ベトナムイメージ~ベトナム(1)
2001年 06月 18日
3ヶ月のアジア放浪に比べたら、たったの6日間など「旅」と呼べる代物ではない。
しかし僕の目の前には間違いなく異国の世界が広がっていて、
そこで見たものは異国のほんの一部分にしか過ぎなかろうとも、現実世界であったことに間違いはない。
今回のベトナム旅行は、これによって何かの作品を書こうというものではなく、
極めて自己治癒的要素の強かった、いわゆる普通の旅行である。
僕の宿病である「旅の病」が発病してしまったので、それを癒す(誤魔化すの方が正確か?)ために旅をした。
1週間旅して本を1冊作ってしまった「エジプト旅行記」を考えると、
内容はともかく、それだけ自分の中で旅に特定のテーマがあったことはすごいなと思う。
今回の旅にはそういったものがいっさいない。
ベトナムを選んだのも気まぐれであり、ベトナムで旅した場所も極めて気まぐれである。
たかだが6日間だが、写真だけはいっぱい撮ってきた。
そこで写真を中心に「僕の見たベトナム」を紹介したい。
そこに何が立ち現れるのか、未だ僕にもよくわからない。
ただその写真群の背後に、ある一定のイメージが浮き上がってくるのではないかという予感だけはしている。
この写真を見せて「ここはどこでしょう?」と質問して、
まず「ベトナム」と答える人はいないのではないか。
僕もこの場所に実際に行ってみて、ここがベトナムとは思えなかった。
というのもこんなにただっぴろい大地が広がっているような場所があるとは、
思わなかったからである。
世界地図を見るとわかるが、ベトナムは南シナ海に沿った非常に南北に長い国である。
だから草原でも砂漠でも、田園地帯でもデルタ地帯でも、
どこまでも広がる雄大な景色があるとは想像していなかった。
赤茶けた砂土に時折サボテンが生えるこの半乾燥地帯に、
自分のイメージしていた「ベトナム」とが合わなかったのだろう。
しかしここも間違いなくベトナムなのである。
最近ベトナムブームが著しく、日本のあちこちにベトナムイメージが氾濫している。
アオザイであったりベトナム雑貨であったり、町中いっぱいをかけめぐるシクロであったり、
洒落たベトナム料理であったり、メコン河を舟で豊富な物資を運ぶ人々であったり・・・。
旅行のパンフレットには必ずこういった「イメージ写真」が全面に押し出され、
行ったことがなくても知った気になるぐらい、今の世の中「イメージ」であふれかえっている。
もし僕がベトナムの本を書くことになったとして、表紙の写真に何を使うかといえば、
やっぱり一般的なベトナムイメージの写真を使うだろう。間違ってもこの写真は使わない。なぜならどこだかわからないのだから。
こうして一度作られたイメージは、強力な規制力を持ち、イメージが現実を規定するまでに至る。
イメージが限りなく再生産されていき、どんどん現実から遠のいていく。
僕が今回旅行して一番感動した景色がこの写真の風景だった。
ベトナムイメージとは程遠い。しかしこれも間違いなくベトナムの現実世界の一つ。
イメージによって現実世界が規定されていくなんて、こんなバカらしくてつまらない話はない。
イメージは常にぶち壊されていくもの。
自分のこの目で確かめる。
それが超バーチャルリアリティ社会の世界に住む人々の旅をする意義なのかもしれない。