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負け組の気持ちがわかるからミスチルが今も受ける~イミテーションの木~アルバムレビュー

「ミスチル桜井さんがすごいのは負け組の気持ちがわかるから」
と、そこそこミスチルが好きな人から聞いてなるほどなと思った。

11月28日にミスチルのニューアルバム、
「(an imitation) blood orange」が発売された。
ミスチルをこよなく愛して、もう17年ぐらいになり、
毎回新しいアルバムが出るとえんえん聞きまくっているが、
今回のアルバムはすぐに聞くのをやめてしまった、
非常に残念なアルバムだったが、
ただ唯一、わりと何度も聞いているのが、
「イミテーションの木」という曲だ。

アルバムタイトルにもimitation=イミテーションという
言葉があるように、このアルバムでキーとなる曲だと思う。
全体的にこのアルバムは「HOME」に似ていて、
「彩り」の劣化版が「イミテーションの木」とも思えるが、
この曲を聴いていると、なぜミスチルが、
今も人気があり続けるのかがよくわかる。

イミテーション=模造品=まがいもの。
「イミテーションの木」の歌詞では、
リニューアルしたビルに「イミテーション」、
すなわち本物ではないまがいものの木があり、
そこで子供が遊んでいることに、
モヤモヤした気持ちを抱いているのだが、
桜井さんはこう思いなおすわけだ。

「情熱も夢も持たない張りぼての命だとしても
こんなふうに誰かをそっと癒せるなら」
それでいいと。
これがまさに「負け組の気持ちがわかる」というゆえんだと思う。

「負け組」というと語弊があるかもしれないが、
ようは今、一億総自信喪失社会ともいうべき状況で、
日本にも自分の将来にも明るい未来や理想を抱けず、
かといって強い気持ちもなく、がんばろうという気力もなく、
何のとりえも才能もないと思い込んでいて、
「自分なんてちっぽけな人間はたいした人生にはならない」
みたいな、あきらめにも似た気持ちを抱いている人が、
非常に多いような気がする。

そんな時に私のブログでもそうだし、
ビジネス書でもセミナーでもそうだけど、
前向きにがんばれば誰だって成功できる!
みたいな鼻息荒いプラス思考は嫌がられるわけだ。
嫌がられるというより「それはわかるけど私にはムリ」、
「本を書いたりしている人だから成功できるんであって、
所詮、私たちとレベルが違う」みたいに思ってしまうわけだ。

自信がない人間にプラス志向を説いても無駄。
そんな時、ミスチル桜井さんが、
イミテーションの木でも役に立つならそれでいい、
情熱も夢も持たない張りぼての命だとしてもそれでいい、
と優しく語りかけてくれれば、ものすごい心地いいわけだ。

「HOME」の時もそうだったし、
今回のアルバムでもそうだけど、全体的に「優しい」。
プラス志向を押し付けない。
勝ち組志向、成功志向を押し付けない。
押し付けないどころか、
ややもすると「マイナスだっていい」とすら、
ささやきかけるようなイメージだ。

厳しい時代環境だからこそ、このささやきに、
多くの人がぐっときてしまうわけだ。
がんばらなくていい免罪符がここにある。
成功しなくいい免罪符がここにある。
情熱や夢がないまがいものの自分でもいいと、
あのミスチル桜井さんが肯定してくれる。

だからある一定層には受けるし、
心地いい癒し音楽として聴けるわけだ。
でも正直、今までのミスチルからすると、
随分「後退」したメッセージになってしまい、
もったいないなと感じるファンも多いと思う。

ミスチルの歌詞は常にマイナスからのスタート、
負け組からの立ち位置みたいなものが多い。
恋愛も仕事も思うようにいかない。
自分はたいした人間ではない。
環境も非常に悪い。
でもそのマイナスを傷だらけになってもいいから、
プラスに変えていこう、変えていくべきだ、
という力強いメッセージがかつてのミスチルにはあった。
だからこれを聴いてみんながんばろうと思ったわけだ。
今は「負け組」かもしれないし、
がんばっても「勝ち組」になれないかもしれないけれど、
でもいつまでもマイナス志向でいても仕方がないと。

さらにそこから発展し、近年では最高傑作で、
もうこれ以上のアルバムは出せないんじゃないかと、
予感が的中してしまった「SUPERMARKET FANTASY」までいくと、
そんなにマイナスな感情や悲壮感もなく、
もっと世の中、楽しもうよ、
よくよく世界を見ればバラ色にも捉えられるじゃんみたいな、
がんばらないプラス志向というか、
捉え方を変えれば世界は楽しいみたいな、
そういうポジティブなメッセージもあった。

ところがこの「(an imitation) blood orange」になって、
まがいものでも役に立てばそれでいいって、
随分あきらめの境地になってしまった。
自信がない人にまずは今の自分を肯定してあげることで、
自信を持たせるのにはいいのかもしれないが、
どうも自信を持たせるというより、
一時的な逃避、一時的な癒しに過ぎないようにも思えてしまう。

「本物じゃなくても君を癒せる」
「偽物」でも誰かの役に立つならそれでいい。
モヤモヤした違和感を覚えたけど、
それは忘れることにしよう。
なんか、とっても悲しい生き方だなと。

「イミテーションの木」は詞がどうのという以前に、
非常に聴き心地がいいので何度も聴いている。
そこに弱さから強さに変わる努力をしないでいいことを、
肯定するメッセージがあれば、
そりゃみんなありがたがって聴くよなと。

もう1曲気になった曲に「過去と未来を交信する男」
というのがある。
これも音的に好きなので聴いているが、歌詞を見るとすごい。
ここまでくると完全に心の病だ。

厳しい時代環境の中、明るい希望を持てず、
心の病を患ってしまう人も多いだろうし、
また殺伐とした人間関係や、
不幸な家庭環境に生まれた人も多い。
がんばれない、前向きになれないのは、
その人の生育環境にある可能性もある。
そうした人に「弱さ」を肯定するかのように、
「心配はいらない」とささやき、
「愛してくれる誰かがあなたを待っている」と説く。

なんと根拠のない楽観的なメッセージだろう!
でもそれでいいのだ。
根拠なんか考えたら、
「自分は不幸にしかなれない」と思っている人が、
「やっぱり私は幸せにはなれない運命」と余計に思ってしまう。
だから根拠なんかなくていい。
桜井さんが「心配はいらない」とささやいてくれれば、
この曲を聴いている瞬間だけは逃避ができる。

そして最終的には「愛」にしがみつくしかないのだ。
これからの厳しい時代を生き抜くには、
「愛」より個人の能力であったりスキルであったり、
「力」が必要なはずだと私は思うが、
でも「私には力なんかない!」とあきらめている人に、
努力して訓練して力つけろというアドバイスは通用しない。
そこで手っ取り早く逃避できるのが「愛」だ。

このアルバムには「愛」にしがみつく歌が多い。
「常套句」は「CANDY」に似ているよなとか、
過去の曲に似ている曲が多いわけだけど、
「常套句」はひたすら「君に会いたい」と、
一方的な想いを連呼するだけ。

でも「弱い」者同士が「愛」に逃避すれば、
共依存に陥るだけ。
なんかそういうあやうい逃げ口を、
このアルバム全体からは感じ取れてしまう。
弱いままでいい。強くなる努力は必要ない。
愛に逃げればそれでいいと。

だからその意味では先行シングルとなった3曲がやや浮く。
「祈り~涙の軌道」では、
うまくいかない自分の弱さに落ち込み、
他人から揶揄されても、でも揺るがぬ想いは持ち続けたいと、
プラス志向には踏みとどまっているし、
「End of the day」でいえば、
マイナスからのスタートを切ったとしても、
あと一歩のところまで来ているから、
もうちょっとがんばろうという前向きなメッセージは伝わってくる。

でもアルバム全体が澱んでいて、
弱さのままでいることを肯定している雰囲気が充満しているため、
アルバム全体として聴くと、
「負け組」の一時的な癒しになったとしても、
そこからプラスに転化する希望が見えてこない。
だからこそ物足りないし、曲に力強さがないし、
どれも似たような曲に聴こえてくるのかなと。

優しすぎたアルバム。
それは「HOME」の失敗でも同じ。
優しい人は傷ついたものには心地いい。
でも優しさだけじゃ人は救えない。
優しさだけじゃ物足りない。
そこにもっと力強さやエネルギーやパワーがみなぎっていないと、
傷のなめあいの優しさで終わってしまう。

「SUPERMARKET FANTASY」でミスチルは到達するところまで到達してしまった。
だから「SENSE」でもう一回、激しさを取り戻そうとしたが、
なんとなくギクシャクした感じはあって、
結果、「(an imitation) blood orange」で、
「HOME」と同じように、優しいだけのアルバムに戻ってしまった。

それを必要としている人は今の時代環境から考えると、
いっぱいいるかもしれないけど、
でもそれはその人の人生をいい方向に向かせる、
解にはならないのではないか。

ミスチルには「負け組」を「勝ち組」に変える、
楽観的でも悲観的でもない冷静な現状認識と、
でも人の弱さに触れた心情的な寄り添いと、
そこから脱するための力強い魔法のメッセージがあった。
でもそれがなくなってしまったんだな。

だからこのアルバムは「イミテーション=まがいもの」
に成り下がってしまった。
ミスチルのメンバーが歌詞カードの最後で、
ペンキぬりたくって「イミテーションの木」に自らなったように、
本物ではないけどまがいものでも、
人を癒せればいいという曲が、
このアルバムには多いような気がする。

だからミスチルが「本物」だと思っていたファンには、
受け入れがたいアルバムであるようにも思える。

まあこんなにも長く愛され続け、
人気を続けられるミュージシャンなんてまれ。
「SUPERMARKET FANTASY」のアルバムを聴いて、
あまりに素晴らしく、
「もうこれ以上のアルバムをミスチルは作れないんじゃないか」
と思ったけど、どうもそうなってしまったような気がする。
そろそろ「新しいミスチル」が出る時期なのかもしれない。


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by kasakoblog | 2012-12-02 23:41 | ミスチル

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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