IT'S A WONDERFUL WORLD
2002年 05月 10日
ミスターチルドレン10周年10枚目のアルバム、その名も、
「IT'S A WONDERFUL WORLD」が今日、発売となった。
前回アルバム「Q」完成後、解散を考えたというミスチルが、
このアルバムで新境地を開拓し、新たなスタートを切った記念すべきアルバムなのだ。
先行シングル「優しい歌」「youthfuldays」「君が好き」の3枚を含む全15曲。
「深海」や「BOLLEO」、また「DISCOVERY」で、
重い荷物を背負って苦しみながら、強い使命感を持って悲壮に満ちて生きていくミスチルみたいな、
ある意味、重苦しいイメージがあったが、
「ポップに立ち返った」このアルバムの抜けの良さは、
前回の実験アルバム「Q」があったからこそ生まれたものだと言える。
特に「優しい歌」「youthfuldays」、この2シングルは、
音楽としての聞き心地の良さという点でも、楽曲としての完成度は非常に高いことを、
アルバムで改めて知ることになるだろう。
しかしアルバムの価値が決まるのは、シングル以外の曲。
この「IT'S A WONDERFUL WORLD」のアルバム曲で、今の段階ですごく気に入ったのが、
CMで流れている「蘇生」と「LOVEはじめました」の2曲をあげたい。
「蘇生」となんだか重苦しいタイトルがついているが、
僕が思うにこの曲こそアルバムタイトル「IT'S A WONDERFUL WORLD」と名付けるべきだったのではないか、
と思うほど、ダークな桜井君が「世界は素晴らしい」と言えるような、
非常に前向きでリズミカルな曲になっている。
歌詞からすれば「I'll be」や「ALIVE」を思い起こさせるような、
暗い現実の中でどう生きていくかみたいなことなんだけど、
その両曲に見られるような悲壮感がなく、前向きに自分で変えていこうという、
非常にポジティブな面が押し出されていて、いい感じである。
シングルとしても十分通用する、先行3シングルのミスチルなりの集大成的曲だと思う。
<2>
そしてタイトルからもわかるように、問題作「LOVEはじめました」。
「LOVE」って言葉が入っているから、前向きなミスチルが大々的に「愛」を歌おうっていう意味ではあるんだけど、
この曲はまったくその逆で、今まで以上に毒気の強いダークなミスチルを全面丸出ししている。
それも「NOT FOUND」のカップリング「1999年、夏、沖縄」や、
アルバム「Q」収録の「友とコーヒーと嘘と胃袋」でみせたような、
まさしく「吉田拓郎」調の歌い方で、歌詞というより長い文章を読んでいくような手法で、
見事にそのダークさをうまいこと曲にしたなという感じだ。
中華屋が「冷やし中華はじめました」というところからヒントを得て、
「ミスチルもLOVESONGをはじめました」という意味を込めたタイトルなんだけど、
うれしくなってしまうほど、歌詞はドクドクしい。
やっぱりミスチルがいくら新境地とはいえ、毒気を抜いて、
ただ耳障りのいいLOVESONGだけを歌うようじゃ、その辺のバンドとの差異はなくなってしまう。
「殺人現場」で「中高生達が携帯片手にカメラに向ってピースサインを送る」
「犯人はともかく まずはお前らが死刑になりゃいいんだ」なんてなんと過激な言動だろう。
でも単に社会への痛烈な批判だけで歌詞が終始してしまわないのが、今までと違うところ。
そんなダークな社会なんだけど、「僕らは愛している人に愛してるというひねりのない歌を歌おう」
それがミスチルの意図した「IT'S A WONDERFUL WORLD」なんだ。
<3>
社会は決して素晴らしくもなんともない。
それどころか加速度的に世界は素晴らしくなくなっている。
そんな社会なんだけど、自分たちができることで少しでも前向きな方向に向けていこうっていう、
だからこそ今あのダークなミスチルが「IT'S A WONDERFUL WORLD」と歌っている。
つまりは重苦しい以前のミスチルを彷彿させるような「蘇生」が、むしろ前向きな「IT'S A WONDERFUL WORLD」で、
単純明快なLOVESONGを世界に向けて歌っていこうという「Dear WONDERFUL WORLD」的なはずの「LOVEはじめました」が、
むしろ現実世界の裏面をついているダークな側面を持っている曲で、
この2曲こそがこのアルバムのコインの表裏を表している、核的存在といえるのではないだろうか。
「ああ世界は素晴らしい」
もしそう言える社会だとしたら、「IT'S A WONDERFUL WORLD」というアルバムタイトルは存在しえないだろう。
世界は素晴らしくないからこそ、「IT'S A WONDERFUL WORLD」というタイトルが存在意義を持ち得るのだろう。
ミスチルの部屋
http://www.kasako.com/mrchildren.html