ある一人の退職
2002年 05月 23日
僕が腰が痛くて立ちあがれず、会社を休んで2週間を過ぎようとしていた頃だった。
もうこれ以上、会社を休むわけにはいかない。
いや、そんなことより、自分一人で食事や買い物ができるように歩けるようにならなければならない。
なんとかして、この腰痛状況下でも動きたい。
そこでひらめいたのが松葉杖だった。
松葉杖を思いついたのは、職場で松葉杖をついていた人がいたからだ。
彼はスキー場で接触事故に巻き込まれ、長期休養を余儀なくされた。
そんな彼が病院から退院し、とりあえず顔みせに会社に来た時の姿が、松葉杖だったのだ。
それから1ヵ月後、彼の松葉杖は取れ、僕の松葉杖も取れた。
久しぶりに現れた彼に、僕は松葉杖のヒントを得た感謝の言葉を伝えた。
「これから復帰するんですか?」
しかし彼は退職することに決めたそうだ。
怪我での長期休養明け、やっと治ったと思ったら退職・・・。
僕にはその気持ちが痛いほどよくわかった。
2週間寝こんでいた時、僕は何度となく「退職」を考えた。
人間、忙しさにかまけて日常生活に忙殺されていると、
自分の人生の大局観を忘れて、目の前にぶらさがるものばかりに目がいきがちだ。
しかし病気や怪我による日常生活のストップは、いやがおうにも自分の人生を見つめなおすことになる。
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腰が痛くて立ちあがれないにもかかわらず、
ひっきりなしになる仕事の電話・ファックス・メール、そしてパソコンに向って仕事・仕事・仕事。
「体を壊してまで無理してこんな仕事やっていていいんだろうか?
一番大事なものは、まず自分の体であって、仕事ではないはず」
そう思って退職を考えないことはなかった。
その一方で全く違う理由からも退職を考えた。
「結局は自分の健康管理がなってないがために、突然の腰痛で仕事をしている周囲に迷惑をかけてしまった。
挙句の果てに2週間も立ちあがれず、未だ治る気配がない・・・。
こんなんでのこのこ仕事に復帰できるというのか。これを機会にやめた方がいいんじゃないか」
松葉杖も取れ、それからステッキに移行したがそれも取れ、
今は杖なしで取りあえず歩けるようになり、普通に毎日会社に行っている僕がいて、
そして同時期に怪我で休んでいた彼は、やっと松葉杖が取れて復帰したのかと思ったら、退職という選択をした。
思えば、かつて僕が会社を辞めて旅に出ようと思ったきっかけとなったのは、
インフルエンザで寝こんだことだった。
この時も仕事の無意味さを感じた。
病気や怪我はしたくない。
でも病気や怪我をするのは、神様が、
「おまえ、ちと突っ走りすぎやねん。ちょっと休んで人生ゆっくり考えてみな」
というメッセージではないか。
ぜひみなさんも病気や怪我をしてほしい・・・いやいやそんなオチじゃない。
やっぱりみんなちょっと立ち止まって、自分の人生を振り返る「時間」が必要なんじゃないかってことなんだな。
でも日頃考えろっていっても、無理だと思うけど。
やっぱり「ぜひみなさんも病気や怪我を・・・」ってオチになるのか?