椿が被災地を救う?~気仙沼大島レポート
2011年 11月 08日
「震災で美しい浜辺もなくなり、海の幸も当分はとれない。
本当に何にもなくなってしまった。
この先、旅館で生きていくには新たな手を打たないといけない・・・」
と語るのは、気仙沼大島の旅館「椿荘花月」を営む村上盛文さん(37歳)だ。
震災から8ヵ月。
東北沿岸部で壊滅的な被害を受けた宮城県気仙沼市。
そこから船で25分、気仙沼大島もまた、
津波と火事により大きな被害を受けた被災地だ。
気仙沼大島は人口約3500人、島の周囲は約22kmで、東北地方最大の有人島。
陸中海岸国立公園に指定され、
美しい砂浜が3ヵ所もあるなど、
観光が主力産業の1つだが、
今回の震災により、海水浴目当ての観光客は、
当面、呼ぶことができそうにない。
島名産のホタテも養殖しているいかだが流されてしまい、
復活には2~3年かかるという。
「今はボランティアさんや工事関係者などで、
旅館業を営んでいけるが、
この先、観光客はあまり期待できないので厳しくなる」
と村上さんは悩んでいた。
とはいえ震災がなくても民宿は減っていた。
かつて100軒は民宿があったというが、震災前は約20軒前後。
震災により海辺の民宿は津波被害にあい、
今や約10軒程度で、まともに営業しているのは2~3軒しかないという。
その他に旅館が7軒程度だ。
ただでさえ民宿・旅館業で食べていくのには厳しい時代に、
追い討ちをかけるように震災が起きた。
観光資源であるホタテや砂浜被害で、
観光客回復の手を打たないと、
このままではやっていけなくなるという危機感を抱いていた。
一体、この島に何があるだろうか?
他の観光地にはない特徴とは何だろうか?
たどりついた答えが「椿」だった。
島にはたくさんの椿が自生している。
毎年、椿が咲く3~4月頃には、
「つばきマラソン」と銘打ったマラソン大会が開催されているほど。
「早春椿ハイキング」も開催され、
多くの観光客を集めていた。
震災により多くの観光資源を失ったが、
残っているのは椿だけだった。
島の活性化・復興を行うため、椿を軸にしようと、
村上さんほか何人かの島の人たちが動き始めた。
まず観光客が椿をじっくり見れるような公園を整備すること。
すでに土地も確保し、徐々に整備を始めている。
整備の作業にはボランティアにも手伝ってもらった。
ここには大島の椿だけでなく、
全国47都道府県の椿も植える予定だ。
椿のテーマパークといったところだ。
しかし桜ならともかく椿を見にくる人っているのだろうか?
と不思議に思ったが、世の中には椿好きの椿マニアがいて、
各地の椿を見にくる人もいるという。
「前にうちの旅館名に椿がつくことから、
その理由だけで泊りに来たという人もいました」
マニアの力をあなどってはいけない。
ものすごい経済効果を生む。
工場萌えでツアーができて人気となっているのもその一例だろう。
もちろん椿マニアだけでなく、
椿が一斉に咲く様子が見られる公園があったら、
それは一般の人でも楽しめるだろう。
そしてもう1つが「ツバキ油」だ。
毛髪用、スキンケア用としてお土産に人気の品だ。
これまで工場は島になかったが、
今回の震災で工場は被災にあい、
今後は島に工場を建設し、
ツバキ油の製造・販売ができないかと考えている。
同じく椿で有名な伊豆大島から、搾油機の提供を受けた。
この気仙沼大島に見られるように、
東北の復興とは震災復興だけでなく、
「過疎化復興」という面も大きい。
震災が起きなくても何もしなければ、
観光客はどんどん減り、経済は衰退していただろう。
さらに震災が追い討ちをかけた。
そのためになおさら何かアピールできるものが必要だ。
10月に宮城県田代島の復興プロジェクトを取材したが、
ここは猫神社があり、ノラ猫がたくさんいることから、
猫で経済活性化と震災復興を果そうとしている。
「ノラ猫なんて」と思うかもしれないが、その効果は絶大だった。
http://kasakoblog.exblog.jp/15939618/
被災地もそうだし、他の地域でもそう。
そして個人でもそう。
何か他にはない人を惹きつける魅力、個性がないと、
今はどんどんジリ貧になる。
金をバラマキ、ハコモノ作ったって人は呼べない。
猫でも椿でも工場見学でもB級グルメでも映画ロケ地でも何でもいい。
何か個性や特徴がないと、この先は生き残っていけないのだ。
気仙沼大島は椿を突破口に復興の道を歩み始めた。
こうした1点突破で被災地が復興できるモデルができれば、
他の被災地でも応用ができるのではないか。
「当面はボランティア半分、観光半分の、
『被災地ツアー』のような形で、
多くの人が防災を学ぶきっかけに訪れてくれればありがたい」
と村上さん。
宿に来た際、村上さんのお母さんは、
「おかえりなさい」と言った。
そして宿を去る際には「いってらっしゃい」と言った。
「またぜひ来てください。待ってますから」と。
トラベルライターとして観光紹介のために、
ぜひまた気仙沼大島を訪れたいと思っています。
旅館椿荘花月
http://www.k-macs.ne.jp/~tubaki/
・書籍「検証・新ボランティア元年~被災地のリアルとボランティアの功罪」