「冷静と情熱のあいだ」江國香織・辻仁成著
2001年 09月 27日
昔別れた恋人が、それぞれ別々の生活をイタリアで送っている。
しかし互いに忘れらず「30歳の誕生日にフィレンツェのドゥーモで会おう」という
約束に向って物語は突き進んでいく。
そのスピード感がたまならかった。
辻さんの描く男と、江國さんの描く女が一体どこで一緒になって新しい物語を紡ぎ出すのだろうか。
8年ぶりの再会に起こる出来事は何だろうかと、先を読み進めていた。
にもかかわらず、いつまでたっても、それぞれの単調な、しかしどこかちぐはぐな日常生活ばかり。
そんなことはもうわかっているから、早く再会してどうなるのか知りたいというまどろっこしさを感じた。
別れた原因、手紙を書いた後の行動、そして再会後の行動。
どれもなんだかすごく中途半端な印象を受けた。
設定がおかしいのではないか。そんな感じがした。
「冷静が情熱に勝った」というわりに、8年間も思い続けているし、
それでいて互いにずるずると日常生活に引きずられているし、
もしかしたら本当の人間もこんなものなのかもしれないが、なにか不自然な感じがした。
全体的な設定に矛盾があったのではないかという気がしてならない。
最後の結末もとってつけたようで、なんだか釈然としないまま読み終えた。
「まあ小説なんてこんなものだ。必ずといっていいほど結末に納得がいかないものばかりなのだから」
ただこの小説でおもしろかったのは、絵画を修復する修復士という職業の存在だ。
大したことのない恋愛ストーリーを中心にするより、はるかにこの修復士にスポットを当てて、
その人生を描き出した方がおもしろかったのではないか。
修復した絵が切り裂かれる事件、先生の自殺、絵画を教えてくれた祖父とのやりとりなど、
その話だけでいくらでもふくらみそうな感じだった。
他愛のない恋愛物語にするより、フィレンツェを舞台にした日本人修復士の半生みたいなテーマにしたら、
すごくおもしろかっただろうにな。