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沢木耕太郎の旅展(2)、(3)

あとはとりたてて印象深い写真はなかったが、僕が興味を持って見たのは、彼の草稿や取材ノ-トの方であった。
ワ-プロ原稿が当たり前の今の時代だが、作家が原稿用紙に書き綴った手書きの原稿というのは、
その字間から作品への意欲が伝わってくるような衝撃があった。
「こうしてこの深夜特急を書いたんだな」という実感が伝わってくる。
同じ書き手として作家の生原稿を見るのは、他人の創作活動をのぞいているようで参考になった。

あと驚くべきことは取材ノ-トやメモノ-トの綺麗さだった。
ノ-トに順序立てて一つ一つきれいに書いている。このまま清書の原稿として使えそうなほどきれいなことに驚いた。
というのも自分の取材ノ-トの汚さと比べたからだった。僕の取材ノ-トはすさまじい。
書きたいことがあって、そこで思いつくかぎり忘れないうちにとにかく書きまくる。
頭に思い浮かぶスピ-ドで書いていくので、猛烈な乱雑さで文字が連なっていくのだ。
自分でも後から読めない箇所がたくさんある。
でも一度頭に浮かんだことを書くことによってアウトプットしてしまえば、
後から読めなかろうが、そこに書いたことは自分の中で忘れない。いわば備忘録のようなものだ。

あと印象に残ったことといえば、「深夜特急」の話で出てきたイランのバザ-ルで、
何度も何度も通いつめて値段交渉して買った懐中時計の実物が展示されていたことだった。
そういったもの一つが展示されているだけで、深夜特急の話の内容が思い出されてくる。

<3>
彼の「旅展」は彼のこれまでの軌跡展でもあった。
彼の年譜を見るとわかるように、「深夜特急」という著作は彼の中では特異なものであることがわかる。
彼の著作のほとんどが、人物やスポ-ツにスポットをあてたノンフィクションなのだ。
だからこそ彼の旅へのスタンスが軽やかで、そして何でも見てやろう的な楽しさで貫かれているのかもしれない。
そういう意味では、何度もあちこちを旅し、現地の奥深いところまで入り込み、
写真を中心に活動していた藤原新也とは全く別の魅力があるのだろう。

それにしても彼の経歴はすごい。
会社をすぐに辞めたのも特別な理由があるわけでなく、
ノンフィクションのライタ-になったのも、教授の仕事紹介という偶然からだった。
そしてライタ-として一作の著作が出てすぐに、仕事を投げ出して1年にもなる旅に出たというのもすごい。
それも仕事が嫌になったとか日本が嫌になったとか重い理由があまり見受けられないのである。

しかもその1年の旅を「深夜特急」という本にしたのは、旅から10年後のこと。
さらにテレビ化されたのはその10年後。
それでも彼の「深夜特急」に秘める魔力が通用するのは、人々の潜在意識の中にある「旅への希求心」に触れるからだろう。

彼はあまりに簡単に仕事を投げ出して旅に出て、あまりに簡単に1年にもなる旅をする。
今の日本人に対して、「旅に出ることはこんなに簡単なことなんだよ」と軽やかにメッセ-ジを投げ掛けているようだ。
それがこの「深夜特急」の魔力の源に他ならない。誰もが深夜特急の主人公になれるのだ。
今すぐにでも・・・。

「ほんの少しの決断力と、ほんの少しの非常識さえあれば、誰だってこんな自由な旅に出れる」

深夜特急に魅せられて旅に出た僕の出発の言葉を思い出す。

※沢木耕太郎の旅展は世田谷文学館にて4/8まで開催されています。(入場料400円)

by kasakoblog | 2001-04-07 02:32

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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