サラ金! 第1話・第2話

第一章:サラ金見習い修業
1:うちの仕事はなあ、たばこみたいなもんや

「八木君、ちょっといいかー」

社会人として初出社の日。教育担当と紹介された岡田先輩が僕を応接室に呼び出した。
僕は何を思ったか、俗に言う「サラ金」会社に勤めることになった。
バブル崩壊後、銀行や生保、証券会社が続々と倒産したり不祥事が報道される中、
不景気にもかかわらず金融業で驚くべき成長を遂げていた消費者金融業界。
給料も高く、新卒の採用にも積極的で、毎年右肩上がりの成長で、全国に出店ラッシュのために昇進も早い。
特にやりたい仕事がなかった僕にとっては、
給料が高く昇進も早そうな、しかも今まさに成長途上の「サラ金」こそ、うってつけの就職先だった。

「これから八木君の教育担当となる岡田です。よろしくなー」
関西の人らしい。職場の中では一番年が近いだけに親近感がもてる。
まじめそうで、頼り甲斐のあるお兄さんといった感じだった。
「ところで八木君、この仕事のこと、どう思う?」
うーん、この仕事のこと?サラ金という仕事について深く考えたことは正直なかった。
ただ世間で言われているような、一般的なサラ金批判説は受け入れがたかった。
やっぱり借りたものは返す。これが当たり前のことだと思う。でも僕にとって仕事の中身など何でも良かった。
実力があれば、年功序列ではなくすぐに昇進できる。給料がいい。金融会社だから基本的に土日は休み。
自分が働く環境としてしか仕事を考えていなかった。仕事の中身は余程いやなものでなければ何でもよかったのだから。

僕が返答に困っていると、岡田先輩は自ら口を開いた。
「八木君な、これから仕事していくうちにいろんな経験するんと思うけどな、
うちの仕事はな、このたばこみたいなもんやー」
岡田先輩は吸っているたばこを頭上にかざして、ぷはーと煙を吐いた。
「たばこの吸い過ぎはよくないから何度も禁煙しようとするんやけど、どうしてもできんのや。
しばらく禁煙してもまた吸ってしまう。そのうちだんだん吸う量が増えていくんや」

サラ金の仕事とこのたばこの話が、はたしてどう結びつくのだろうかと、僕は黙って岡田先輩の話を聞いていた。
「いいか、八木君。この仕事、サラ金はな、このたばこといっしょや。
少しだけうまく使って借りるのはいいんや。でもな、そのうちやめられんようになって、どんどんエスカレートしていくんや。
自分でちゃんとコントロールしないとな、大変なことになる。たばこと同じや。
適度に吸う分にはいい。でもな吸い過ぎたらあかんのや。金借りるのもいっしょや。
借りすぎたら体に悪くなるばかりか人生おかしくなるんやで」

僕がこれから仕事をするお客さんというのは、そんなにひどい人たちばかりなのだろうか。
今の時代にお金を借りるのなんて、生活費のためではなく、ちょっと遊び金が欲しいから借りる程度のことだと思っていたが、
先輩の話を聞くとなんだかすごそうだ。

「世間ではサラ金サラ金いうてうちみたいな会社を悪くいうけどな、たばこといっしょでサラ金は必要悪なんやで。
そのことをこれから八木君はよう覚えておかんとあかん。ほんとは悪いもんだけど、必要なものなんや。
必要としている人がどこかにいてる。だから商売としてなりたつんや。
いいか、金貸しはな、必要悪なんや。八木君な、しばらく仕事を続けていくと、
『俺の仕事って社会の役にたってんだろうか』と思うかもしれん。だけどな、金貸しは『必要悪』なんや。
本当にあくどい商売やったらサラ金の仕事なんか社会からなくなってるし、こんなに右肩あがりで成長せんはずや。
たとえ『悪』でも必要とされている限り、社会からはなくならない必要とされている仕事なんやで、金貸しは」

『必要悪』・・・。
別にわかっていたことだったが、やっぱりサラ金の仕事って辛いのかなとちょっとショックを受けた。
自分の給料さえよければ何でも仕事はいいと思って就職したものの、
社会で長く仕事を続けていくには、やはりそれだけの動機ではだめなのかもしれない。
『必要悪』の『金貸し』を仕事として僕はこれから働いていく。
一体この先何年この仕事を続けられるだろうか、不安になった。

僕より1つしか違わない岡田先輩のわずか10分足らずの話だったが、
現場の第一線で仕事をしている人の言う言葉は違う。すっごくリアルだなと思った。
こうして僕の社会人生活、サラ金勤め生活が始まったのだ。



2:毎年最下位東京店
岡田先輩からの金融業としての洗礼を受けると、朝9時の始業時間となり、朝礼が始まった。
全員が起立しての朝礼。30~40才の男ばかりが10人ほど立ち並んでいた。
「おはようございます!」
「おはようございます」
気合の入った挨拶から始まる・・・と言いたいところだが、今日、朝礼担当の岡田先輩の挨拶だけが元気よく、
あとはどこか投げやりな挨拶だった。

「なんだ、その挨拶は?岡田君、悪いけどもう一回挨拶からはじめて!」
柳田店長が朝から怒りをあらわにして全員を怒鳴った。挨拶のやりなおしなんて、なんか小学校みたいだ。
やり直して変わったとも思えない覇気のない挨拶が終わると、岡田先輩は先月の営業成績を読み上げた。
「3月トータル契約件数14件、融資総額1億6550万円、融資残高伸びが7820万円・・・」

僕は営業なんだ。毎日営業成績と闘うサラリーマンとなったのだということを、この場にいるとひしひしと感じた。
ひょっとして僕は大変な仕事を選んでしまったのだはないかと、今更ながら不安がよぎる。
店の中にはでかいいホワイトボードに営業成績の個人別グラフが描かれていた。
こんなもの、ドラマの世界だけで、今時の会社ではないと思っていたが、
やはり営業の部署ではこういった最も原始的な方法で、社員を喚起させているのが実態なのだ。

(それにしても、これは見世物だな)
グラフにして成績を図示されると、できない人とできる人の差が驚くほど明確になる。
僕はぼーとそのグラフに見入っていた。このグラフにこれから僕の名前も加わるのだ。
「では、柳田店長、よろしくお願いします!」
岡田先輩が営業成績の発表を終えると、店長の話が始まるらしかった。

「おはようございます!」
眼鏡を掛けた細身の店長だが、その狡猾そうな表情は、
営業店の店長として、常に数字に追われる立場を物語っているかのようだった。
「まず、岡田君から先月の営業成績の発表があったように、先月はみなさん、よくがんばってくれました。
しかし残念ながら、前半の不調がたたって、
札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の全国6店舗の不動産担保ローンの店の中で、
半期トータルの成績では最下位。この成績を持って、今週の土曜日に本社に会議に行きますが、
東京店の営業不振に対しては厳しく部長・課長からもつっこまれると思います。
もう終わったことは何を言っても仕方がないですが、半期の反省を各個人しっかりして、
特に成績の悪かった人は、自分が何が悪かったのか十二分に反省して、
また今日から新しい半期がはじまりますのでがんばってもらいたいと思います」

6店舗中最下位?
この東京店はそんなにへぼいのか。まいったな。こんな店に配属されてしまって。
「ところで、今日からこの東京店に新卒の社員が配属されることになりました。
不動産担保ローンの店に新卒社員が配属されるのは、はじめてのことです。
それだけ社長は不動産担保部門に期待しているのです。
いち早く戦力になってもらって東京店の一員として活躍してもらいたいと思います。では、八木君!」
「ハイ!」
緊張の面持ちで僕は挨拶をした。

「今日からこの店に配属されました八木と申します。早く一人前になって、
仕事ができるようがんばりたいと思いますので、よろしくお願いします!」
テキト-に就職したとはいえ、いちよはじめての社会人生活である。
入ったからにはがんばろうと、僕は熱血漢には程遠いが、それでもはじめての挨拶だからと自然と気合が入っていた。

「パン、パン、パン」
ぱらけた拍手が、2、3回ならされる。店長と岡田先輩だけが、新入社員を歓迎し盛り上げようと、
拍手を必要以上に大きく叩いてみたが、そんな態度がここでは妙に浮き上がってしまう。
そこに居合わせた他の社員は、自分には何の関係もないっといった態度で、無関心を装っていた。

「では、これで朝礼終わります。今日も一日よろしくお願いします!」
「ねがいしま~す」
なんだ、この腐敗しきったムードは。毎年最下位で、向上心のない中年社員ばかりが集まった店。
僕はこんなところに配属されて、果たしてやっていけるのだろうか。先行きの不安ばかりがよぎった。

by kasakoblog | 2002-01-26 00:40 | 金融・経済・投資

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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