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媒介手数料(かさこ金融道)

<1>
この道20年のベテラン町金、岩山さんが、今日はやけにそわそわしていた。
「かさこさん、今日の取引は間違いなく18時ですよね」と何度も念を押してきた。
そう、媒介業者にとっては、うちが客にお金を受け渡す融資当日が勝負なのだ。
融資の口利きをしたということで5%の手数料をもらいうける。
当然お客さんは借金まみれだから、先に手数料を払うことなどできない。
だからうちの会社の融資が決定し、そのお金の受け渡し日に手数料をすっぱ抜くというわけだ。

なぜここが勝負か?
ただ融資先の紹介をしただけで5%もの手数料を取るのはなかなか大変なことである。
借金まみれの客は一銭足りとも無駄な金は使いたくない。
やっと融資が決まってお金を借りられるのに、そのお金を他にもってかれてしまったら困ってしまう。
紹介だけした媒介業者への手数料をごねるケースが多いのだ。

岩山さんは1時間近くも前にうちの会社に来た。
その異常なほどの早い出現に、ひょっとこ店長が僕を呼んだ。
「かさこくん、今日の融資は18時からでしょう。なんで業者があんなに早くきてるの?」
「いや、なんせ今回は高額な手数料になりますから。客が逃げるのではないかと相当心配しているようです」

一見するとヤクザではないかと思えるほどの強面の雰囲気を醸し出している岩山さんでさえ、
客が逃げるか心配でならないのだ。
岩山さんだけでなく、そこの媒介業者の社長さんからも電話が度々入った。
「かさこさん、うちの岩山もういってますか?今日はよろしくお願いします」

どちらかというと適当で大雑把でいつもはどっしり構えているあの社長が、
わざわざこんな風にして電話を掛けてくるのは極めて異例の事態だ。
たかだか入社1年目の新人22歳のこの若造に「よろしくお願いします」なんて、
今までに何度となく修羅場をくぐり抜けてきた社長が下手に出るのだから。

<2>
なんだか僕は恐ろしい世界に入ってしまったかのような気がしてきた。
もし客が手数料の件でごねたらどうしたらいいんだろう?
でも僕ら融資元はその件に関しては何もタッチしてはならないことになっている。
紹介してもらったのに、その業者を応援しないというのは薄情な話だが、
あまりに融資元と媒介業者が密着していると、逆にうちが手数料の二重取りをしているように見られるからだ。
本当に金融の世界はドライな関係である。

これだけ業者が気にするのには理由があった。
それはここ最近では稀にみる大きな取引だったからだ。
4500万円の融資。手数料は5%で225万円。
バブルが崩壊してからというもの、どこの融資先も融資金額をしぶった。
1000万円前後までなら何とかなるが、3000万円以上だと相当厳しい審査が行われる。
つまり今回の4500万円というのは、僕にとってもうちの会社にとっても、そして媒介業者にとっても、
久しぶりにビックな仕事なのだ。

1000万円の融資で5%の50万円ぐらいの紹介料なら文句をいう客は少ないが、
ただ融資先の口利きをしただけで225万円である。
これはあまりに多いのではないかと客がごねる可能性は十分にある。

またごねる理由がもう一つあった。
本当は客の希望は5500万円であった。
紹介料も取られることを計算し、他の借金を清算したり、他のもろもろのことに必要なお金がこの金額だった。
ところが不動産と客の属性などを考え合わせて審査で大幅に減額されてしまったのだ。
だから客としては1000万円も希望金額に満たなかったにもかかわらず、
225万円しっかり紹介手数料を取られてしまうというのは、かなりきついことだった。
希望金額の融資ができなかったことを理由に、紹介手数料をまけろという可能性は十分にあった。

<3>
客は中年のおばさん。
かなりケバイ感じで男勝りのやり手の雰囲気。女社長という言葉が似合う人だ。
18時になると客が現れた。
岩山さん同席のもと、うちの方の今回の融資の説明をする。

「まず不動産についていた町金A社への抵当権3300万円の借金返済。
第二順位でついていた町金B社への抵当権300万円の借金返済。
消費者金融5社への借金支払いが270万円。固定資産税の未納分80万円。
それからうちの費用ですが、
事務手数料が1.5%で69万円。今回の根抵当権設定の費用として司法書士に60万円。
それから公正証書作成費用に、登記簿謄本代、火災保険質権設定代・・・
ということで残額310万円をお渡ししますのでご確認ください。

客はしっかり万札の枚数を確認する。それが終わるとうちは領収書をもらって融資は完了だ。
「4500万円、13%、240回の契約で毎月のお支払いは52万円となっています。
月のお支払日は15日となっていますのでぐれぐれも遅れませんように。どうもありがとうございました」

そしてここから媒介業者と客との話し合いが始まる。
しかし岩山さんがあれだけ心配していたにもかかわらず、客はごねなかった。
もちろんきっちり岩山さんが5%の媒介手数料の契約を事前に交わしていたこともあるが。

客が帰ると、岩山さんが僕のところに飛んでやってきた。
「かさこさん!やりましたよ!!まったく値引きされずばっちり取れましたよ。
ありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますね!」
といってルンルン気分で帰っていった。

僕は複雑な心情だった。
4500万円もの融資を成立させ、営業成績は不動のトップとなった。
何度も通いつめてうちの会社にお客をやっと紹介してくれるようになった、
取引先である媒介業者との信頼も深まり、今後もお客を紹介してくれるだろう。

でもうちの直接のお客さんはどうなるんだ?
確かに町金A社3300万円を24%で借りていたので、大分負担は楽になったかもしれないし、
客からも喜んでもらえた。
でも・・・。

そんなこと考えていたらだめなんだ。
これは仕事なんだ。金融の世界に金の貸し借りの契約以外に差し挟むべき感情はない。
仕事への満足感を覚えながらも、何か引っ掛かることを忘れようと、融資が終わると僕も会社を出た。

by kasakoblog | 2001-07-22 18:28 | 金融・経済・投資

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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