メキシコたびばな1
2002年 01月 19日
メキシコ人が僕に話しかけてくるはじめの言葉は、十中八九、
「エスパニョール?orイングリッシュ?」であった。
あんたはスペイン語を話せるか?それとも英語しか話せないのか?とまず聞かれるのだ。
ここはスペインではないにもかかわらず、植民地時代の名残で、公用語はスペイン語。
英語はほとんど通じない。
だから僕が「イングリッシュ」と答えると、ほぼそこで会話は終わってしまう。
残念なことだが、まともに英語も話せないのにスペイン語などに手が回るはずもない。
しかしそれでも現地でホテルを探して泊まったり、レストランで食事をしたり、
バスや列車のチケットを買ったりして、旅ができるのだから、そう心配することはない。
しかも不思議なことに、旅をしていくうちに習いもしないのに、スペイン語の意味がわかってくるのだ。
もちろん複雑な会話はわからないが、何を言っているか何となくわかるようになってくる。
例えばお店でミネラルウオーターを買う。
「シンコペソス」と返答がくる。
多分値段のことを言ってるのだろうが、いくらかがさっぱりわからない。
適当にお金を出すか、紙に書いてもらうかする。
そこでやっとミネラルウオーターが5ペソだったことを知る。
これを何回か繰り返しているうちに「シンコ」というのが「5」なのだなと自然に覚えていく。
すると不思議なことに「じゃあクアトロと言われたのは4なのだな」と他の数字も覚えてしまう。
こうなってくると実に旅が楽しくなるのだが、残念なことに、
せっかくその国に慣れ始めた頃には帰らなくてはならないのが、短き旅の欠点だ。
<2>
海外でコーヒーを頼むと、大概どこでもミルクはついてこない。
ミルクが黙って出てくるのは日本ぐらいではないだろうか。
ミルク付コーヒーと言わなければ、ミルクは付いてこないし、 ミルク付の場合には値段が違う場合もある。
このメキシコでもそうだった。
英語が通じるところなら「ミルク」といえば通じるのだが、スペイン語しか通じないお店ではえらい苦労した。
コーヒーを頼んで「ミルク」と何度言っても通じない。
ゼスチャーでコーヒーに液体をたらすまねをしてみても、わからない。
そのうち店員は「レイチェ?」と聞いてきた。
「いや、レイチェじゃなくてミルクだ」 「レイチェじゃないの?」 「いや、ミルクだ」
店員はあきれ顔をして戻っていった。僕も通じなかったのならミルクなしでコーヒーを飲めばいいやとあきらめていた。
するとちゃんとミルク付で店員がコーヒーを持ってくるではないか。
そして彼女はミルクを指差し、「これがレイチェなの。覚えておいてね」と笑みを浮かべた。
スペイン語ではミルクのこと「レイチェ」っていうんだ。
こうやって旅をしていると徐々に言葉を覚えていけるのだ。
<3>
外国語会話は必要に迫られ、しゃべらざるを得ない状況になれば、自然と誰だって覚えていけるもの。
それを「いつかは使うはずだ」とか「外国語ぐらいしゃべれなければ」と、
普段会話をする場面がない日本で、教養のために外国語会話を覚えようするから、なかなか覚えられないのだ。
「日本人は英語を6年間も勉強しているのに、ろくにしゃべれないのはなぜか?」
英語をそれなりに話せるアジア各国の人からこうバカにされるのである。
旅の楽しみは言葉を自然に覚えていけること。
言葉を覚えていくと、その国でだんだんといろんなことができるようになっていく。
大金はたいて駅前留学やらTOEICやらのしょうもない勉強するなら、
楽しくて自然に言葉を覚えられる旅に出たほうがはるかによい。