被災者に嫌がらせする地元住人
2011年 07月 06日
福島県いわき市の避難所から、
小名浜の雇用促進住宅に移った被災者に話を聞いたが、
そこに集まった何人もの被災者から、
「前から住んでいる住民に嫌がらせを受けている」
という話をいくつも聞いた。
被災者Aさん「回覧板を持っていっただけなのに、
うるさい!と怒鳴られた」
被災者Bさん「回覧板を持っていって手渡ししたのに、
後から外に落ちていたとかありもしない苦情を言われた」
嫌がらせをしたのがある特定の人物なら、
「たまたまその人が変な人だった」といえるが、
上記の回覧板についての嫌がらせはぜんぜん別の人だ。
回覧板に限らず、それ以外にも、
陰湿な嫌がらせを受けているといった話がかなり出た。
嫌がらせをする理由について被災者の方は、
「俺たちだって被害を受けているのに、
金払ってここに住んでいるのに、
被災者は2年間も無料で住みやがって」
という気持ちがあるからではないかと考えている。
ただどうも住人の質の違いというか、
文化の違いも大きいようだ。
被災された方は津波被害にあった、
港の集落の人たち。
町の人とは言葉も若干違い、
やや言葉遣いも荒く、
顔つき、体格なども荒々しい雰囲気がある。
(実際に私もなんか近寄りがたい感じの人たちだなと思ったが、
話すと実に優しい人たちばかりなのだが)
そして何よりこれまで顔見知りの集落で暮らしてきた。
このノリで出会った住民に大きな声で、
「おはよう!」「こんにちは!」と言うらしいのだが、
あまり近所づきあいがない住宅なのか、
ほとんどの人が挨拶を返してこないという。
被災者の人から見れば「挨拶もしないなんて失礼だ」
と思っているのだろうが、
もしかしたら前から住んでいた住民にしてみれば、
「そんなにでかい声で挨拶しなくてもいい」
「ここはもとから近所づきあいするようなところじゃない」
といった想いから無視している可能性もなくはない。
被災者の話しか聞いていないので、
いやがらせがどこまでひどいのかがわからない節はあるが、
質の違う住民がどばっと後から入ってくれば、
そこでもめるのは被災地でなくてもよく起こる話ではある。
(例えばはじめに高い値段でマンションを購入した入居者と、
後から安い値段でマンションを購入した入居者でもめるとか)
これは極端な話だがイメージからすると、
近所づきあいなんか一切ない東京のマンションに、
いきなり地方の漁村の人たちが何世帯も入ってきたら、
いろいろと考え方や生活スタイルが違うために、
トラブルになる可能性はある。
ただ私がわからないのは、そこまで違わないのでは?
と思うことだ。
津波被害のあった薄磯・豊間地区と小名浜はそう遠くない。
小名浜に住んでいる人なら漁業関係の人も多いはず。
そこまですれ違いが生じるものなのか、
どうもよくわからなかったが、
ただ被災者の方々が私が聞きたかった、
避難所での生活のことよりも、
今の住まいがいかにひどいかをみなで連呼しあっていたので、
何らかの「嫌がらせ」があるのは間違いなさそうだ。
ただその後、なぜそこまでもめているのか、
ヒントとなるような話を聞けた。
小名浜の雇用促進住宅での取材を後にし、
津波被害地区のそばで開催された復興イベントに来ていた方で、
たまたま話しかけたら、なんとその人も小名浜の雇用促進住宅に住んでいるという。
「なんか、その場所はひどいらしいですね・・・。
前から住んでいた人が嫌がらせをするとかで」と聞くと、思わぬ答えが。
「そんなことないよ。
というか俺たちが後から入ったんだから、
俺たちが前から住んでいる住民に、
合わせなきゃいけないんだと思うよ」
なるほど、至極真っ当な考え方だ。
しかし彼の話はそこで終わらなかった。
「ただよう、前から住んでいる住民たちは、
1世帯1駐車場の決まりのはずなのに、
2台も3台も駐車場使っていて、
俺たちの停めるところがない。
それはクレームとして言っておいたけどな」
どうも問題の根幹の一端は駐車場問題にありそうだ。
ここの雇用促進住宅は6棟もあるのだが、
ほとんど入居者がいないので、
1年前に3棟は改装を行い、
隣同士の壁を取り払って、
2世帯分の住居を1世帯分にして広くしたという。
つまりそのぐらい需要のない広々と使える住宅で、
ほとんど入居者がいないから、
前からの住民は駐車場1台の決まりなんか守る必要なく、
1世帯で何台もの駐車場を使っていた。
ところが今回の震災で、
津波被害にあった被災者が何世帯も入ってきたので、
そのせいで今まで無料で停められていた駐車場を、
どこか他に有料で借りなくてはならないなんて、
勘弁してほしいという想いがどうもあるようだ。
被災者がここに引っ越してきたせいで、
駐車場は無料で使えず、
不便な場所に有料で借りなくてはならないなんて負担増だ。
被災者はこの住まいを無料で借りてるんだから、
贅沢言わず、駐車場は有料のを借りろ。
俺たちだって被災者なんだぞ、
みたいなことを思っている可能性が高い。
それが嫌がらせに発展しているのではないか。
嫌がらせして被災者を追い出せば、
今まで通り、無料で駐車場を使えるし、
質の違う新しい住民とコミュニケーションをとる必要がないと。
だいたい被災者なんて2年間の無料期間を過ぎれば、
ここに住み続けることなく、
どこかに移動するのだろうから、
早めに追い出してやろうみたいな。
前々から住んでいる住民にも話を聞いたわけではないから、
違っているのかもしれないが、
被災者側から話を聞いた限りでは、
どうもそんな感じらしい。
しかも被災者の間では「小名浜の雇用促進住宅はひどい」
という噂も一部に出回っているようで、
「子供のいる世帯は子供に嫌がらせされるから、
住まない方がいい」」といった話も聞く。
現にここに越してきた被災者のほとんどは、
小さな子供がいない世帯ばかりだ。
被災者Cさんは、こう強く訴えた。
「俺はな、前々から市の職員に言ってきた。
避難所から出て行く仮住まいは、
できるだけ集落ごとにしてくれと。
でないとみんな孤立感を深め、
阪神大震災の時の同じように大量の孤独死が発生するだろう。
阪神の教訓を活かしてバラバラに住まわせないでくれ、と何度もお願いした。
でももうこのままの状態だと、
阪神大震災の二の舞で、孤独死する人が出てきてしまう」
もちろん物理的制約もあるので、
集落ごと引っ越すというのは難しいかもしれない。
しかし行政は、早く面倒な避難所を閉鎖し、
被災者をどこかしら仮住まいに押し込めれば、
それで自分たちの仕事は終わりだといった雰囲気もある。
被災していない人にとっては、
悲惨な避難所生活が終わり、
仮設住宅なり市が用意した住宅に移りさえすれば、
もうそれでゴールと勘違いしがちだが、
実は避難所を出てからがあぶない。
それは阪神大震災後の出来事からわかっているはず。
誰もがみんな被害者だと思っている。
でもこんなひどい大災害が起きた今こそ、
俺よりお前のほうがトクしてるとか、
俺だって被害者なんだぞといったエゴを捨てて、
みんなで助け合う心を持ちたい。
2時間あまり地元住民の嫌がらせの話やら、
避難所生活の話をした後、
ある被災者がこう言った。
「いや~、今日はすっきりした!
来てくれてありがとうございます!
ぜひまたうちに来てください!」
今後は避難所後の支援も必要になりそうだ。
被災地レポ&写真
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