやはり想像力に欠けた、
安物のヒューマンドラマが横行しているからではないか。
想像力を働かせたリアリティあるドラマではなく、
スーパーマンのような熱血医師の美談を放送することで、
視聴者を思考停止にさせ、
問題解決の先送りを助長させてしまう。

想像力を奪うような安直なドラマはうんざり。
ドラマだからこそ美談などではなく、
最悪の大惨事が起きた悲劇を伝えることで、
それを見て想像力を働かせた政治家や官僚がいれば、
現実の医療だって変わる可能性があるかもしれないのに。

「救命病棟24時」最終回は19.3%もの視聴率を記録したという。
ユースケが熱血医師を辞めさせる、
といったところあたりまではよかったけど、
結局、最後は美談にしてしまったのが残念でならない。

※これはあくまで私の個人的な番組の感想です。

by kasakoblog | 2009-09-25 23:41 | マスコミ

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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