「彗星物語」宮本輝
2002年 05月 19日
まさか「そのパクリではあるまいな?」と思った作品だが、
残念ながら「天までどどけ」の方がはるかにおもしろいのだが・・・。
ハンガリーの留学生を13人家族の家に泊めることになった3年間を描く。
つまらなくはないし、読み進めてしまうが、暇つぶしの本としての意義はあるが、
深い文学作品ではないので、残念ながら後に何も残らない。
深く何かを考えさせられる本ではない。まあテレビドラマにしたらおもしろいかもしれない。
深いテーマがなくとも単なるエンターテインメント小説ならば、
もっともっと一つ一つの話を濃くして10巻ぐらいのシリーズにすべき。
書かれている視点がくるくる変わる。
母の心情を通した書き方が一番多いが、一番下の子供を通した書き方の部分もあり、
なんかその辺があまり一定していないことが、余計にあやふやにさせる。
通底した主人公から、家族それぞれを眺め渡していく方がわかりやすいかもしれない。
批評をすれば切りはないが、なぜ家に来たのが「ハンガリー人」だったがいまいち不明。
作者の共産主義に対する痛烈な批判を、共産主義国に住む若者に語らせるためなのか。
でもそれが主題なら、2巻程度で軽い話ばかりが出てくる中では、
この共産主義批判は唐突な感がある。
おもしろい仕掛けは、教育批判をするために、
自分の作品が出題された国語の問題を取りだし、作者自らが文句をつけるのを、
一番下の子に語らせるというのはおもしろいにはおもしろいが、
まあなんかそこにちょこっとだけそんな話を挿入されても、深くは印象に残らないし、
エンターテインメント小説にしては生々しい問題がでてきすぎるという欠点もある。
この大家族を冷静にみつめている犬の存在も、この作品の中では大きな意味があるのだろうし、
最後にこの犬が死ぬことによって物語を終わらせていることから、その重要度がわかるわけだが、
かといって犬の存在を中心に書かれているわけでもなく、その辺がすごく中途半端なのだな。
話したいことを詰めこみすぎで、一つ一つが軽薄になってしまうという、
愚を犯しているような気がする。