都会の片隅で
2001年 01月 08日
東京という町は実に不思議な魔力を持っている。
電車は3分に1本は来るというのに、なぜかあわてて急いでしまう。
みんな血相を変えて、まるで1時間に1本しかない電車に乗るかのように、わき目も振らず足早に歩いている。
「何をそんなに急いでいるんだ?」と周囲を批判してみたとしても、その魔力にはまっているのは自分自身でもあった。
ゆっくりと歩く人を蹴散らすかのように、僕はなぜか相等なスピ-ドで歩いていた。
そんな時、どこからともかく・・・かすかな声が聞こえた。優しいかぼそい声で、「すみません・・・」と。
僕は、まさか自分に声を掛けられているとは夢にも思わず、その場を足早に通り過ぎようとしていた。
しかし再び「すみません・・・」という声が、さっきよりは幾分大きな声が聞こえた。
「ひょっとして僕に声を掛けているのか?」ー僕はふと足を止めて辺りを見渡した。
声は聞こえてくるが、声の主がどこにいるのかわからない。あたりを見渡すと、小さな子供が僕をみつめていた。
「すみません、まるのうちせんのぎんざにいきたいんですけど・・・」
制服を着た小学生低学年ぐらいの男の子は、かぼそい声で僕にたずねた。
「えっ、ぎんさ?まるのうちせんの?ちょっと待って」
あどけない子供から「銀座」という言葉に違和感を覚え、一瞬たじろいでしまったが、
すぐに頭を切り替えて、丸の内線の銀座に行く乗り場を探した。
「わかったよ。あのでんしゃだよ」
子供に間違いは教えられないと、僕は慎重になって何度か確認して教えてあげた。
すると子供は、ちょうどホ-ムに到着した電車めがけて走り去っていった。
僕はしばし歩を止めたまま、吸い込まれていく子供を見守った。
なぜ彼は僕に声を掛けたんだろうか?
無数の人の雑踏の中で、ひときわ急いでいる僕になぜ聞いたんだろうか?
自分が道を訪ねる時というのは、聞く人を意識的にせよ無意識的にせよ、かなり選んで声を掛けているように思う。
大勢の人の中で子供に行き方を訪ねられたことが、なんだかすごく名誉なことのように思えて、僕はうれしい気分になった。
あの人込みの中から、僕は彼に選ばれたのだ。
彼が僕を選んだのは、僕自身の心のどこかに「子供」への興味があったからだろう。
それが無意識のうちに交差して、都会の片隅に一瞬の出会いを作り上げたのだと思う。
僕はきっとまだまだ子供なんだと思う。
子供心を求めて彷徨っている旅人。自分の心のどこかで童心がくすぶり続けている。
いまだに子供のように無邪気に遊んでいたいのかもしれない。
僕の最も好きなア-ティストの名が、ミスタ-チルドレンというのは偶然ではないのだろうな。