ゴールデンウイーク・その2
2001年 05月 12日

今年のゴールデンウイークで忘れられない思い出の出来事があった。
ここ9年連続で山中湖にテニスをしにいっているが、今までにない珍事件が起きた。
テニスコートに入った車が、雨のためにぬかるんだ地面にすっぽりはまってしまい、抜けれなくなったのだ。
今まで9年間、同じ場所に同じ時期に来て同じことをして帰っているが、こんなことは想像もしなかった。
変な話だが、こういうトラブルがあって良かったなと思う。
「車を無事に脱出させる」という一つの目的のもとに、みんなが頭や体を使って協力し合う。
苦難を共にすることによって仲間との連帯感が強くなったというと大げさかもしれないが、
忘れられない思い出を共有できたことは非常にうれしいことだと思う。
といってもこういう時に頼りになる人は決まっていて、
僕なんかみたいな頭でっかちな人間は、何一つトラブル解決に役立つことができずに、
「やった!つぶやきのいいネタができた!」と内心ほくそえみながらも、
神妙そうな顔をして事態を見据えながら、しっかりこの様子をカメラに収めることに余念がなかった。
なんだかそんな自分が死体に群がるハイエナのようで、しょうもない週刊誌のカメラマンになった気分だったが、
やっぱりこの場面で僕ができることは、写真を撮ってあとでこの様子を伝えることしかできないわけだから、
まあ大目にみてもらおうと、遠巻きに見つめていた。

こんな珍事件が起きた時に、僕はすぐさま思いついた出来事があった。
「なつかしいな。チベットの時のように車がスタックするなんて」
そう、アジアの旅で、チベットで車がスタックした時の光景を思い起こしたのだ。
標高4500m。夏だが周りには雪の降った後が地面にちらついている。
「道なき道を行く」とはこういうことを言うのだろう。
近くに家や街があるわけでもなく、ただそこにあるのは広大なチベット高原のみ。
当然、脱出しなければ大変なことになるのだが、この時も車がスタックして、
僕は正直わくわくしてしょうがなかった。
日本ではあまり見られない事態を僕はおもしろがっていた。
旅の記憶は時と共に急速に風化していくが、こういう印象的な事件が起きた時のことは、
まるで昨日のことのようによく思い出せるから不思議でならない。
僕はユーラシア大陸の高原の奥地で、こんなことをしていたんだと思うと、
なんだか今いる日本の日常の生活が信じられないような気にもなってくる。
旅した時は、写真に映し出された世界こそが、僕の唯一の日常だったのだから。
二つのスタック。
場所や周囲の環境や起こった事情も全く違うけど、二つの記憶は、僕の心の中にしっかりと刻み込まれている。
苦難こそが旅の、そして人生の印象深き思い出の一つなのだろう。