意味のある復興イベントを~画期的な「避難所同窓会」レポート
2011年 09月 25日
何でもかんでも“復興イベント”と称したお祭り騒ぎが数多く開催され、
「それってホントに復興のためのイベントなの?
単なるお金の無駄遣いじゃないの?
他に今、やるべきことあるんじゃないの?
企画者の自己満足じゃないの?」
みたいに思えてしまうものも多い中、
9/24に福島県いわき市の平工業高校で開催された、
「避難所同窓会」は非常に画期的なイベントだった。
避難所同窓会とは、避難所が閉鎖され、
みな仮設住宅や借上住宅などに移って、
バラバラになってしまった被災者の方々を集めた会という意味。
いわき市中心部の平工業高校の体育館では、
津波被害で壊滅的な打撃を受けた、
薄磯・豊間の2地区の人たち約200名が避難所生活を送っていた。
この2地区は宮城や岩手の津波被災地のように報道される機会は少ないが、
ほぼ町が壊滅し、ほとんどの家が壊れ、流された、
大変な被害を受けた場所だ。
6.19に平工業高校の避難所は閉鎖された。
被災者のほとんどが仮設住宅や借上住宅などに移ったからだ。
それから3ヵ月が過ぎた今、
津波被害者は慣れない場所の仮の住まいで多くの不安を抱えながら、
新しい生活を始めており、
それをどう支援していくかが課題となっていた。
被災者の方々は不安や悩みを打ち明けようにも、
近所にいた人たちはみなバラバラに散ってしまい、
周囲に住んでいる人は見知らぬ人のため、
または津波被害者ではないため、
孤立感を深めやすい。
避難所での集団生活はみんな一緒にいるので、
不便な反面、安心感もあったが、
個別の生活になると、現実に戻らねばならず、
もとあった地域コミュニティも崩壊しており、
物がないとかお金がないとか以上に、
精神的に非常にしんどい時期だ。
そこで3.26以来、避難所の運営・支援を行っていた、
東京都文京ボランティアグループ(響きの森net)が、
この同窓会イベントを企画した。
ボランティアグループのリーダー、加藤良彦さんは、
「避難所が閉鎖されて以降、被災者の方々から、
またみんなで集まりたいという声を多く聞いた。
そこで津波被害・避難所暮らしという、
同じ境遇の人たちを集めて情報交換ができる、
“小さなコミュニティづくり”のきっかけとなるのが、
このイベントの目的」と話す。
同窓会に集まったのは約50名の被災者の方々。
被災者の方にこの同窓会イベントについて話を聞くと、
「久々にみんなに会えるこの機会がすごく楽しみで、
前日からワクワクしていた」
「今は周囲に知っている人が誰もいないので、
さみしくて仕方がない。
知っている人たちと再会できるのがうれしい」
といった声を多く聞いた。
11時から始まるのに、
「そんなイベントやるならぜひ手伝わせてほしい」と、
9時過ぎには被災者の何人かが来て、
自ら厨房に入って調理を行っていた。
避難所にいた小中学生の子供たちも、
10名ぐらい集まってきていて、
開催された高校の合宿所に泊まりこんで、
昼過ぎから深夜まで子供同士で、
無邪気に遊んでいる姿も見られた。
ある被災者の方は、
「他の避難所の人に避難所同窓会があるって言ったら、
すごくうらやましがられた。
そんなイベントやってくれるところなんてない」
と言われたという。
なぜできないのか。
被災者の新居の連絡先を控えているところが、
自治体以外はないからだ。
文京ボランティアグループでは、4月末頃から、
避難所から出ていく被災者の連絡先を、
任意で聞いていた。
「被災者の支援は避難所だけで終わるものではない。
むしろ避難所を出てからどうフォローしていくかが大事。
阪神大震災では避難所後の孤独死が大きな問題となった。
そうしたことを少しでも防いで、
生活再建・自立支援のお手伝いをするには、
連絡先を聞いておかないとできないことに気づいた」(加藤さん)
今は個人情報保護の壁もあり、
ボランティアが避難所後の被災者支援をしたいといっても、
自治体から被災者の連絡先を聞き出すことは不可能に近い。
文京ボランティア(響きの森net)は4月末時点で、
すでに避難所閉鎖後の先を読み、
早めに手をうっておいたからこそこうしたイベントができたのだ。
このグループは災害ボランティアの専門グループでもなければ、
ボランティア経験があったわけでもない。
でも被災者・被災地には何が必要かを、
俯瞰した視点と長期的な時間軸で考えていたことは素晴らしい。
なぜならボランティアの多くは、
目の前の短期的な支援だけに目を奪われて、
2ヵ月、3ヵ月先はどうなるのか、
1年先、2年先はどうなるのかといった、
長期的な予測をしていないからだ。
だから時に場当たり的な支援になってしまう。
そして単なるお祭り騒ぎの、
誰のための何のための支援だかよくわからないけど、
復興と名がつく一発イベントに労力をかけすぎてしまう。
数ある「?」と思ってしまう復興イベントの中で、
この避難所同窓会が優れているのは、
①誰もが来れるオープンなイベントではなく、
避難所にいた津波被害者だけを集めるというクローズなもので、
「誰を支援するのか」「誰のためのイベントなのか」
という点が明確なこと。
②被災者が今、欲していて、
かつ、自分たちではできないことを行い、
この先、過度にボランティアに依存することなく、
自立につながる機会づくりというイベントに徹していること。
③無駄にお金をかけていないこと。
④被災者の方々が望んでいることを絶妙なタイミング
(新生活を始めて約3~4ヵ月)で行っていること。
⑤イベントに参加している被災者の人数が、
ボランティアスタッフの人数よりはるかに多いこと。
などが挙げられる。
莫大なお金をかけて、大掛かりに場所を使って、
いろんな企画を用意し、派手な演出を行えば、
見た目は華やかだが、
「それってほんとに復興イベントなの?」
「費用対効果を考えたら、そんな金あるんなら、
先にやるべきことあるんじゃない?」
って話になりかねない。
この避難所同窓会ははっきりいって非常に地味だ。
私のような「メディア」という立場で考えれば、
はっきりいってメディア受けしないイベントだ。
なぜなら、何の変哲もない高校の合宿所で、
11時ぐらいから25時ぐらいまで、
ただ集って話をしているだけで、
「絵(写真や映像)になる」派手なイベントなど1つもない。
子供たちが楽しく遊んでいるのは、
100円ショップで買ってきたシャボン玉や風船、
スーパーで買ってきた普通の花火ぐらい。
あとは合宿所のふとんの上で、
修学旅行みたいに大暴れしているぐらいの話。
でもここに来た被災者の方々が、
まさにこんな機会が欲しかったという、
誰のための何のための支援かが、
実にはっきりしているイベントという意味では、
大掛かりな復興イベントなんかより、
はるかに意味のある、かつ費用対効果に優れた、
イベントではないかと私は思う。
もちろん完璧ではない。
むしろこうしたイベントに参加しなかった被災者こそ、
孤立している恐れもあり、支援すべきだという意見もあるだろう。
でもそのような人にはどんな復興イベントをやっても無駄だ。
それはそれで別のアプローチを考える必要があるだろう。
しかし何よりもうれしかったのは、
ここに来ていた被災者の方の多くが、
「避難所同窓会がまた1年後くらいにもやれればいいね」
と話していたことだった。
私はてっきり「3ヵ月後」とか「1ヵ月に1回」とか、
言うのかと思った。
でもここで同じ境遇の者同士が連絡先を交換し合えば、
別にこうしたイベントをしなくても、
不安や悩みは相談できるだろうし、
情報交換や気分転換もできるだろう。
今、復興と称したイベントが多く開催されているが、
あらためて本当に復興の役に立つのか、
そんなことを今する必要があるのか、
開催の仕方や内容を変えた方がいいのではないのか、
費用対効果に見合っているのか、
考えるべきだと思う。
時間とお金とマンパワーが無限にあるわけではないのだから。
・被災地レポート目次
http://www.kasako.com/110311top.html