Aさんは会社をリストラされて、
ホームレスになってしまったものの、
「絶対にまた普通の生活に戻るぞ!」
と缶拾いなどをしてコツコツお金をためていました。
ところが3月のある日のこと。
大雨で川が大氾濫。
Aさんは河原にあったダンボールハウスや、
そこに必死に働いて買い集めた家具や電化製品が、
すべて流されてしまいました。
食べ物も着る物もなく、
寒さと空腹に震えていたAさんが土手にいると、
若いフリーターXさんがやってきました。
「テレビですごい被害だと聞いてやってきました!
被災者の方ですよね?
私はボランティアのものです。
私もフリーターで収入が多いわけではないのですが、
よかったら私のお古の服を使ってください」
Aさんは泣いて喜びました。
「見も知らずの私のためにありがとう」
それを見たXさんは感動してしまいました。
毎日毎日、やりがいもなくただお金を得るために、
単純作業のアルバイトをやっていた時には得られない、
喜びがあったのです。
Xさんは「これぞ私の生きる道だ!」と目覚め、
以後、毎週のようにAさんをたずね、
食料や衣服を渡すようになりました。
Xさんの献身的なボランティアのおかげで、
3月から半年が過ぎると、
河原から少し離れた空き地に、
立派なダンボールハウスが完成しました。
流された家具もすべてそろいました。
Aさんは言いました。
「もう元の生活に戻ったから大丈夫だよ」
でもボランティアのXさんはAさんに尽くすことが、
いまや生きがいとなっていました。
「Aさん、そんなこと言わないで。
大きな被害にあったのだから、
何か欲しい物や困ったことがあったら何でも言ってください」
Aさんは半分冗談でこんなことを言いました。
「毎日暇だからDSのゲーム機があったらいいな~」
「ゲーム機ですね!わかりました!」
Xさんはなけなしのアルバイト料をはたいて、
ゲーム機を買ってきました。
そしてまたこう聞きます。
「何か困ったことないですか??」
「暇だから最新刊の漫画ワンピースが欲しいな」
「わかりました、ワンピースの最新刊ですね!」
Xさんは依頼を受けるのが楽しく、
せっせとAさんの言われるままに、
物資を送り続けました。
「お古の服じゃなく新品の服がほしい」
「新品の服でもあのブランドじゃないといやだ」
「ハロウィーンパーティーをしてほしい」
「クリスマスパーティーをしてほしい」
「正月におせち料理を食べたい」
Aさんの願いをすべてXさんはかなえました。
Aさんはすっかり缶拾いをやめてしまいました。
なぜならボランティアのXさんにいえば、
何でもくれるからです。
「まじめに働いていたのがバカらしいな。
Xさんに言えば何でも持ってきてくれる」
かつてホームレスになった時に、
「いつかこの生活から脱してやる!」
という意気込みをなくし、
このままの生活の方がラクなんじゃないかと思い始めました。
最近、寒くなったので、
新しいダンボールハウスには暖房がつくエアコンがあるものの、
例によってXさんに「ストーブがほしい」と頼みました。
Xさんはなけなしの金をはたいてストーブを購入しましたが、
支援する物資を購入するために、ここ半年、無理して働いたのと、
休日はAさんのダンボールハウスの引越し作業の手伝いなどで、
へとへとになり、とうとう病気で倒れこんでしまいました。
ボランティアのXさんはフリーターですので、
働かなければ収入は入ってきません。
病気が長引き、収入がなく、ついに死んでしまいました。
突然Xさんが来なくなったAさんも困りました。
毎週のように食事を持ってくるXさんが来ないと、
いくらストーブがあって暖かくても、
食べ物を買うお金がありません。
仕方がなく、また缶拾いをやろうと思いましたが、
ここ半年、漫画を読んだり、ゲームをやったりして、
体を動かすことをしていなかったために、
缶拾いする体力がなくなっていました。
こうしてAさんは暖かい部屋で、
食料がないため死んでしまいました。
・・・・・
一方、川の大氾濫で被災したホームレスのBさんは、
はじめはボランティアのYさんから、
食べ物や着る物を支援してもらいましたが、
半年が過ぎて「寒くなったからストーブが欲しい!」
というとYさんに怒られました。
「私だって収入はそんなにありません。
無理して今までボランティアをしてきましたが、
これ以上、あなたを支援していたら、私が倒れてしまいます。
だから最後にあなたにストーブではなくこれをあげます」
そういってYさんはBさんにミシンと生地をあげました。
ホームレスのBさんは逆切れしました。
「ミシンなんかもらっても寒い冬は越せねえんだよ!」
Yさんはこう諭しました。
「缶拾いの収入では、
あなたは一生ホームレスから抜け出すことはできません。
このミシンと生地で服を作って売ってみてください。
服が売れたら私から生地を買ってください。
そしてまた作って売る。
そうしたらあなたも私もともに寒い冬を越えることができます」
はじめは半信半疑のBさんでしたが、
Bさんがミシンで作った服はデザインがよく、
缶拾いしてもらえる10倍のお金がもらえました。
こうしてホームレスのBさんは、
ミシンで服を作って売ったお金でストーブを買い、
自分で食べ物や着る物を買うことができました。
ボランティアのYさんも、今までのように、
Bさんに物資を貢ぐために無理をして働く必要はなく、
YさんとBさんはいつまでも仲の良いお友達として暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
・・・・・
今日は11.11。
3.11から8ヵ月。
上記のたとえ話は「何を大げさな」と思うかもしれないが、
自立支援を行っているボランティアさんから、
「自立支援ではない支援をしている人がいっぱいいて、
そのせいで被災者の意欲が萎えている」と嘆いていた話をもとに書いたものだ。
結構リアルで起きていることに近いことも含まれている。
もちろん被害が甚大だっただけに、
まだまだ物質的な支援が必要な人もいる。
しかし、そうした人ではなく、
もう物も十分、お金も十分の持っている人ばかりに物がいき、
本当に必要な人に届いていないという問題も起きつつある。
今、必要な支援とは何なのか。
復興とは何なのか。
被災地が元気になるだけでなく、
日本全体が元気になるには何をすべきなのか。
上記のたとえ話はおとぎ話として笑うことができない、
今の日本の一端を示していると思う。
自立支援なくして復興はない。
震災から8ヵ月が過ぎた今、
支援のあり方を見つめ直したい。
・被災地レポート
http://www.kasako.com/110311top.html