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古くて新しいものを(1)(2)

今、時代は大きな変革の時にある。
社会システムそのものが根本的に揺らいでいる時代。
新しい価値なり指針なりをどこに置くかが未だ定まらず、右往左往しているのが、ちょうど今なのだ。

揺らいでいる価値観とは、第二次大戦後、全世界的に広まった資本主義システムであり、
アメリカ型社会であり、経済至上主義である。
大量生産・大量消費・経済成長・景気・GNP…
そういった経済用語が全く意味のないものになりはじめた時代が訪れている。
新製品を開発し、それを大量生産・大量消費させ、それで人々が幸せになる。
そんな右肩上がりだけの、常に新しいものを求める社会的風潮に疑問が投げ掛けられているのだ。

そんな時代的雰囲気をかぎとってか、市場には「過去のもの」の復活が見受けられる。
消費者が新しいものを追いかけることに飽きたし、疲れたのだろう。
漫画界では、今から10~20年前のヒット漫画が次々と復刻版となって発売されているし、
たとえば井上陽水のカバ-アルバムも昔のヒット曲をカバーするという手法は、その流れを組んでいる。
「明日がある」の大流行などもその一つではないか。

私たちは今まで新しいものばかりを追い求め、時代が進むにつれそのスピ-ドはどんどん加速化していた。
昨今の音楽ヒットチャ-トを見ればそのことは明らかだ。
デビュ-したばかりの新人やグル-プがいきなりヒットチャ-トのトップになったりするが、
それが全くつづかずに、次から次へと新しいものがヒットチャ-トに並ぶ。
新人が活躍することはいいことだが、それが育たずに終わってしまうのである。
というより人々はただ「新しい」ということだけに価値を置いているので、
新人が古くなってしまえばもう用はなくなってしまうという状況にあるのだ。

でもさすがに人々は疲れはじめた。
懸命に働き懸命に消費していくことにばからしさを覚えはじめたのだ。
超デフレ経済のおかげで人々はやっとそのことに気づいたのだ。

何も新しいものばかりに目を向けなくても、昔にいいものがいっぱいあるじゃないか。
新しいことを追い掛けるだけではなく、古いものを見つめ直したらどうか。
そうした流れの一貫として漫画の復刻や井上陽水のアルバムなどがあるのだと思う。

しかしそれは単に古いものをそのまま今の時代に持ってくることではだめだ。
古いものを今の時代にあった形でアレンジする必要がある。
つまりは、「古くて新しいものを」。
それが今の時代の流行の一つのキ-ワ-ドであるかと思う。

とここまで今の時代の流れをした上で考えてみたいのが、今、大流行の本「チ-ズはどこへ消えた?」である。
迷える現代人に生きる指針となるべくした本ということで売れているのだろう。
僕もたまたまこの本を読む機会があった。

この本を読んで僕が思ったことは、「時代と逆行してないかい?」ということだった。
「古いチ-ズには早く見切りをつけて、新しいチ-ズを探しにいこう」というこの著のスト-リ-は、
未だに前時代の「新しいことを追い求める」風潮を踏襲した、非常に資本主義的、経済成長主義的思想から
はっせられているような気がしてならない。

もちろんこの書でいいたいこともわかるし、もっともなこともある。
変化に対していかに早く対応していくかということは、時代の過渡期にある現代にとっては大切なことであるし、
古い考え方を捨てて、新しい時代に対応すべく考えや行動を変えていかなくてはならないという主旨もわかる。

しかしどうもこの本の全体的な思想背景には、前時代の経済成長主義的発想が色濃く残っているような気がしてならなかった。
古いチーズが無くなったからといって新しいチ-ズを探すことだけでなく、古いものにも目を向けること、
現在の状況を受け入れることも、これからの時代には必要なことではないか。

20世紀は世界にある新しいチ-ズをめぐって、各国が競って捜し出し奪い合い食べ尽くした時代である。
そのために環境は悪化し、資源は枯渇し、人々の精神は退廃し、不幸になった。
新しい時代を生き抜く指針は、極端な論かもしれないが、
もし古いチ-ズが消えてしまったら、別の新しいチ-ズを是が非でも人と競って捜し出すのではなく、
チ-ズがなくなったという状況を素直に受け入れ、そこで飢え死にすることも、大事なことではないかと思うのだ。

人間中心の時代は終わった。
人間は世界中のチ-ズを食べ尽くしている飽食怪物に成り果てた。
迷路を探し回り、破壊し尽くし、荒らし回った。
新しい時代を生き抜く指針は、非常にパラドキシカルなことだが、
「死」を素直に受け入れることも忘れてはならないものの一つなのである。
代理出産やクロ-ン人間、さらには管漬け薬漬けにした現代の医療事情は、
「死」や「運命」を素直に受け入れず、人間の悪あがきをして生命の尊厳を侮辱しているだけであるように思える。

チ-ズが消えた。だからまた迷路の中を新しいチ-ズ探して走り回るべきだとするこの書の論旨は、
だから時代に逆行しているのである。

新しいチ-ズを探すことではなく、チーズが消えた状況の中で、迷路を荒らさずそこにいて生き抜く方法を考えていく。
それが今の時代に最も必要なことではないだろうか。
そうした時にはじめて「古くて新しいもの」の創造が生まれるのではないだろうか。

by kasakoblog | 2001-06-02 00:20 | 生き方

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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