国民サービス削減のためのスケープゴート~異様な河本準一バッシング
2012年 05月 26日
1 古代ユダヤで、年に一度人々の罪を負って荒野に放たれたヤギ。
2 責任を転嫁するための身代わり。
不満や憎悪を他にそらすための身代わり。
お笑い芸人、次長課長の河本準一さんの母親が、
生活保護を「不正受給」していたとして、
自民党の片山さつき氏を発端に、
マスコミがこぞって大バッシングを繰り返している。
テレビをつけるとどこもその謝罪会見ばかりでびっくり。
しかも驚くべきことに、同業の芸能人までもが、
甘かっただのなんだのって批判している。
こんなにも大バッシングしているけど、
国民はそれほどひどいと思っているのだろうか?
私にはバッシングと国民世論に大きな乖離があるのではないかと、
違和感を覚えている。
生活保護の不正受給は前々から問題となっている。
既得権益を守り続け、改革を先送りする、
政治家・官僚・企業とそれを頼りにする国民のせいで、
日本経済が衰退し続けているために、
生活保護受給者が増えている。
受給者が増え、受給額が膨れ上がるが
税収は減り、借金はいっぱい、
でも自分たちの既得権益は守りたいので、
無駄な公共事業や意味なし景気対策などは削りたくない。
でも財政問題も深刻だしなんとかしたい、
というのが政治家や官僚の思惑だ。
そこで格好のターゲットが見つかった。
そう、お笑い芸人の河本準一さんだ。
不正受給かどうかもかなりグレーそうで、
仮に不正受給だったとしても、
もっとひどい不正受給例はいっぱいあるだろうが、
それでは国民の関心を集めることができない。
しかし有名芸能人ならどうだろう?
「あんなに稼いでいるくせに生活保護もらうなんて悪質だ!」
「サラリーマンは苦労しているのに芸能人のくせにもらいやがって」
それが自民党の片山さつき氏の狙いでもあり、
マスコミの狙いだったんだろう。
でも実際に彼らの目論見とは裏腹に国民の反応はどうか?
河本準一さんのキャライメージが大きいと思うが、
私の勝手なイメージだと、
・計算高く得するような悪知恵がありそうな人には見えない
・ものすごいボロ儲けしている芸人には見えない
といったことがあるせいか、
「河本準一さんはあれほどまでにバッシングされるほど、
悪質な不正受給だったのだろうか?」と感じた。
そもそもサラ金にいた私からすれば、
芸能人なんてどれだけ一時的に高収入があっても、
人気によって収入が大きく激変する、
金を貸すにはランクの極めて低い不安定職業だ。
確かに今は高収入なのかもしれないが、
それが永続的に続くとは思えない。
またこの手のニュースで気をつけなくてはならないのは、
高収入者=金持ちではない、ということだ。
子供手当てなんかでも話題になったが、
「高所得者層はもらうべきではない」
「所得制限をして低所得者に限るべきだ」
みたいな話が必ず出る。
それは高所得者層への妬みを煽るやり口で、
片山さつきやマスコミの手法と同じく、
「金持ちを批判すれば国民から人気がとれる」
と思っている人たちがよく使う手法だ。
でも高所得=金持ち、低所得=貧乏とは限らない。
収入の高低だけでなく支出が多いか少ないかで、
使えるお金(可処分所得)は変わってくるからだ。
先日、福島いわき市の津波被災者の主婦に話を聞いた時のこと。
この方はこんな風に嘆いていた。
「『おたくは大企業のサラリーマンだから
収入がいっぱいあっていいですね』と、
同じ地区の津波被災者から、
やんわり嫌味なようなことも言われることがある。
でもうちには3人の子供がいて大学にも通わせているので、
支出も多くて大変なことには他の被災者と変わらない。
単に夫の所得金額が多いから、
あそこのうちは裕福だから支援は必要ないとか、
そういうのはおかしいと思う。
うちだって津波被害にあった家のローンと、
今、仮住まいしている家賃の二重ローンで苦しんでいる。
年収で見るのではなく生活実態も見てほしい」
年収が高い低いだけでなく、
親と同居しているのかどうかとか、
ローンがあるのかないのかとか、
子供の人数とか、重病な家族がいるかいないかとか、
そういう状況を考えないといけない。
年収が多くても生活が大変なところもあるだろうし、
年収が低くても親と同居していて、
ローンがなく独身とかだったら、
支出が少ないから逆に使える金はいっぱいあって、
「裕福」かもしれない。
そうした個別事情を一切無視し、
紋切り型に年収の多寡だけで考えるから、
逆に生活保護の不正受給で働いている人より金持ちだとか、
義援金たんまりもらえるから働かずパチンコしているとか、
おかしな実態が出てきてしまうのだろう。
でも片山さつきみたいな政治家やマスコミは、
低所得者や世間的に見た「弱者」は批判しにくい。
むしろ「弱者」にかわいそうだと同情してみせることが必要だ。
だから本来批判されるべき対象よりも、
「芸能人」「高所得者」というわかりやすいターゲットを祭り上げ、
国民の不満を集中させてガス抜きをさせ、
自分たちの人気をとろうという悪質なやり口を繰り返すのだ。
今の政治家・官僚がやっていることは、
これまで何十年もやってきた、
まったくムダだった税金の使い道によって、
膨れ上がった借金のツケを国民に支払わせるために、
お笑い芸人のようなバッシングしやすい対象をスケープゴードにし、
本来国民に必要な最低限のサービス(教育、福祉、医療、年金)を、
どんどん削り、挙句の果ては「財政不足だから消費税増税もやむなし」
みたいに国民を洗脳させることばかりにやっきになっている。
それでいて公務員や政治家の無駄な手当てや宿舎みたいなものは、
ほとんど削減されないとか、
除染みたいな意味なし事業に多額の税金を使うとか、
特定業界を儲からせるためだけのエコポイントに多額の予算を使ったりとか、
おかしな税金の使われ方がずっと続いている。
それでお金が足りなくなりました。
だから国民への最低限のサービスを削りますって、
やるべき優先順位がまったく違っているのではないか。
ちなみに生活保護問題では受給額をなんとか減らそうと、
本来支給すべき弱者にナンクセつけて支給させず、
餓死させたという北九州市のとんでもない事件も起きている。
・「これは行政による人殺し」~生活保護求めても応じず餓死
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-06-04/2006060401_04_0.html
不正受給はきっちり取り締まるべきだ。
また被災者支援ともまったく同じだが、
働かない方が儲かるとかそういう制度設計は見直すべきだと思う。
しかし必要な人に支給しなければ死んでしまうわけで、
今回のようにもっと悪質な人がいっぱいいるのに、
有名人だからといって取り上げてバッシングすることで国民世論を味方につけて、
本来提供されるべき国民サービスを削減するという、
ねじまげた方向に持っていってはならないと思う。
今の政治家や官僚は、国民同士に悪感情を抱かせて、
それによって国民福祉を削減し、
自分たちのこれまでの政策の失敗を隠蔽し、
本来やるべき自分たちの非効率な体制改革や、
意味のない政策予算の削減には手を出さないことを堂々としている。
異様な河本準一バッシングは、そうした意図が透けて見える。
本質をごまかして小手先の改革ばかりが続くと、
ほんと日本もギリシャのようになってしまうと思う。
※本編の話とはあまり関係ありませんが、
河本準一さんとは今年テレビ番組「くだまき八兵衛」出演時に、
お会いさせていただきました。
奇しくもその際、「借金するのは収入が不安定な芸能人が多く、
サラ金では芸能人のランクは低い」という話をしました。
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