
おい、そこの若いの。
いくら世界各地を旅してまわったところでな、
おまえさんの求めるようなユートピアなど、どこにもありゃしないんだよ。
もちろん、ここは確かに美しい港町だよ。
海辺に咲いた花の生き生きしさ、青空に浮かんだ雲の生き生きしさ、
透き通る海のみずみずしさ、この地に生きる人々のすがすがしさ…
でもな、それはな、この町のほんの一部のことにしかすぎねえんだ。
生きるための苦しみも悲しみも、この美しい港町にだってあるんだ。
ただ言えることはな、あんたの国から見ればだいぶましだってことよ。
だからあんたはここがユートピアに見えるんだよ。
おまえさん、気をつけた方がいいぞ。
あんたの目はな、あんたの心はな、そうとう濁ってるぞ。
機械ばかり見てるからそういうことになるだ。
いいか、ここは楽園でも桃源郷でも何でもない。
ただ自然がな、そのまま残されているだけのことよ。
ただそれだけのことなんだよ。
この地がユートピアじゃねえってことがわかったら、あんた、自分の国にさっさと帰りな。
自分の国に帰って自分たちでユートピアを作り上げるんだ。
他でもない自分の故郷にな。