サラ金! 第3話・第4話

3:金融業は性悪説や
「八木君、ちょっと来て」
朝礼が終わると、今度は柳田店長から応接室に呼びだされた。
店長から事務的な手続きのことやら、この店のこと、そして社会人としての心構えの話があった。
さっきの岡田先輩の話に比べると、幾分常識的な話にほっと安心した。

そんな話の最中に電話が鳴った。何回鳴っても誰も取ろうとはしない。店長は業を煮やして、自分で電話を取った。
電話を取ると、みるみる店長の形相が変わっていった。
「八木君!女性から電話!」
店長は恐ろしい顔をして、店全体に響き渡るように叫んで、僕に電話を取り次いだ。
口をとんがらかし、あごをしゃくりあげ、目をひんむいてにらみつけた。
後から先輩社員に聞いた話だが、その表情から、店長のあだなは「ひょっとこ」と呼ばれているらしい。
その形相はすさまじいものがあった。

でも、そりゃそうだ。はじめて職場に来たその日に、新入社員の分際で、
個人宛ての電話がしかも女性から掛かってきたら、誰でも怒るだろう。
遠くで岡田先輩が心配そうに僕を見つめていた。この出来事に他の先輩社員もニヤニヤしながら事の顛末を見守っている。
しかし僕には身に覚えがなかった。ここの職場の電話番号を教えたのは父親しかいないのだから。
女性から掛かってくるはずはない。一体誰からなのだろうか?僕は緊張しながら電話を取った。

「八木さんでしょうか?」
「ハイ」
「日本クレジットと申します。この度はクレジットカードをお作りいただきありがとうございました。
在籍の確認を取らさせていただきました。それでは失礼します」
なんだ。クレジットカードを作った確認の電話だったのだ。
社会人になったから、クレジットカードの1枚ぐらいは持たないといけないかななどと思って、つい先日カードを作ったのだ。
その時、申込書に職場の電話番号を書いたのだ。

柳田店長はそれを察したからか、何も言わずに応接室から出ていった。
まったく、まいったな。ついてない。会社生活初日だっていうのに。しかもよりによって店長が電話を取ってしまうなんて。
「八木君、どこから電話やったんや?」
岡田先輩が心配そうに声を掛けてくれた。柳田店長こと、ひょっとこ店長の目をひんむいた態度が気になったのだろう。
なんといってもこのサラ金業界の離職率は異常に高い。
せっかく新卒社員がこの部署に来たのに、すぐ辞めてしまったら会社にとっても社員にとっても不幸でしかない。
そんなことを心配してか、教育担当に任命されているだけあって、責任感の強い岡田先輩は、兄貴のように僕を気遣ってくれた。

「もう、びっくりしましたよ。クレジットカード会社からだったんです。この前、社会人になるからと作ったカードだったんです。
その時にここの電話番号を書いたんです。女性からって店長が言うから、ほんとびっくりしましたよ。
ここの電話番号知ってるの、親しかいないはずですから」
「なんや、そうやったんか。よかった。よかった。それにしても笑い話やな。
初出勤の日に在籍確認されるとは、金融業のお株を奪われたな。はっはっは」
「笑いことじゃないっすよ。もうほんと迷惑な話ですよ。
会社名も名乗らず、若い女性から掛けてきたら、そりゃ、店長だって怒りますよ」

「なんでカード会社が会社名を名乗らず掛けてきたかわかるか?」
「いやがらせですか?」
「違う、違う。これからうちらの仕事でもあるんや。『在籍確認』いうてな、
その人がちゃんとその会社の勤め人であるかどうかを、金融会社が確かめるんや。
なぜ個人名で掛けてくるかいうと、プライバシーの保護のためやな。
あの人、あそこのクレジットカード持ってるんだとか、
あの人あそこのサラ金から金借りてんだと職場にばれてしまったら、困るやろ。
そやから必ず個人名で職場に電話を掛ける。これをしないで会社を名乗った場合は、
第三者への情報開示にあたり法律に違反することになるんや。これこそ、まさにうちらの仕事なんやで。
お客から申し込み受けて勤務先書いてもろうたら、個人名で職場に電話掛けて在籍確認するんや」
「そうだったんですか・・・」

サラ金勤務初日に、女性の個人名で電話が掛かってきて店長の信頼を失うという、まったく情けないスタートとなったのである。
それにしても、社会っていうのはいろんなことするんだなと思った。

「いいか、八木君な。この話のついでに金融業の鉄則教えてやるわ」
「鉄則?」
「そうや。八木君は、人間のことどう思う?」
「人間のこと?」
金融業の鉄則に哲学まで必要なのだろうか。「人間のこと」と突然聞かれて、僕は何と答えたらいいのか見当もつかなかった。

「つまりな、性善説か性悪説かってことや。ようは、人を信じるか、信じないかってことや」
性善説に性悪説?岡田先輩、僕の一つ年上でしかないのに、やけに難しい話をする。
なんでそんなギリシア哲学みたいな話がサラ金に関係があるんだろうか。
「いいか、八木君な。金融業の鉄則はな、性悪説や。人を疑うことからはじめる。
客を疑うことからはじめるんや。それが金貸しの商売哲学の基本中の基本なんや」
「あー、はい」
「客は金借りるためには平気で嘘つきおるんや。
たとえば勤務先にしても、名刺や給与明細書いくらでも偽造して騙したりするんや。
この人いいとこの勤めだと思うたら全然違うなんてことになったら、えらいことや。
だからな、わざわざ在籍確認いうて電話掛けて確認するんや。
そうやって客の言ったことがほんとかどうか、この目で確かめ、書類で裏付け、確かめる。
そうやって客の言ったこと一つ一つ疑ってかかっていくんやで。これを忘れたらあかんで」

この仕事何年も続けていたら人間不信になってしまいそうだ。
僕はとんでもない職業についてしまったのだろうか・・・。



4:中堅会社の秘策
僕が勤めることになったナルシンファイナンスは、消費者金融業界の中で中堅だった。
ばんばんテレビコマーシャルをやっている大手会社より規模も融資残高も劣っていたが、
業界全体の追い風を受けている中でもひときわ成長著しい会社だった。
大手消費者金融は3000人規模の大会社になっていた。いくらポスト不足とはいえもう飽和状態だ。
これだけの規模になると大企業病も出てくるだろう。
それならまだ500人しかいない中堅の消費者金融会社で、これから急激に伸びるであろうこのナルシンにしたのだ。
このまま成長を続ければ10年後には、ポストも給料も大手に勤めるよりはるかに跳ね上がっているだろうと踏んだのだった。

全国に100店舗、無担保ローンの店があり、その他に無人機の「ナルシスくん」のみの店が30店。
そして僕の配属された不動産担保ローン専門店が6店あった。
中堅会社として大手に追いつけ追い越せを掛け声に、全社的にすさまじい成長を遂げていた。
その中で大手企業に追いつく秘策として考えられたのが「不動産担保ローン」である。

無担保ローンで地道に営業活動を続けて融資残高を増やしていっても、到底大手会社にはかなわない。
そこで一挙に融資残高を伸ばす大口融資商品として不動産担保ローンを開発したのだ。
無担保ローンは通常50万円までだが、不動産担保ローンは最低100万円から上限は3億円までという大きな融資だ。
2年前まで東京と大阪の2店舗しかなかった不動産担保ローンの店を、昨年になって札幌・仙台・名古屋・福岡と4店舗増やした。
そこで人手が大幅に不足しているので、中途採用で銀行出身者などを続々と入れた。
そして今年、はじめてこの不動産担保ローンの店に、今後も力を入れて行くために、
はじめて新卒の社員を配属することとなったのである。それが僕だった。

by kasakoblog | 2002-01-27 00:38 | 金融・経済・投資

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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