マネーゲームと規模の拡大に興味なし!これからの時代の模範経営者、中村文也社長インタビュー
2012年 03月 09日
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「何店舗も店を持ってること、そんなに凄いことですか?
何億もの年商をあげていること、そんなに凄いことですか?
マスコミに取り上げてもらいテレビにでること、そんなに凄いことですか?
確かに凄いかも知れませが、僕は感動しません!」
(中村文也さんのフェイスブックより)
料理がまったくできなかったにもかかわらず、
25歳で居酒屋を始めた奥志摩グループ社長の中村文也さん。
2012年で創業29年目となり、
社員37人、名古屋で10の店舗を持つまで会社は成長した。
しかし「約30年も居酒屋やっていて、10店舗しかなかったら、
一般的には成功とはいえないかもしれない」が、
中村さんは、倍々ゲームで店舗数の増加や売上高の拡大をすることが、
至上命題となってしまっている今の日本企業のあり方、
経営者の姿勢に疑問を投げかける“異色”の社長だ。
フェイスブックでは毎日のように、
はっと気づかされるいい話を書いており、
連日300人の「いいね!」が集まる人気ぶり。
そんな中村さんに2012年3月3日に話を聞くことができた。
中村さんは「お金持ちになりたい」と思い、
三重の田舎から高校卒業後、名古屋に出てきた。
8畳1間で家族4人で暮らす貧乏な生活をしていたからだ。
子供服販売やらやきいも屋台のリアカー引きなど職を転々。
「この商売では金持ちにはなれん」と12回も職を変えた。
そして最後は水商売に。
その時、今までの職とは違って、
これぞ天職だと思ったという。
「お酒を飲みながらお客さんと話してお金をもらう。
こんな楽しい仕事はない!」
接客のおもしろさに目覚め、
人に喜んでもらいお金を得る仕事の楽しさを知った。
でも一生、水商売を続けるわけにはいかない。
そんな時、25歳の青年に運命的な出会いがあった。
ふらっと入ったお店。
それは今では手羽先チェーン店として有名な「世界の山ちゃん」の店。
でもまだその当時は山ちゃんが創業したばかりで、店舗は一店舗のみだった。
その時の接客が丁寧だが事務的だったのを見てこう思った。
「俺が居酒屋するならお客さんを接客でもっと楽しませることができる!
よっしゃ!接客という天職を活かして居酒屋をやろう!」
こうして25歳で水商売から足を洗い、
独立して居酒屋を開業することとなった。
ところがである。
中村さんは接客は得意だが料理の経験がない。
オープン当初、料理がまともに1つも作れない。
お客さんから出した料理にクレーム続出。
しかし中村さんは持ち前の接客と、
マイナスをプラスに転化するプラス思考で、
こんな風にお客さんに接していた。
「すみません!私に料理の仕方を教えてください!」
お客さんが居酒屋店長に料理を教える。
実に妙な話で、すぐに潰れそうだが、
中村さんの謙虚さや人柄の良さから、
お客さんが懇切丁寧に料理の仕方を教えてくれる。
「こんなメニューがあったらいい」と提案してくれる。
「はい!わかりました!」といって、
素直にお客さんのことを聞き、
翌日には提案いただいたメニューを出す。
そんな風にして店は軌道にのっていき、
半年後には料理がうまい店として評判になるようになった。
「困った人がいればみんな助けたいと思ってくれる。
お客さんのいうことを素直に聞いて実践すれば喜んでくれる。
だからはじめに料理ができなくても店はやっていけた」
と中村さんはいう。
お客さんのなかにはプロの料理人もいた。
そうした人が何人も独立して店を構えたが、
そのほとんどが2~3年で店をたたんだ。
「料理だけうまくても店はうまくいかない。
逆に私のように料理ができなくても店はうまくいく。
これが商売のおもしろさです」
中村さんが店で重視するのは、
お客さんに喜んでもらうというもてなしの心。
また店舗のスタッフ同士でも助け合い、
楽しんで喜んで仕事をすることを重視する。
「料理人には威張っている人もいて、
お客さんの前でスタッフにどなったりする人もいますが、
そういう人はいくら腕がよくても、
客商売には向いていないのではないか」
今や10店舗を持つまでに至った中村さんだが、
スタッフに怒ることはほとんどないという。
「声をかけるのは『楽しんで仕事してる?』ということばかり。
だってスタッフが楽しんで仕事をしていなければ、
お客さんが喜んでくれる店になるはずがない」
だから採用面接で重視するのは協調性や人間性で、
経験は問わないという。
「経験は関係ない。仲間を大切に楽しんで仕事ができる人がいい」
そんな風にお客さんを喜ばせ、スタッフを喜ばせることを、
もっとも大切にしながら居酒屋をやってきた。
だから冒頭の引用文、
「何店舗も店を持ってること、そんなに凄いことですか?
何億もの年商をあげていること、そんなに凄いことですか?
マスコミに取り上げてもらいテレビにでること、そんなに凄いことですか?
確かに凄いかも知れませが、僕は感動しません!」
という想いにつながるのだ。
知り合いで有名チェーン店の創業者は、
今や中村さんの会社の売上の10倍以上。
店舗数も全国各地にあるが、
その創業者がぼそっとこんなことを言ったという。
「なんかマネーゲームやってるみたい・・・・・・」
一般的には居酒屋チェーンとしては成功のはずも、
創業者は苦悩や迷いを抱いている。
それでは自分は幸せにはなれない。
だから中村さんは世間一般的な成功とされる、
年商何億円といったことにあまり興味はないのだ。
しかし幼少の頃に8畳1間で家族4人が暮す、
貧乏時代を経験していたのなら、
むしろお金に対する貪欲さがありそうなものだが、
中村さんは笑ってこんな風に答えてくれた。
「私はすごく貧しかったから今の給料でもう満足。
もっと多くもらいたいなんて思わない。
今は自分の給料より社員に還元することばかりを考えている」
足るを知る。
簡単なようでいて意外と難しいことではないだろうか。
ましてや社長として店舗数が増えていけば、
「もっともらって当然」「もっと店舗数を増やしたい」
と数字を追いかけることばかりに集中してしまいがち。
でも中村さんは今でも「ビジネスオーナー」ではなく、
「商店主」だと思っているという。
だからこそ単なる数字の増加が成功とは思わないし、
数字だけを追いかけるようなことはしないのだろう。
中村さんの「足るを知る」姿勢は、
フェイスブックをのぞくとよくわかる。
「29年まえに 居酒屋をやった時 誓いました!
絶対 会社が大きくなっても 外車は乗らない!って
(中略)
人には価値観があります
車を好きな人は車にお金を掛ければいいし
洋服の好きな人は洋服に!
食べることの好きな人は食べることに!
旅行の好きな人は旅行に!
みんなそれぞれ価値観があるのです!
ただ車に対して一つだけ僕が思ってることがあります!
もし僕が凄い車に乗っていたらお客様ってどう思うのだろう?
奥志摩の前に外車を横付けして店に入って来て
あれは誰?ってお客様に聞かれた時
うちの社長です!なんて 僕はイヤなんです!
常にお客様目線でいたいのです!
えらっそうにすればするほど人は離れていきます!
いつしかひとりぼっちになりかねません!
自慢ばかりの人生より謙虚な人生の方が人が集まってきてくれます! 」
まさにこの言葉通りの人生を歩んできたのが中村さんだ。
右肩上がり幻想にしがみつき、ボロボロになって働き、
会社の売上が上がって社員の給料が増えたところで、
休む時間もなく、接客もマニュアル化され、
単に価格が安いだけの画一的な店舗を量産することが、
果たして人々の幸せにつながっているのだろうか。
それは居酒屋に限った話ではなくすべての業種にあてはまる。
社員の幸せを犠牲にして売上を上げて一体何になろう。
社員が楽しく働いていないのに売上だけ増えていることが、
そんなに喜ばしいことなのか。
坂本光司教授の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で、
どんな不景気でも、長年、安定的・持続的に成長を続けている企業は、
何よりも社員を大切にするという結論と同じく、
この奥志摩グループも社員を大切にして、
急激な成長や無理な店舗増設はしない。
もはや時代は変わった。
何でもかんでも無理やりレバレッジを利かせて、
急激な右肩上がりの成長することがいいことではないし、
単に売上高を前年比で毎年伸ばし続けることがいいことではない。
でもそんな当たり前のことを、
多くの企業、多くの経営者はわかっておらず、
社員にムチうち、客のニーズより企業の論理を押し付け、
売れないのは不景気のせいだといいはり、
給与削減と価格競争と営業回れという、
社員疲弊政策だけで乗り切ろうとしている。
だから社員はいきいきと働くことができず、
客への対応が悪くなり、結果、売上が落ちるのだ。
中村さんは人生を楽しく幸せに歩む成功のために、
必要なことは3つしかないという。
「1つは、必ずオレはできるという思い込み。
2つ目は、こんなことしたら多くの人に、
喜ばれるだろうなと妄想すること。
3つ目は、何かの信仰心=何かに感謝する気持ちを持つこと」
居酒屋という厳しい業界ゆえ、
これまでの29年間が順風満帆だったわけではない。
でもこの3つの幸せの法則を忘れることなく、
いつもポジティブな気持ちを持続させるよう心掛けている。
そんなプラスのオーラを振りまく中村さんに、
人は集まってきて店も繁盛しているのだろう。
今度、名古屋に行った時は、奥志摩の居酒屋に行ってみたい。
ぜひ中村さんのフェイスブックを見てみるといいと思います。
http://www.facebook.com/#!/nakamura.fumiya.okushima
奥志摩グループ
http://www.okushima.co.jp/