罪と罰(3)
2001年 01月 09日
まだまだ油断は禁物だと、足早に駅構内を走り抜けていった。
走り抜けていく途中、すれちがったよっぱらいのじじいがぶつかってきて、
僕は手の人差し指あたりをすりむいてしまった。
じじいに文句を言おうと立ち止まろうかと思ったが、
今はそんなことより、キセルがばれないように駅から離れることに集中しようと思い直した。
わざわざ清算機に定期を入れるなどという小細工を使わなくとも、
怠慢な係員の隙をついて堂々と出てしまえば、意外にあっさりキセルが成功するではないか。
もう大丈夫だろうと歩速を緩め安心した瞬間、僕の前に3人の中年男と、さっきのよっぱらいじじいが現れた。
「あんた、さっきすれ違った時にぶつけられてケガをしちまったじゃねえか。どうしてくれるんだ?」
と、よっぱらいじじいが僕の前に立ちふさがった。
あれは僕は悪くない。むしろこのじじいのせいで指がすりむけてしまっていたので、逆に、
「おい、あんたのせいでケガをしたのは俺の方だ。どうしてくれるんだ?」と言い返した。
するとじじいは、「それはちょうどいいや。どっちが正しいかきちんとしようじゃねえか。おい、警察連れて行くぞ」
と、周りの3人の中年男に合図を送った。
「あれはじじいが悪い」という確信はあったが、わざわざこんなことで警察沙汰になるのは面倒だった。
しかし3人の中年男たちは僕を強引に引っ張っていった。
「この3人の男たちはいったい何だ?」と疑っていると、その疑問に答えるかのように、
「こいつら3人もあんたに話したいことがあるそうだ」と、よっぱらいじじいは自信気に言った。
中年男3人に取り囲まれては抵抗のしようもなく、有無を言わさず警察に行く事になった。
「こうなったら白黒はっきりつけようじゃねえか」
と僕は威勢の良いセリフを吐いたものの、内心あまりやっかいごとに関わりたくないなと思っていた。