「クラウディ」辻仁成著
2001年 11月 12日
アメリカに亡命したソ連のペレンコ中尉。
彼をモチーフにして書かれた小説が「クラウディ」だ。
亡命当時、函館に緊急着陸したペレンコ中尉の飛行機を著者が見たことが、 この小説を書いたきっかけとなっている。
高校生だった主人公は、生きていることの虚しさを感じ、自殺を図る。
しかしその時、屋上の上に飛び立った飛行機が、亡命したペレンコ中尉のものだった。
「戦争だ」とはじめ思ったが、亡命だった。
~亡命~
その一言が、彼に生きる道を与えたものの、 その後の彼の人生は、単調なものに過ぎなかった。
30才を前にした彼に、周囲の人間は、人生を変えるためにそれぞれの亡命劇を企てる。
取り残された彼は、彼女だけはひきとめようとして話は終わる。
彼が亡命劇を行わないまま、この先どうなるかはわからないところで終わりとなる。
前半は実におもしろかった。
高校生の時にペレンコを見た話。そして自殺しようとした話などは、
自分の実体験をもとにしているせいか、非常にリアリティがあって興味深い。
そして今の単調な生活の中で、次々と登場するユニークなキャラクターが物語の幅を広げていく。
しかし後半になると、ストーリー展開がいい加減になる。
なんだか自爆自棄的でストーリーを急展開させたいのはわかるが、
唐突すぎるというか、話が飛びすぎというか、身に迫ってくるリアリティがないのだ。
亡命というテーマもおもしろい。登場人物も魅力的。
あとは後半のストーリー展開さえよければなという感じだった。
亡命ーそれは逃げて生きる道もあるんだということの一つの方法だ。
がんじがらめになって、切羽詰ってどうしようもなくなってしまった時に、
短絡的に死を考えたり、そのまま我慢して苦しんで生きていくこと以外にも、
生きる選択肢があるのだということを提示している。
もちろん亡命したからといって、今よりよい人生が送れるとは限らない。
でも逃げることも積極的な選択になりうる場合もあるのだ。
しかし主人公は亡命しない。 亡命しないこともまた一つの前向きな選択肢ではある。
あなたに亡命する地はありますか?