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渡嘉敷島から考える

<1>離島は交通の便がよくなると過疎化する
「渡嘉敷島」と聞くと、どこにあるんだかよくわからない、
最果ての離島のような響きがあるが、
観光的なキャッチフレーズでいえば、「那覇から最も近い離島」。
なんと那覇から日帰りできるほど、アクセスのよい、距離的にも近い島なのだ。

離島へは那覇の市街中心部に近い泊港からフェリーで1時間10分、
さらに高速船ならわずか35分である。
私はできるだけ島にいる時間を長くするため高速船にしたのだが、
なんとすべてシートベルト着用で、
基本的にデッキで立ち歩いて海の写真撮影もできないほど、
ものすごく揺れるのである。
乗り物酔いに皆無の私ですらちょっと気持ち悪くなるほどだった。

ただこれは高速船のせいだけとはいえない。
帰りはフェリーにしたのだが、フェリーも相当に揺れた。
これまで島旅をしてきた私が乗ってきた船の中でも一番の揺れ。
船や船のスピードに問題があるというより、海の問題なのだろう。

渡嘉敷島の港に着くと、ビーチのある阿波連の集落まで歩いてはいけないので、
宿の車が送迎に来ているはずだった。
ところが手違いで来ておらず、電話を掛けても留守電に。
夏季はバスがあるらしいが今はない。
困っている私を見た船舶課の人がなんと宿まで送ってくれた。
(後で聞いたところ、宿のご主人の弟さんだったようで責任を感じて送ってくれたそうだ)

乗り合わせた車で、ふと船舶課の方がこんな話をした。
「高速船ができたのが平成12年なんですがね、
渡航客は多くなったけど、泊まり客は少なくなりましたね。
日帰りと泊まりとではお金の落とし方も違うし・・・」

「離島は交通の便がよくなると過疎化する」という、
一見正反対のようで実はマイナス影響という原則はここにもあった。
離島に橋をつくる、高速船を走らせる、航空便をつくるなどなど、
離島にとって活性化になるはずのこの施策は、
外から人を呼び込む作用より、離島から外へ出て行ってしまうことを促進してしまうのだ。
不便なら限られた島空間でなんとかしようとするし、
違う場所で何かをしようとは考えず、島での「自立」を考えるのだが、
離島よりはるかに便利な「本土」につながってしまうと、
みんなそっちへ流れてしまう。
皮肉なことである。
(ちなみに、橋ができて実は過疎化が進むのではという指摘をして感銘を受けたの が、
藤原新也の「藤原悪魔」のエッセイだった)

とはいえ、この島は有数のダイビングスポットである。
他にはない魅力的な観光資源があるので、
何もない離島よりははるかに状況はいいとは思う。

島ねこ撮影のために島を旅しているとはいえ、
トラベルライターでもある私としては、
猫撮影だけでなく観光名所もあれば訪れたいとは思っていて、
旅行地的な視点でも島を見て回っている。
しかしこの渡嘉敷島はダイビングをしない限り、
観光という島ではないかもしれない。
別に離島に観光を求める人は少ないだろうし、
私としてもぐるぐる島を散歩できればいいのだが、島内の移動手段がない。

たとえば正月に私が旅した粟国島、伊江島、久高島は、
レンタサイクルがあるので自転車でのんびり島を巡れるのだが、
この渡嘉敷島にはレンタサイクルもレンタバイクもない。
なぜならアップダウンが厳しいからだ。

島もそこそこ広いので、
各所に散らばる展望台や集落を見て回るには、
車がないとダメなんだけど、レンタカーがいっぱいあるわけではないので、
その意味では、ダイビングかビーチでのんびりする人以外、
那覇から近いからといって、上記3島のように気楽に観光できる島ではない。

<2>離島へのユートピア幻想と閉鎖性
1時間もあれば1周してしまう阿波連集落以外、
他へは行けそうにない。
2日間もあるのでここで猫だけ撮影して終わってしまうのも、
せっかく島に来たのでもったいないなと思っていた。
島に点在する展望台や集落を見て回ってみたいなと。

そんな私にこれまた偶然の出会いが訪れる。
1日目、猫撮影を終え、昼食をとろうと食堂を探していた。
オフシーズンにもかかわらず、13時30分ぐらいまでやっている食堂は何軒かあったの で、
油断していたせいか、14時過ぎになって食堂を探すとどこも準備中になってしまっ た。
まあ別に食堂で食べなくても、
泊まっている宿で頼むか、1軒ある集落でパンかおにぎりを買うか、
食べないという選択肢もあるなとは思いつつも、
せっかく離島に来たのだから、
そこのものをできるだけ多く食べたいなとも思っていたので歩き回っていると、
たまたま一軒、食堂らしき店がやっていた。

豆腐の店まめやというところで、集落にある「食堂」といった雰囲気はなく、
ログハウス風の開放感のあるカフェのようなつくりで居心地が良さそうだ。
気さくなおじさんが出てきて食事ができるということで、
沖縄そば500円を注文した。

猫を撮影しているカメラマンだというような話をしていて、
いろいろ話が弾んできたので、
那覇に正式なかさこ名刺は置いてきてしまったものの、
ホームページ宣伝用簡易名刺を5枚だけ持ってきたので渡すと、
またさらに話が弾み、ここのおじさんが島を車で案内してくれるという話になった。
そのおかげで、私の上述の悩みは解消し、
宿を1周、主要地点をぱっと巡ってくれた。

ただこれだけの話ならもしかしたらよくあることなのかもしれないが、
実はこのご主人が考えていることや話してくれたことが、
「つぶやきかさこ」的、現代社会を観察、批評した上で活動を行っている人だったた め、
妙に「意気投合」したというのが大きなことだった。

ご主人は、いずれ「親子で体験できる宿をつくりたい」と、
イラストで描かれた構想をもとに話をしてくれたのだが、
「最近、家族同士の殺人事件が起きているのは、親子のふれあいや教育に問題がある から。
親子の絆を深めるような豆腐づくりなど体験を中心とした宿をつくりたい」というの が、
ご主人の心にあるようだった。

またご主人は島を案内してくれる中で、
島の問題点もあげていた。
彼はこの島生まれなのだが、約30年間東京で働き、
7年前にこの島に戻ってきた経緯があることから、
「外」の視点があるゆえ、よく島の問題が見えるのだ。

1つは、最近、島への観光客が減っているのは、
島の人たちが観光客のためになる努力をしていないからではないか。
有数のダイビングスポットで那覇から近い離島ということもあり、
夏は観光客が来て当たり前という意識から、
サービスや対応があまりよくなかったり、
客が求めていないオプションサービスを勧めたりしているのではないかと。

もう1つは、無駄な公共事業。
南北に長い島の北側には「国立沖縄青年の家」という立派な施設があり、
グループの研修目的なら宿泊無料だという。
渡嘉敷港の近くにある「港の見える丘展望台」から見て、
私がすぐ目に付いたのが、集落のないはずの北側に作られた立派な橋であった。
そこは青年の家に至る道。
立派な橋がいくつかあり、まるで新興住宅街を抜けるような立派な道が造られてい る。
しかしそこを通ってびっくりしたのだが、
まだ使える旧道がその脇にもあるのだ。

いわゆるハコモノ行政で、何もないところに採算度外視でいらん施設をぶっ立てて、
そこに道路も作り、癒着企業と税金を盗んで、浮いた金で遊ぶという、
まさに日本社会のどこにでもある「汚れ」の部分が、
こんな離島にまで及んでいる。

「あそこの道路を作る前に、観光誘致のためにやるべきことがあるのに」
といって口にしたのは阿波連ビーチすぐそばにあるキャンプ場「渡嘉敷村青少年旅行 村」である。
そこはちょうど私も午前中に訪れたばかり。
冬のオフシーズンとはいえ、せっかくビーチそばにある広場やキャンプ場にもかかわ らず、
木のベンチはぼろぼろだし、トイレはぶっ壊れているし、まるで廃墟なのである。

私のような外から来た観光客がぱっと目に付いた場所に、
島人や役所は気づいていながらそっちより金になる公共事業を優先する実態。
最近、いろいろな地方での汚職事件が多発したが、
思うに、都市部より地方の方が、
人間関係も狭く、活動エリアも限られているため、
こうした癒着的、「反社会的」な無駄が多いのかもしれないなと、
改めて考えさせられた出来事だった。

まめやのご主人はこういった。
「来た観光客が島に対する要望をいろいろ言ってくれる。
でも最後はこの一言で終わってしまう。
『別にまた島に来るわけじゃないからどうでもいいですけど』と」

渡嘉敷島西岸および慶良間諸島は2005年11月、
日本のサンゴ礁としてはじめてラムサール条約に登録された。
素晴らしいサンゴ礁が残っていることから、
貴重な自然環境として保護の対象になったのだ。

渡嘉敷島に残っている素晴らしい自然は何者にも変え難い観光資源。
それを有効に活用し、島も活性化し、観光客も貴重な時空を過ごせ、
かつ自然が守れるという、そんな3者のバランスをうまく取ることができれば、
みんなハッピーになれるんだよなと思った。

by kasakoblog | 2007-01-31 23:09 | 旅行記

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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