人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ペットを巡る被災地の悲哀~正直者がバカを見る?!

ペットを巡る被災地の悲哀~正直者がバカを見る?!_e0171573_2238587.jpg

「地震後、会社から家に戻って、
残っていた犬を助けに行き、
車に乗り込んで逃げるところを津波にのまれてしまった。
幸いにして津波がひいたら、
車は大きな木のところで引っかかってくれて、
私も犬も九死に一生を得ました。
先頭が地面に突き刺さって、
後部が浮き上がった、立っているような車から、
命からがら犬とともに脱出したのです」
(福島いわき市に住むAさん:63歳男性)

そんな生死をともにした犬と、
2ヵ月の避難所生活の後、
一時的に別れざるを得なくなってしまった。

「ペットを飼える仮設住宅なんてないし、
借上住宅なんてない」
と市の職員から言われたからだ。

ペットといえど家族同然のようなもの。
ましてや一緒に津波にのまれたものの、
生きて帰ってきた同志でもある。

しかしペットを理由に市が用意した仮の住まいを断れば、
90歳になる義母に避難所生活を強いることになる。
ましてやいつかは避難所は閉鎖され、
どこかの住まいに移らざるを得ない。
仕事の関係上、福島にとどまらざるを得ず、
いずれにせよペットはあきらめなければならないのかもしれない。

幸い、ボランティアの方で犬を預かってくれる人がいた。
犬を連れて行きたいのは山々だったが、
義母のことなども考え、市が用意した雇用住宅に移った。

「ところがですよ、引っ越した途端、
両隣から犬の鳴き声が聞こえてくるんです。
ペット禁止だっていうのに、
持ち込んだ避難者の方もいたのです。
それだったら私も連れてくればよかった・・・」

今から連れてくるという手もあったが、
市に正直にペットがいることを言ってしまったので、
もはや今さらペットを連れ戻すなんてできなかった。

正直者がバカを見るのか・・・。
Aさんは表情には出さないが、
はらわたにえくりかえる想いでいるだろう。

ペットを巡る被災地の悲哀~正直者がバカを見る?!_e0171573_22383444.jpg

同じ地区に住み、津波被害で家を失った、
志賀修一さん(46歳)一家も犬がいた。

やはり市からは「ペットが入れる家なんて用意できない」
と突っぱねられた。
でもペットと別れるなんてあり得ない。
長くてもいい、避難所生活を続けるまでだ、
と思っていたが、
月日が経つと状況が変わってきた。

「市が用意した住宅でなくても、
自分で探した住宅でも被災された方には家賃補助が出る」

待った甲斐があった。朗報だ。
これならペット可能な住まいを自分で探せばいい。
避難所から会社に通い、
その合間をぬって、新しい住まい探しに奔走した。

しかしほとんど賃貸住宅はなかった。
いわき市には多くの原発被災者が避難してきており、
こうした人も家を探して住むようになっていたせいか、
ほとんど家がない。

ペット可で家族4人で暮らせる家はないか。
探し続けて見つかったのは、微妙な位置の一軒家だった。

「海沿いにある家でちょっと高台にあるとはいえ、
手前の家まで津波被害にあった場所なんだそうです。
地盤沈下もしているし堤防もないし、
津波が来たらまた逃げるしかないけど、
ひとまずはここで暮らすしかない」と考えた。
ペットを巡る被災地の悲哀~正直者がバカを見る?!_e0171573_2239160.jpg

志賀さん夫婦は「海が見える開放感のある場所はやっぱりいい」
という想いがあるものの、
お母さんは「もう海沿いはいやだ。
あんなひどい惨事に巻き込まれたくない」と言った。

志賀さん家族は地震があった途端、
すぐに高台にあるゴルフ場に逃げたので、
津波を目の当たりにはしていない。
しかし自分たちが住んでいた家が、
跡形もなく消え去っている光景は見ている。
だからもう海沿いには住みたくないと。

新しい家はやや高台にあるが、
駐車場は海沿いにある。
「なんかそれもいやなんですけど、
でもそんなこと言っててもペット可の住宅なんてないし」
と志賀さんは言う。

「そういえばペット禁止だって言ってたのに、
ペットと一緒に住んでいる家も多いって聞きましたよ。
まあうちの犬はワンワンほえるので、
さすがにバレちゃうだろうから、
禁止なのに住んでしまうという選択肢はなかったですけど(笑)」

正直者はバカを見るのか。
またしてもそんな想いがよぎった。

・・・
私はペットを飼ったことがない。
だからペットやペットのいる家族に対して、
とりたてて同情する立場にはない。

被災した状況で仮設も借上住宅も少ないんだし、
ペットなんて贅沢言うなという意見もありそうだが、
ペットに対して特に思い入れのない私でも、
ペットって家族同然の存在なのだろうから、
一緒に住めるようにどうにかできないものなのかと思う。

ただそれよりも何よりも被災地では、
正直者の被災者がバカを見るという出来事に愕然とした。
ペットなんかいないと偽って、
ペット禁止の住宅に移ってしまう人もいれば、
バカ正直にペットがいることを言ってしまったため、
ペットをあきらめざるを得なくなった人もいる。

志賀さんなんかはラッキーというべきか、
アンラッキーというべきか、
避難所が閉鎖されるまで最後まで居残る覚悟をしたおかげで、
自分で住宅を探しても家賃補助が出る、
という幸運なニュースに恵まれたものの、
逆にそのためにまた津波被害の可能性のある、
家に住まなければならないという不運な面もある。

一体、何が正解で何が失敗なのか。
一体、誰がトクをして誰がソンをしてしまったのか。
こうした非常時ではどんな選択がよかったのか、
計り知れないことがいっぱいある。

もし今、あなたがペットを飼っているのなら、
自分の家が住めなくなった時に、
ペットをどうするか考えておいた方がいい。

被災地には生き延びたとしても、
そんな「別れ」がいっぱい存在していた。

被災地レポ&写真
http://www.kasako.com/110311top.html

by kasakoblog | 2011-08-15 22:39 | 東日本大震災・原発

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


by kasakoblog