フクシマがイラクになった~フォトジャーナリスト豊田直巳氏が福島映画製作
2013年 03月 31日
日本でとんでもないことが起きている。
これは海外どころではない。
福島に目を向けなければ・・・。
イラク戦争を中心に海外の紛争、難民問題の取材を続けている、
フォトジャーナリスト豊田直巳氏は、
2011.3.11以降、主な取材地を海外から福島に移した。
3.11の翌日には福島に向かい、
福島原発爆発のニュースを聞いたものの、
ためらうことなくジャーナリスト仲間とともに原発に向かった。
爆発したのだから原発に近づけなかったとしても、
危険のため道路を封鎖する立入禁止の看板1枚の写真でも、
撮れればいいという気持ちだったという。
ところがである。
原発が爆発しているにもかかわらず、
立入禁止の看板など1つもなく、
放射能汚染の危険を知らせる表示などもなく、
あっけなく原発10キロ圏内まで入れてしまった。
ジャーナリスト仲間たちもガイガーカウンターを持参していた。
豊田氏もイラクで劣化ウラン弾の取材をしているゆえ、
ガイガーカウンターを持っていた。
原発から直線距離約4キロの双葉厚生病院でのこと。
100マイクロシーベルトまで測れる広河隆一氏の計測器の針が振り切れた。
豊田氏が1000マイクロシーベルトまで測れる計測器を出したところ、
なんとこの計測器の針まで振り切れたという。
通常なら0.0☓という数字のはずだが、1000・・・。
今や福島はイラク戦争下、いやそれ以上の危険地帯となっていた。
豊田氏を知ったのは今年3月のこと。
私を映画監督に抜擢した72歳の編集者で、
映画製作責任者である矢間氏に連れられ、
高木仁三郎市民科学基金の公開プレゼンテーションに参加した。
高木仁三郎市民科学基金とは、
科学技術がもたらす問題や脅威について、
科学的な考察に裏づけられた批判のできる、
「市民科学者」を育成・支援することを目的に設立された基金。
この基金に豊田氏が応募し、プレゼンテーションを行っていた。
フクシマ映画の上映のためだ。
映画は「遺言~安全神話の果てに」と題されたもので、
現在は編集中とのこと。
豊田氏は311後、何度も福島の高放射線量地区に足を伸ばし、
取材を続けていた。
危険な放射線量にもかかわらず、
まったく封鎖されていなかった原発20キロ圏内が、
事故から1カ月以上が過ぎてやっと危険だから立ち入るなという話になり、
その後は原発から40キロ以上も離れているにもかかわらず、
放射能汚染が深刻化していた飯舘村に何度も取材するようになった。
ここは原発20キロ圏内のようにすぐさま避難が行われなかった。
ガイガーカウンターを持参して測ると異常な線量を示すにもかかわらず、
政府、自治体、官僚、電力会社が放射線量データを隠蔽していたために、
人が普通に暮らしていた場所だ。
とはいえ一ジャーナリストに過ぎない豊田氏の計測値など、
信じないとなんくせつける人もいる可能性がある。
そこで京都大学原子炉実験所の今中哲二助教と同行するなどして、
取材活動を続けた。
やっぱり高い。危険だ。
なのに一体、国や自治体や電力会社は何をやっているのか・・・。
酪農家が多い飯舘村は福島原発が立地していて、
ボロ儲けした自治体とは違い、
お金をもらったわけでもなく、雇用や経済効果があったわけでもなく、
事故のせいで廃業を余儀なくされ、被害だけを被った。
そして悲劇が起こる。
「原発さえなければ」と壁に書き残し、酪農家が自殺したのだ。
犠牲となった姉の怒りを取材・撮影していた。
ジャーナリストとしてやるべきことは記録。
しかし記録だけで悲劇の連鎖は終わらない。
原発によってもたらされた悲劇を、
記録ではなく記憶に残るよう、
感情に訴える作品を作る必要があるのではないか。
そう考えた豊田氏は福島の取材活動を続けるとともに、
映画作りにも乗り出したのだ。
タイトルは「遺言」。
自殺した酪農家の遺言をしっかり伝えなければ、
日本にまた同じ悲劇が繰り返されかねない。
公開プレゼンテーションが終わると、
参加者から「放射能の危険を訴えるなら、
データなども入れた方がいいのではないか」
という意見に対し、豊田氏は真っ向から反対した。
データなどを交えた映像なら情報番組を作るならテレビがやればいい。
NHKにはかなわない。
しかし情報番組では人々の感情に訴える記憶に残る映像にはならない。
記録や情報は大事だが、私が映画でやろうとしているのは、
感情に訴えること。
そこにデータや科学的根拠などは不要だと一蹴した。
そのきっぱりとした態度に共感するとともに、
実はまったく同じことを、
うちの映画責任者の矢間氏も言っていた。
私も同感だった。
豊田氏とは公開プレゼンテーション後に、
喫茶店で時間をとっていただき、
これまでの経歴やなぜ映画に乗り出したのか、
話を聞かせていただいた。
また3月に練馬で行われていた東日本大震災の福島の写真展も見てきた。
その写真を見てあらためて思う。
防護服に身をまとった「白装束軍団」が普通に闊歩している日本って、
とんでもない異常な事態が起きているのだと。
しかし今やすっかり原発問題は風化し、
福島だけの問題と捉えている人が多く、
他の原発を再稼働しようとする政党に、
多くの人が平然と票を入れてしまうという、
信じがたい状況が当たり前となっている。
2011.3.11の直前まで、豊田氏はチェルノブイリ取材に行っていた。
2011年でチェルノブイリ事故から25年という節目を迎えたからだ。
ご存知の通り、事故から25年たっても、
未だ線量が高いところも多く、死の町になっている場所もある。
で、日本の福島は除染などというとんでもないイカサマ行為に、
兆円単位で湯水のごとく税金を使われ、
原発メーカーやゼネコンへの「献金」と化している。
豊田氏は何度も福島を取材しているので、
映画には除染がいかに効果なく無駄であるかを、
定点観測の映像によって映画に盛り込むつもりのようだ。
豊田氏の話や写真や本を読んでひしひしと伝わってくること。
それは、ジャーナリストの敗北、ということだ。
イラクを取材し、チェルノブイリを取材し、
なぜ放射能や原発の危険を事故が起きる前に、
もっと訴えなかったのか。
3.11は、危険性を知らしめることができなかった、
ジャーナリストの敗北ではないか。
だからこそ、もうこれ以上の「敗北」は許されない。
なぜなら今度、敗北するような状況が起きたら、
日本は、母国は終わってしまうからだ。
だから豊田氏は写真、文章、映画など表現手段にとらわれず、
日本で起きた福島の悲劇を被ばくを顧みず何度となく丹念に取材し、
その記録や記憶を発信し続けているのではないか。
豊田氏ほどの危険を顧みない精力的な取材活動はしていないものの、
僭越ながら、私もまったく同じ思いがあり、
だからこそ今、映画製作にも乗り出している。
福島原発事故の記録やデータを見れば、
いかに原発が危険かなんて誰もがわかることで、
地震や津波や火山や台風など自然災害が多い日本で、
他の原発を再稼働するだとかましてや新設するなんて、
イカれているにもほどがあるが、
イカれている国民が圧倒的に多かったことが、
憲法違反の衆議院選挙で明らかになった。
だから記録やデータに訴えても、
そうした人たちを覆すことは難しいと思う。
だからきっと映画なんだと思う。
昨今のデジタル機器の進歩で、
映像作品が簡単に作れるようになったせいか、
フクシマを題材にしたドキュメンタリー映画が、
何本も作られているが、どれも観客動員はいまいちだという。
いろんな理由があるのだろうが「福島がかわいそう」という、
同情目線では問題の本質はえぐりだせないこと。
そしてもう1つは、多くの人は、原発の問題は福島だけだ、
と思っているから、他人事なんだと思う。
だから福島のテーマにした映画には関心がない。
福島の人はかわいそうだねっていうだけの映画でしょ。
確かに福島はこの先大変だけど、
でも福島がどうなろうが私には関係ないよねと。
その点、豊田氏の福島ルポや映像の一部を見る限り、
そうしたものとは一線を画していると思った。
豊田氏の映画にぜひ期待したい。
またあらためてもう多くの人が忘れているであろう、
日本で起きた福島原発事故の恐ろしさは、
岩波ブックレットのフォトルポルタージュ、
「福島原発震災のまち」豊田直巳著が詳しいので、
ぜひ一読することをおすすめしたい。
そして私は私で、福島を題材にせず、
原発の恐ろしさをあぶりだすために、
起きてしまって回復不能な今の被災地より、
今ならまだ間に合う未来の被災地の減災のために、
以前に原発を断念させた町の映画製作に励みたい。
災害は忘れた頃にやってくる。
・「福島原発震災のまち」豊田直巳著
・映画「原発を断念させた町はいま」の構想を練り、
具現化し、私を監督に抜擢した矢間氏が、
なぜこの映画を作ろうと思ったのか、4/14(日)かさこオフ会で、
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