石を撮る男
2008年 01月 31日
動かない。だから、石があるところが聖地なんです」
本業はグラフィックデザイナー。
広告や雑誌、会報誌など、主に紙媒体のデザインをしている、
もうこの業界で何十年のキャリアを持つ、
50歳を過ぎたベテランデザイナーのOKADAさんは、
私に石を撮る理由を熱く語ってくれた。
一般人から見れば、撮影テーマが「工場」というのも、
随分と変わり者だと思われるかもしれないが、
カメラマンとは奇妙な人種で、
やれプールばかりを撮影したり、壁ばかりを撮影したり、
錆び、電線、鉄塔、水門・・・などなど、
金にもならないのに、奇妙奇天烈な物を追っかけて、
せっせと時間と金を使って撮影している。
デザイナーのOKADAさんが、趣味とはいえ、
プロ顔負けのカメラマンの腕前で、
桜をテーマに撮影をしているという話は聞いていた。
桜、富士山、猫、女の子、子ども、廃墟などはよくある撮影テーマだ。
しかしそのOKADAさんが、今度は石をテーマにしていると聞き、
一体それはどんな理由で撮影しているのか、興味を覚えた。
石。特に巨石。
撮影場所は神社が多い。
人智を越えた異様な自然の造形物は、
昔の人々にとってはまさに崇め奉る神だったのだろう。
石を撮る、といわれるとピンと来なかったが、
巨石写真群を実際にブログで見ると、
なるほどこれは撮影テーマに値する、
実に奥深い、日本の歴史を辿る旅なのだなと、
その着眼点に感心させられた。
「だから写真だけでなく、いろいろ調べて文章もつけてるんで、
撮影したはいいけど、なかなかすぐに更新ができなくってね」
デザイナーという職業はおもしろい仕事ではあるが、しんどい仕事である。
時間が異様に拘束される。
徹夜や土日出勤は頻繁にある。
それでいて平日はバンバン電話で面倒な注文を寄越される。
そうした中で、時間を見つけては、
巨石撮影のために撮影機材をかついで全国を旅する。
そういうライフワークを50歳を過ぎたにもかかわらず、
未だに持ち続け、やり続け、
そしてブログで更新し続けるというのは、並大抵の労力じゃない。
きっと撮影が好きで、このテーマがおもしろいから、
そうした負担なんか気にせず、撮影に出かけられ、
またそういう趣味があるからこそ、
仕事とのメリハリもつくんだろうなと、
自分と同じ志向を持つ人が、
業界の大先輩にいるとは、
なんだかとてもうれしい気持ちになった。
仕事の打ち合わせで2回、事務所にお邪魔したのだが、
仕事の話もそこそこ、それが終わると、
撮影の話に限らず、文学、映画などなど、
様々な話に及び、時間が過ぎていった。
「何でも本物を見なきゃだめ。映画にしろ、文学にしろ。
古典といわれるものはね、やっぱり素晴らしいわけですよ。
そういうものは必ず読むなり見るなりしなきゃね。人として」
本業はデザイナーにして、趣味はカメラ。
しかし話は文学、映画といった様々なジャンルに及ぶ、
その基礎的教養の広さに驚かされた。
それは単にクリエイター的仕事をしているからだけでなく、
やっぱり人格形成という意味でも、
古典的名作は通っておくべき道なんだなと、
自分の基礎的教養のなさを思い知らされた。
もっといろんなものを吸収してかなくちゃなと。
そんなOKADAさんが私のホームページを見てくれて、
猫の写真を誉めてくれたのが何よりうれしかった。
「写真ってのはね、反射神経だから。運動だから。
即座に反応できるか。それがシャッターチャンスってことだからね。
猫はよく撮れてるね~」
桜を撮る時の苦労話なども実におもしろかった。
桜は私もちらっと撮ったことがあるんだけど、ほんと難しい。
難しいというのは、撮るのが難しいんじゃなく、
撮るタイミングが実に難しいのだ。
天気によってその表情はまったく変わってしまう。
何より咲き頃が1日違えるだけでまったく変わってしまう。
毎日自由な時間があるならともかくも、
デザイナーの仕事をしながらその合間を見て、
全国各地の桜を撮影しに行くのは、ほんとそういう意味では実に難しいのだ。
「工場も同じでしょう。天気とか日の具合とか」
工場はまだ生き物でないので姿かたちを変えることはない。
しかし桜は生き物だ。
年によっても咲き具合が違うし、
ベストショットが撮れる瞬間に立ち会えるのを、
待つ、通い詰める、計算する、その労力はものすごいものだろうなと。
「まあ、その点、石は桜よりはいいけどね」
仕事以外のライフワークを持つ。
誰から命令されたわけでもない。
誰から頼まれたわけでも金がもらえるかもわからない。
でも自分が好きだから、その情熱が行動に駆り立てる。
そんな素敵な心を50歳を過ぎても持ち続ける、
デザイナーOKADAさんの写真ブログ、
巨石巡礼、桜巨木伝をぜひご覧ください。
ライフワークがあるって、その人の人生を輝かせるんだなー。
普段、寡黙なOKADAさんが泉から水が湧き出るように、
何時間も話す姿が印象に残っている。
巨石巡礼
http://home.s01.itscom.net/sahara/stone/
桜巨木伝
http://home.u08.itscom.net/sakura/