流行を追いかけず、流行るのを待て~なぜ工場を撮影したのか~
2007年 08月 07日
「工場がブームだったからですか?」
写真集「工場地帯・コンビナート」を出版した後、
よく聞かれる質問。
工場がブームだったから撮影していたわけではない。
撮影していたらブームになってくれた。
そのおかげで出版できた。
※工場ブームは昨年あたりから。
タモリ倶楽部で取り上げられたのをきっかけに、
ブログの女王などでも取り上げられた。
2006年12月には工場鑑賞DVDが、
2007年3月には工場萌え写真集が出て、長らくブームが続いている。
どんなビジネスでもそうだと思うんだけど、
流行を追いかけているうちは、所詮、後発にしかなれない。
かといって何が流行るかわからない時代に、
流行を予測しようなんて、マーケティング調査したところで、
それが当たることは稀だ。
失敗するリスクも非常に大きい。
ではどうするか。
好きなものをやり続けて、ブームが来るのを待つのである。
ブームになってマスコミに登場する専門家や評論家って、
別にブームになったからやっているわけじゃなく、
もともとコツコツやっていたわけです。
たとえばワイン通とかコレクターとか軍事評論家とか。
それが急に話題に取り上げられるようになり、
引っ張りだこになる。
ブームになってからあわててやったのでは、
多分ビジネスにはならないだろう。
もちろん、モノマネのうまい日本企業は、
何かブームに火がつくと、
似たような二番煎じ、三番煎じを次々と繰り出し、
ある程度、儲けることはできる。
特に二番煎じは非常においしくて、
第一人者を参考にして改良したものを出せるメリットはあるのだが、
まあこれだけ流行り廃りが早い時代であるから、
後追いで開発・製作してもすでにブームは終わってる、
なんてこともあるし、
やはり第一人者と違って、付け焼刃に過ぎず、
蓄積されたノウハウがないから弱い。
工場もそうだ。
工場がブームになり、これはビジネスチャンスだと、
あわてて撮影し、本を出したところで、
もしすでに工場ブームが終わっていて、
次は団地ブームだったらブームを外してしまうことになる。
旅行ガイドブックや投資の世界でもある。
たとえば旅行地として急にロシアがブームになったり、
投資先としてブラジルがブームになった時に、
ロシアやブラジルの専門家というのは、
数が少ないし、今まで日が当たらなかっただけに、
非常に重宝されるわけです。
打算でやることって案外成功しない。
儲かりそう、流行りそうなんて安易な気持ちで飛びつく度に、
いつも後追いで遅かったということにならないよう、
ブームになるかならないかを問わず、
自分の好きなことを続けているが一番だ。
料理、趣味、語学、文化、研究テーマなど、
いつか時代が求める時期が来る。
そのチャンス到来時にきちんと準備ができているかが成否の分かれ道だ。
まあ好きなことをしていれば、
ブームにならなくても関係ないし、
モチベーションが持続する。
自分が楽しめていることが重要。
私がもし工場ブームだからという理由で撮影していたら、
ブームにならなければ嫌でやめてしまっただろうし、
撮影していても楽しくないだろうし、
撮影にかける労力もうんと変わってきただろう。
そこで、はじめの質問。なぜ、工場を撮影していたのか。
その光景が、実に美しいから。
そして実にまがまがしく、
こんなものが未だにあるのかという驚きがあるから。
だから私は頼まれもしないのに、
冬の寒い時期に、会社に出る前に、
夜明け前に起きてチャリをこいで工場地帯に行き、
天気が悪かったので3日間続けて撮影に行ったり、
(その後、風邪をひいたのだが(笑))
いい工場風景に出会うため、
炎天下の中、何時間も歩き回ることも嫌にならないわけです。
だから結構、ムダも多い。
地図を見ながらここならビューポイントだろうって思った場所が、
実はそんなにたいしたことなかったり、
壁で覆われて見えなかったり。
そんな苦労を重ねて、目の前に素晴らしい工場風景が広がった時の喜び。
これがやめられないわけです。
また工場の魅力でたまらないのは、
時間帯によってその姿を変えること。
朝の神々しい光の中の静かな工場。
昼間のこれみよがりのむきだしの姿。
夕日をあびてまるで滅び行く廃墟のような儚い姿。
暗闇の中、ライトアップされて幻想的な夜景。
だから同じ場所でも時間を変え、何度も訪れている。
ここまでならどんな人にも共通する、
自己満足の趣味で終わってしまうわけだけど、
私の場合、この発見を、この素晴らしさを、
誰かに伝えたいって想い(欲求)がわいてくる。
それでホームページをやったり、本にしたりしている。
私と同じようにみんなが無駄足を踏む必要ないわけだから、
私の撮影活動の中でいいとこどりしたところを見せてあげて、
撮影スポットについてのショートカットも教えてあげる。
そしたら、この本を見た人は、
自分で行こうと思っても時間がかからずに済むし、
足を運ばなくてもこの美しさを楽しめる。
よくよく考えるとそれって旅行記事と似ている。
あまり知られていないけどいい場所を教えてあげたい。
みんながみんな時間と金があるわけじゃないから、
その素晴らしさを写真と文章で伝えたい。
工場写真集も実はトラベルライターの仕事と本質的に変わりない。
というかサラ金関係の本にしても同じ。
本来の意味でのジャーナリズムってそういうことなんだと思う。
知らないことを代わりに現地に行って調べて、
その無駄な部分を排除していいところだけを教えてあげる。
その手間賃として対価をいただく。
工場を撮影したきっかけは、
もともと私が幼少の頃に、京浜工業地帯のそばに住んでいたから。
私が住んでいた社宅のある場所は高台になっていて、
森永工場をはじめ、京浜工業地帯を遠くに眺められた。
私は小児ぜんそくだったのだが、
社宅のベランダから、その景色を眺めるのが好きだった。
そんな原風景の体験から、
再びこの地に住むことになり、
幼少時代をたぐるように工場撮影をはじめたのだった。
しかし、幼少時代に気づくことなかった美しさを知り、
すっかりはまってしまったというわけだ。
どんなものでもブームになる時代。
だからブームを追いかけるんじゃなく、
好きなことをやり続けて、それがブームになるのを待つ。
そうすると趣味が仕事になったりする可能性があるんじゃないかな。
・全国工場写真