罪と罰(4)
2001年 01月 11日
そこにはたいしてやる気のなさそうな警官が一人座っていた。
僕はまるで裁判でも受けるかのように、周りを取り囲まれて座らされた。
「今日はこんな大勢で一体何事かね?」
警官は背もたれにそっくりかえりながら、鼻くそをほじくり、ぴょんぴょん飛ばしながら面倒くさそうに言った。
「こいつはひどい犯罪人だぜ。あんたもこいつを捕まえれば、昇進間違いねえよ」
と、よっぱらいじじいはやる気のない警官を挑発するかのように、せせら笑った。
「おい、俺は何にもやってねえぞ。それよりこのじじいにケガさせられたんだ」
と僕は人差し指からわずかに血が流れているのを、その警官に見せた。
よっぱらじじいは何もそれに対して反論しなかった。意外にも口を開いたのは3人の中年男の1人だった。
「やっと捕まえたぞ。こいつが俺のばあさんを駅の階段から突き落としたんだ!
足早に駅を歩いていたこいつは、80才にもなるうちのばあさんを押したんだ。
なんてことしやがるんだ。もしばあさんが死んだら殺人になるんだからな」
(ばあさんを突き飛ばした?殺人?!なんじゃこいつは・・・)
確かに僕は駅を足早に歩いていたが、ばあさんを突き飛ばしたことなど全く覚えがない。
「おいおい、いい加減にしろよ。俺は何にも知らないぞ。ばあさんなんかにも会ってないし、
突き飛ばしたなんてことしてないぞ。人違いじゃないのか」
僕は血相を変えて無実を訴えた。
「しらを切っても無駄だぞ。駅での出来事に目撃者はいっぱいいたんだ。
俺だってこの目で見たんだから間違いねえ。何なら目撃者をもっと連れてきてやろうか。
まあ、ばあさんが意識が回復すればすべてははっきりすることだが。待ってろよ。目撃者を連れてきてやる」
と男は部屋から出ていった。
「おいおまえ、随分なことしてるみたいだな。これはゆっくり話を聞かなきゃならんな」
やる気のなかった警官は本腰を入れはじめ、僕をじっとにらみすえた。
「全く身に覚えのないことだ。ほんとに何にも知らないことなんだ。これは何かの間違いだ。人違いだ!」
と言っても、僕の言葉は虚しく狭い部屋に響きわたるだけだった。
「証人がくればすべてはっきりする話だろ」と、警官はにやにや笑っていた。