家政婦は母親じゃない
2011年 12月 22日
はじめから見ていたわけではないが、
一度、松嶋菜々子演じる無表情演技を見たら、
なぜかテレビに見入ってしまい、まったく動けなくなってしまう。
よくよく考えると設定とかあり得ないとか、
いくらなんでもこんな家政婦いないだろうとか、
子役やお父さんの演技下手すぎとか、
つっこみどころ満載のはずなんだけど、
もうあのすさまじい徹底した無表情、
ロボットのようなミタさんが、
この表情をいつまで続けられるのか、
果たして人間らしい表情をするのか、
あほな子供たちの“業務命令”になんと答えるのか、
ミタさんの挙動に注目してしまい、
目が離せなくなってしまうのだろう。
(ここからネタバレ含む)
個人的に最終回でよかったのは、
ミタさんが笑ったとかそんなことじゃなくって、
「お母さんになってほしい」という子供の業務命令に対して、
家政婦の時とは態度を一変して、厳しく接したことだ。
もちろんそれにはミタさんなりの計算があったわけだが、
なんかとっても“リアル”でいいなと思った。
あそこでミタさんが迷いに迷って、
でも本当のお母さんになってハッピーエンド、
というのもそれはそれで、
悪くないエンディングなのかもしれないけど、
まさかあんなつっけんどんな態度に出るとは思わなかった。
でもミタさんの言う通りだと思う。
家政婦だから、金をもらって仕事としてやっているから、
あんたらのとんでもないワガママを聞いているだけであって、
家政婦でなく母親ならば、
甘やかすだけでなく、怒るべきところは怒り、
しつけるべきところはしつける。
家計を考えたら毎日豪華な料理なんか作らない。
その一変した態度がなんかすごくよかった。
なぜよかったかって、実際、
あの一家の子役みたいに勘違いしている人って、
世の中にたくさんいるじゃないですか。
いろいろしてあげるのは、
仕事として金をもらっているからやっているだけであって、
その行為を「好意」と勘違いし、
お友達みたいになんでもかんでもタダで言うこと聞いてくれ、
みたいな取引先って。
お金もらっているからイヤイヤ仕事しているとかそういうことではなく、
仕事は好きで、仕事の相手先として取引先のことは好きであって、
そのために最善の努力をすることと、
その好意にのしかかってきて、
仕事の線引きを超えたいろいろな要求をしてくる、
勘違いした横柄な取引先ってよくいる。
別にあんたのお友達でもないし、恋人でもないし、
家族でもないし、兄弟でもないのに、
あれもやれこれもやれ、でもそれにギャラは払わないって、
仕事としての好意を勘違いしてるんじゃないみたいな。
いや、別にこのドラマは、
そういうテーマで描かれたものではないだろうし、
ミタさんの中では単なる仕事という以上に、
本当にこの家族が好きになってしまいそうだからこそ、
厳しい態度をとって突き放したに過ぎないわけだけど、
対価をもらってしている好意と、
家族感覚の無償の好意とはぜんぜん意味が違うんだってことが、
最終回のミタさんのシーンからよく伝わってくる。
被災地におけるボランティアなんかもそうだと思う。
ボランティアは対価をもらっていない。
でもそれは“無償の家政婦”であって、
決して“家族”になったわけではない。
だからこそ被災者は無条件にボランティアに感謝するわけだし、
ボランティアも被災者にいろいろなことができる。
でももしボランティアが被災者の“家政婦”ではなく、
被災者の“家族”だとしたら、
態度は変わってくるのではないか。
何でもかんでも“ワガママ”を聞いてあげるのではなく、
時には怒り、時には断り、時には注意する。
本当に愛している人に対してって、
愛している人のすべてのやりたいことを、
叶えてしまうことじゃなく、
時には我慢しなさいとか、これはしない方がいいんじゃないかとか、
こうした方がいいんじゃないかとか、
時に意見がわかれてケンカになるようなこともある。
これがプライベートな人間関係だと思う。
でもそれが“業務”になった途端、
自分の役回りを果すために、
相手のためになるならないに関係なく、
無条件で言われたことはする。
そして価値判断にはアドバイスしない。
「それはあなたが決めることです」と度々ミタさんが言うように。
私にとってこのドラマが爽快だったのは、
そういう線引きを最後までミタさんが守ったこと。
時に気持ちが揺れ動いて、
“出過ぎたマネ”をしたこともあったけど、
基本的にその線引きをちゃんと守った。
家政婦はお母さんとは違うということを。
だからあの家族がミタさんにずっといてほしいなら、
お金を払って家政婦として来てもらえればいいわけだ。
でも金がないからお別れするしかない。
金がないから家族になってというのは、
なんかこう“愛”を履き違えているというか、
虫がいいというか、
金はないけど仕事手伝ってよみたいな、
そんな感じにも思えなくもない。
だからあっさり子供たちはミタさんではなく、
うららさんを選んだりするわけだ。
このドラマは家族愛が主たるテーマなのかもしれないけれど、
「家政婦はどんなにやさしくてもお母さんとは違う」
というミタさんの豹変した態度は、
業務でやることとプライベートでやることは違うという、
公私の区別を混同する勘違い輩が多い、
日本社会に対する1つのメッセージでもあったように読み取れた。
仕事は仕事。
プライベートはプライベート。
金もらっているからやっていることと、
家族や恋人に対して好きだから無償でやっていることを、
履き違えてはならないと思う。
それにしても松嶋菜々子の演技は素晴らしかった。
ちなみに主題歌の斉藤和義「やさしくなりたい」は名曲です。
iTuneで200円で購入したけど、
レンタルで借りてきた方が安いという不思議な社会。
・家政婦のミタ公式サイト
http://www.ntv.co.jp/kaseifu/