「サヨナライツカ」辻仁成著・書評
2002年 03月 22日
これはつい最近出たものなのだが、つまらなかった。
おもしろい話にしようがあっただけに残念だった。
第一部は、主人公豊が結婚を前に、突然現れた美女と恋に落ちる話。
日本に婚約者がいる間、バンコクで夢のような一時を送る二人。
主人公も婚約者をとるか恋人をとるか迷い、恋人も身を退くか退かないか迷うわけだが、
結局お互い惹かれ合いながらも、別れることになる。
さあこれからどうなるんだろうというところで、第2部になると、突然25年が過ぎてしまう。
もうお互い50歳過ぎで、そこで突然の再会があるわけだが、
もう今更再会したからどうというわけでもなく、その割には若かりし頃の一思い出という以上に、
深刻に愛し合っているという設定がなんとも無理がある。
偶然の再会がせめて5年後ぐらいなら、まだいかようにもストーリーが展開しようがあるのに、
50歳過ぎで再会されても、第一部であれだけセックスシーンばかりを描いていたので、
その再会のなせる意味があまりない。
再会をもっと早くし、どちらを選ぶか葛藤するシーンを描くか、
互いに現状の生活は変えないまでも、頻繁にやりとりがあって、二重生活を25年間続けてきましたとか、
そういったストーリーならおもしろかったのに。
また第一部でもバンコクの2人の仲が知人や会社の人間に知れ渡っていたにもかかわらず、
その噂話が結婚相手の妻に全く知られないというのも不自然。
また妻があまり出てくることがなく、
ただ一方的に恋人の方を褒め上げるのは、物語的に葛藤にはならずおもしろくない。
どうしたんだろう辻君。
昔の作品の圧倒的なおもしろさというより、
人間関係の深さみたいなものがこれには全く感じられなかった。
残念で仕方がない。
それにしても辻君の作品にはやたら不倫相手が出てくるが、
よほど今の妻に不満があるのかそれともしょっちゅう不倫しているのか、
そう思われたりしないのだろうか。