
子供たちにとってこれほど有意義な教育はないのではないか――。
徳島の漁村・伊座利の体験学習を紹介する。
約100人の小さな漁村。
小・中学生はあわせて20人程度の学校だが、
ビジネスを学ぶのに素晴らしい体験学習を、毎年1回行っている。
それは子供たち自身が、
生産・販売・消費すべてを体験するプログラムだ。
5月。子供たちは漁師さんの教えのもと、
浜辺に出てヒジキ刈りを行う。
引き潮になった数時間、岩場についたヒジキを鎌で刈り取っていく。
取ったヒジキは釜で6時間茹で上げる。
その後は数日がかりで天日干し。
当番制で数時間おきに表裏をひっくり返す作業をする。
天日干しが終わると、ゴミ取り作業。
それが終わると今度はビニール袋に詰めて商品化していく。
そしていよいよ販売。
漁村から車で1時間以上かけて、徳島市内の日曜市で、
自分たちが取ったヒジキを販売する。
すべて完売すると売上の一部から、
子供1人に500円の小遣いが渡される。
子供たちは好き好きに日曜市で買い物をする・・・。
売るものを自分たちで取る。
売れるよう商品化していく。
そしてそれを販売し、
もらったお金で自分が好きなものを買う。
これぞ教育だと思った。
生活していくためには仕事をしてお金を稼がなければならない。
自分でお金を稼げるようになるのが、
教育の最大の目的の一つだと私は思う。

漁村の大人たちだってこのように生活している。
海に出て漁に出る。
魚や海草などを取り、それを販売して生計を立てている。
まさに大人の仕事を体験できる学習プログラムだ。

販売当日は朝3時45分に子供たちは漁協前に集合。
漁師さんとともに一緒に定置網漁に出て、漁体験もする。


漁が終えて漁村に帰ってくるのが5時半頃。
それから魚の種類別に分ける仕分け作業を、
大人たちとともに子供も行う。



日曜市で大人が販売する魚を持ち、
自分たちが作ったヒジキを持って、
朝6時半頃、漁村を出発。
7時半頃に徳島市内の市場に到着し、
子供たち自ら販売する。


市場には多くの店が出ており、売るのは結構大変。
子供たちは伊座利のはっぴを来て、
指定された場所で売るだけでなく、
客を呼び込むために市場中、上り旗やチラシを持って歩き回る。

その姿は、市場に来ていた参議院選挙立候補者の選挙活動顔負け!
子供たちの声の方がよく通り、
政治家なんかよりはるかに目立っていた。


必死さが違う。
自分たちが作ったヒジキが完売しないと、
帰れないし、お金をもらえないんだから(笑)。


店に来たお客さんに、
ヒジキほか海草アラメの販売も行う。
アラメはあまり知名度のない海草のため、
お客さんは「アラメって何なの?」「どう調理するの?」
という質問に対し、子供たちが説明する。
お金のやりとりも子供たちがやる。

なかにはめちゃめちゃ売ってくる、
すごい営業マン子供も現れる。
店のヒジキをカゴに入れ、
市場をかけずりまわって移動販売。
この子がめちゃめちゃ売ってくる!
元気ではきはきしているし、
声をかけて断られてもめげないし、
商品の説明も的確にできるので、
他の子供たちとは違って売れるのだ。
まさに生きた学習!
今年はヒジキ大1000円を約170袋。
ヒジキ小500円を約120袋。
海草アラメ200円を150袋。
7時半から販売してなんと10時に完売!
こんなに早く完売している店は他にない。
大人の漁師たちは獲れたての魚を販売。
こちらも10時には完売。
新鮮、安い、うまい。
そして愛嬌があるせいか、
市場のなかで「伊座利」はひときわ目立つ存在だ。
ファンも多く、毎回買いに来てくれる人も多い。
こうした一連の体験プログラムを取材・撮影するため、
ずっと伊座利の人たちにくっついていた。
すでに4度目の訪問になるので、
東京から来たカメラマンであることを見知っている人も多く、
外から来た取材者というより、
漁村側のスタッフになったみたいで、なんとも楽しかった。
地元のテレビ局も毎年取材に来ていたらしいが、
「テレビはああしろこうしろと、子供たちの作業の手をとめてしまうので、
もう来るな!と断った」という。
メディアに取り上げられれば、
注目度が増し、村の活性化に役立つとはいえ、
子供たちにとって何が大切か、
この体験は何のためにやっているのか、
目的がぶれずにテレビ取材を断る姿勢は実に立派だと思う。
前にも雑誌で電話取材で済ませようとした記者を、
叱ったこともあるという。
「現地に来もしないで私の電話の言葉だけを活字にされたら困る。
雑誌に載せるなら、現地に来て、
自分のこの目で見て書いてください」
仕方がなく来た雑誌の記者は、
すっかりこの漁村が気に入り、
取材日程を延ばして滞在していったという。
過疎化、高齢化、限界集落、後継者難など、
地方の漁村・農村の衰退は著しい。
にもかかわらず、やり方を工夫し、
こうした体験学習ができる場所として、
村外から漁村留学を受け入れる取り組みが功を奏し、
子供たちが増え、村が活性化している。
こうした成功体験をマネしようと、
全国各地から徳島の僻地にあるこの漁村に視察に来るという。
しかし上っ面だけでマネしただけで、
村が活性化できるはずもない。
こうした覚悟を図るため、
伊座利では視察申し込みの自治体に際し、
「平日の視察はお断り。来るなら土日に来てください」
と言っている。
つまり、仕事の時間を使って、
出張して漁村でうまいものを食って帰れるという、
よこしまな理由の人は断り、
休日を返上してでも自分たちの村を活性化したいという、
本気度を見ているのだ。
記者に対しても自治体に対しても、
決して迎合することなく、
自分たちの信念を貫く伊座利の姿勢。
こうした姿勢と覚悟があるからこそ、
小さな漁村の奇跡の復活劇がなしえたのだと思う。
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