ナルシスティックな物語だったらやだなあと思っていたが、そうではなかった。
しかも辻君自身をモデルにしたような主人公が、一人の女性と出会い、
その人とのしょうもないラブストーリーだったらやだなと思っていだが、そういった話でもない。
「音楽による延命」という非常におもしろいモチーフを使って、
延命研究所を舞台に、そこで繰り広げられる物語から、
「命とは何か」「生きるとは何か」「死とは何か」を考えさせられる、非常に興味深い物語だった。
辻君というともとロックミュージシャンで非常にちゃらちゃらしたイメージもあり、
(実際もそうなのかもしれないが※中山美穂との不倫騒動など)
読みたくないという人も多いかもしれないが、文章はまったくそんなところがなく、非常に好感が持てる。
「死ぬために生きているって言ってもいいんじゃないかしら、私たちの人生とは」
という言葉には大きなショックを受けた。
誰だって死ぬのは嫌だけど、誰だって必ず死ぬ。
それだったら、「死にたくない」と思って生きるより、
「死ぬために生きる」という発想の転換はすごいことだと思う。
(残念ながら、今そういった思考を持てるかといったら自信はないが)
複雑怪奇で遠回しに主題を隠すような偉そうな文学作品とは違って、
テーマがわかりやすいのがいいか悪いかは別としても、非常に読みやすく、考えやすい物語だった。