ガレキ風景ではなく震災前の写真集~新たな支援の形~
2011年 11月 21日
なぜわざわざお金を出して、
ガレキの風景写真集を買わなければならないのか?
もう破壊的な風景はうんざり。
震災前の美しい故郷の写真がみたい・・・。
8月に仙台から1通のメールが届いた。
被災する前の石巻市の日本製紙工場の写真を、
「みやぎ思い出写真集」に提供してくれないかという申し出だった。
その写真集は企業協賛や個人サポーターの協賛によって、
被災者にも配布される。
趣旨に賛同し、写真を提供。
完成した写真集が先日送られてきた。
写真集を企画したのは、
仙台市内にある広告制作や出版物の制作を行う南北社さんだ。
先週、仙台への日帰り出張があったので、
南北社に立ち寄り、担当の方とお会いすることができた。
担当の方は仙台在住だが、実家が石巻市にある。
生まれ育ったのも石巻で、
日本製紙工場でも働いていた。
実家は石巻市付近では唯一の高台にある場所にあったため、
石巻市内では奇跡的に津波被害にあわなかった。
家のすぐそばは壊滅的な被害にあった。
両親の安否を確かめるため、
震災から約1週間後、仙台から自転車で、
往復12時間以上かけて行った。
石巻にたどり着くまで、
嫌というほど悲惨な無残な光景を目にした。
そして石巻でも自分がかつて暮らした町が、
あとかたもなく消え去っているのを目の当たりにした。
仙台市内は震災当初、ライフラインが止まり、
物資も不足し、大変な混乱状態にあった。
しかし1カ月、2カ月と過ぎると、次第に回復していった。
「若い女の子の靴を見ているとその変化がよくわかります。
震災当初はみな歩きやすいスニーカーなどだったが、
震災から日が経つにつれ、ミュールやハイヒールに変わっていく。
その人数が増えていく度に、
震災からずいぶん日が過ぎたのだなと思います」
書店には東日本大震災コーナーができ、
新聞社や出版社から、震災写真集が続々発売された。
嫌というほどガレキの風景を眺め、
しかも未だ実家のある石巻は、ガレキが片付かないなか、
「1500円とか2000円出して、
わざわざ震災写真集を買いたいと思わない」
と考えていた。
インターネットで震災前の石巻の風景写真を見ると、
胸がじんときた。
その時、思った。
そんな思いをしている人はいっぱいいるのではないか。
震災前の写真集を出せないだろうか?
出版物の制作なら本業だ。
ただ普通に1000円とか1500円の定価をつけて売るのではなく、
被災者の方を勇気づけるきっかけになるよう、
写真集支援の形をとれないだろうか。
こうして「みやぎの思い出写真集制作委員会」が立ち上がり、
協賛を集めたり、無償配布する被災者の数を調べるなどして、
2011年10月に発売された。
「震災前の写真集なんて自己満足といわれれば、
それまでかもしれません。
震災前の風景だって思い出したくないという、
被災者の方もいるかもしれません。
すべての人が喜ぶものではないとは思います。
でもこの写真集を見て、
もう一度がんばろうって思ってくれる方がいればいい。
何か復興のきっかけになる支援がしたかった」と、
南北社の別の方は話してくれた。
「自己満足かもしれない」「みんなが喜ぶものではない」
「でも喜んでくれる人がいるからやりました」
っていうのは本当に被災地のことや、
復興のことを真剣に考えている人だなと思った。
以前、私があるボランティアの行動を批判したら、
「みんな喜んでいる」「地元の人はみんな望んでいる」
「批判している人なんているはずがない」みたいに、
ばっさり切り捨てられた。
ああ、だからこのボランティアはダメなんだなと思った。
万人が喜ぶ支援などあり得ないという、
当たり前のことから出発していないから間違うんだなと。
そもそも住民全員の意見を聞くことなど、誰もできないのだから。
でも南北社さんは違った。
喜ぶのは一部の人かもしれないけれど、
自分たちが信じたことをしよう、
自分たちができることをしようと立ち上がった。
それがこの素晴らしい写真集だ。
「号泣して喜んでくれる被災者の方もいました。
流された家が写っている。がんばろうって。
そんな被災者の喜びの声を聞くと、
作ってよかったなと思います」
でもそれは何より、
県外のボランティアや企業が頭で企画した、
復興支援写真集ではなく、
企画者自らが「被災者」だったことが大きいように思う。
自分だったらこんな写真が見たい。
それが形になったのだから、
同じ思いを持つ被災者の方は多くいるだろう。
写真集は約5万部制作し、
約3万部を被災者の方に無償配布。
約1万部を協賛関係に。
そして残り約1万部が一般販売分で、
仙台市内の書店やローソンほか、
「みやぎの思い出写真集制作委員会」のホームページで購入できる。
仙台市内の書店に立ち寄ったが、
やはりこの写真集が販売されていた(525円)。
たくさんあるガレキ写真集と同じ中に。
「まだ一般販売分の在庫はあります。
ボランティアで宮城に来た方は、
ぜひガレキ前の美しい風景も見てください。
また違った形で被災地の見方が変わってくると思います。
一般販売分は3850部を超えた時点で、収益が発生するので、
その際は1冊につき約300円を寄付する予定です」
今回、多くのボランティアが被災地を訪れたはずだ。
しかし被災前に訪れた人はごくわずかではないか。
ガレキ風景前の景色を見れば、
被災地への見方が変わるのではないだろうか。
またボランティアの方は被災地に行ったら、
自分たちの「ボランティアやったぞ」証明写真を撮影して、
Webで自慢するなんて、サークル活動みたいな暇があるなら、
被災地で被災者の家族写真でも撮影して、
プリントアウトして送ってあげれば、
さぞ喜ばれるのになとも思う。
「支援のあり方も変わってきて、
今までのようにボランティアの方にしていただく作業は、
少なくなったかもしれない。
ただ、被災地のことは忘れないでほしい。
そっと見守っていてほしい。
時々思い出してほしい」
「みやぎ思い出写真集」は、被災者のためだけではなく、
ボランティアの「思い出写真」になるかもしれない。
・写真集購入方法
https://www.m-omoide.jp/cgi-bin/konyu_form.cgi
・工場写真が復興支援に!(2011-8-13)
http://kasakoblog.exblog.jp/15272980/