風化する津波被害~便利を優先して安全を後回しに
2011年 09月 11日
3.11、東日本大震災から半年。
約2万人もの人々が亡くなったが、
その8~9割は津波が死因だ。
地震により防波堤は崩れ、
海側にある家はほぼ全滅。
しかも地震により地盤沈下が起き、
波はさらに高くなっている。
にもかかわらず、
津波の恐ろしさは風化しつつある。
津波被害エリアで宿泊施設が、
営業を再開し始めているというのだ。
昨日、NHKの震災特集では、
津波被害にあった岩手県大船渡市のホテルが、
再開したことを取り上げていた。
このホテル。海からすぐそばで、
今は冠水被害があるので、
市が危険としている地区。
しかも3.11の津波で2階まで浸水したが、
2階もすでに宿泊施設として再開している。
NHKによると、ホテルは1億円の借金があり、
営業再開するしか自分たちの復興はなく、
しかも建設作業員やボランティアの宿泊需要があるため、
どんなに危なくても営業を再開したようだ。
今は満室の状況が続くという。
法律的には違法ではない。
しかし違法でなければ安全を軽視していいのか?
忘れやすい国民のみなさまもまだ覚えていると思うが、
焼肉レストラン『焼肉酒家えびす』が客に出したユッケで、
集団食中毒事故が起き、死亡者も出た。
この焼肉店が法律的に違法なことをしていなかったとしても、
安全を軽視したがゆえに客に被害を及ぼせば、
その企業の評判はがた落ち、営業再開するのは事実上不可能になる。
短期的な利益を優先するあまり、
長期的な利益を犠牲にすれば、
結局、自社にとっても利益にならない。
同じような話は他の場所でもある。
例えば福島県いわき市の久之浜では、
8月27日の花火大会のボランティアスタッフを、
海からすぐそば、1階は津波被害があった民宿で、
これから営業を再開する予定のところに、
2階だが約50名を宿泊させている。
ここに泊ったボランティアは、
「目の前が海で波が高くてちょっと怖かった」
と語っている。
一体、2万人の死者を出した3.11の大惨事の教訓は、
どこへいってしまったのだろうか?
「想定外の大津波だったから仕方がない」
とでも思っているのだろうか?
しかし実際には「想定内」だった。
今回、大津波が襲った地域の多くは、
過去何度も津波を経験している場所。
1896年の明治三陸地震、1933年の昭和三陸地震、
1960年のチリ地震などで津波被害にあっている。
過去の自然災害で恐ろしさを知った先人は、
便利さを優先する地域住民の反対を押し切り、
全戸高台移転したり、景観を損ねてでも、
10m以上もの防波堤を作るといった、
「そこまで必要?やりすぎじゃねぇ?」
とも思える対策のおかげで、
3.11の大津波被害をほとんど受けずに住んだ地区もある。
・大船渡市綾里白浜地区は過去の津波経験から高台に移転し、
周囲は壊滅的打撃を受けたにもかかわらず、
家屋浸水なく人的被害もなし。
・岩手県普代村は「明治に15mの波がきた」
という言い伝えから、
何が何でも高さ15m以上にこだわり、防潮堤を作った。
このおかげで死者はゼロ、防潮堤内側の住宅被害は一切なかったという。
自然災害の恐ろしさを知り、
便利さを犠牲にしてでも住民の命を最優先にした地区は、
このすさまじい3.11の大津波にもかかわらず、
被害がほとんどないという「奇跡」が実現している。
津波が今までほとんどなかった福島県についても、
東京電力は福島原発に15m超の津波がくると予測していた。
想定外の大津波なんかではなかった。
そもそも宮城県沖地震が30年以内に起きる起きる確率は99%と、
文部科学省が予測していた。
しかも三陸沖と同時発生すれば、
M8.0前後になるとも予測している。
実際にはM9.0だったわけだが、
99%、大地震が起きると予想されていたわけだ。
そして大地震が起こり、大津波が起こった。
私はいわき市の津波被害で壊滅的な打撃を受けた、
薄磯・豊間の方に10世帯ほどインタビューをしているが、
助かった人の多くは、「今まで津波はないけど、
今回の地震は尋常じゃないから逃げた方がいい」
とすぐに高台に逃げた人。
亡くなってしまった人の多くは、
「津波なんかこないべ」と楽観視していた人や、
一度は逃げたものの、貴重品などを取りにいこうと、
また津波被害エリアに戻ってしまった人たちだった。
津波の恐ろしさを知らない関東で、
津波が起きて多くの人が亡くなったというのならともかく、
過去にも何度も津波があり、
津波に対する恐ろしさをある程度知っていたはずの、
東北地区でさえ、津波によって、
2万人近い人が亡くなっているという現実。
これが3.11の最大の教訓だと思うのだが、
便利さや「復興」を優先させるあまり、
津波対策がなされないまま、
宿泊施設が開業してしまっている。
サービスを提供する側がプロならば、
客の安心と安全を最優先するのが責務だろうが、
ニーズがあって便利だし、
自分たちとしても早く現金収入が欲しいということから、
安全を軽視して営業再開してしまうというプロ意識のなさ。
津波で2万人もの人が亡くなったという恐ろしい現実を前に、
半年も経つと、津波なんか大丈夫だろう、
来たら逃げればいいじゃないか、
ぐらいの危機意識のない人たち。
ではなぜ2万人もの人が津波で亡くなったのか。
3.11の教訓は自然災害、特に津波を甘くみくびっていたこと。
いや、甘くみくびっていたわけではない。
ある程度、起きるとわかっていたが、
コストや便利さを考えると、
「何もそこまでしなくてもいいんじゃね」と、
楽観視した結果、死亡者の9割が津波被害という、
大惨事を招いた。
とかく原発被害ばかりがクローズアップされがちだが、
現時点で3.11で甚大な被害をもたらしたのは津波。
半年が過ぎたからといって、
津波の恐ろしさを風化させてはならない。
自然を甘く見て便利さを優先したから、
過去に何度も大津波があったにもかかわらず、
甚大な被害が起きてしまった。
過ちから学ばなければ何度も悲劇は繰り返される。
一番大事なのは人の命であって、
目先の便利さではないと思うが、
そう考えられない人が悲しいかな多くいる。
もう一度、津波被害の恐ろしさを直視し、
3.11を忘れてはならないと私は思う。
結局、今の日本の問題はすべてつながっている。
便利さ最優先で安全を軽視したから、
放射能汚染で日本の産業は全滅しかねない、
危機的な状況に追い込まれている。
それは政府が悪いとか東電が悪いとかではなく、
国民一人ひとりの意識の問題だ。
安全より便利さを優先する国民が多いからこそ、
“3.11”が起きたのだ。
今までの考え方から転換すべき大惨事が起きても、
これまで通り便利さを優先してしまう国民が多ければ、
何度も何度も大惨事は繰り返されるだろう。
・今後も地震が発生しやすい地域
http://event.yahoo.co.jp/bousai2011/eq_east/index.html
・宮城県石巻市写真(4.20)
http://www.kasako.com/1104ishi3.html
・福島県いわき市薄磯写真(5.14)
http://www.kasako.com/1105iwaki1.html
・福島県いわき市久之浜写真(5.15)
http://www.kasako.com/1105hisa.html
・福島県いわき市豊間(6.19)
http://www.kasako.com/1106toyo.html
全国地震動予測地図 平成22年(2010年)
http://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/leaflet/leaflet.pdf